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【取材レポート】運送業の残業代訴訟に精通した弁護士が解説!未払い残業代の現状と対策方法

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いま、運送業界で大きな話題となっているのが残業代の未払いです。クロスワークが社内で実施したアンケートでは、「担当した求職者の方から『会社に残業代を支払ってもらえない』という声を聞いたことがある」と回答したキャリアアドバイザーが9割にのぼるほど、業界全体の課題となっています。

今後、2024年問題もあり、残業代に絡む問題はこれまで以上にシビアになってくるでしょう。
そこで今回、クロスワーク・マガジン編集部は、累計相談25,800件超を誇る千葉県最大級の法律事務所、よつば総合法律事務所が主催した『「最新」の未払い残業代対策セミナー』に参加してきました。

未払い残業で起きた訴訟、その原因と対策について詳しくレポートをまとめ、最後にはセミナーで登壇された村岡つばさ先生のインタビューも記載しています。

残業代の未払い訴訟が止まらない!

近年、運送業において残業代未払い請求の訴訟が増えています。複数のドライバーから一斉に訴訟されたり、弁護士を通じて請求されたりとさまざまな方法で残業代未払いの請求が行われている状況は、運送会社を営む方々にとって決して他人事とは言えません。

請求金額はどれくらい?

請求金額はほとんどが100万円単位、多いときはドライバー1名から1000万円もの金額を請求されています。実際に裁判に負けてしまい、一企業に数百万円もの支払いが要求されたニュースは皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。

運送会社の事業者は、会社を存続させるためにも残業代未払いの訴求を何としてでも防ぐことが重要です。

現状の問題と課題を直ちに見つけ、早急な対応策を打たなければなりません。

未払い残業代対策セミナーに参加しました

今回、クロスワーク・マガジン編集部は、よつば総合法律事務所の村岡つばさ先生による『「最新」の未払い残業代対策セミナー』に参加してきました。

村岡先生は解雇、残業代、ハラスメント、労災、競業等の交渉など労務問題を注力分野とされています。

とくに運送会社の顧客を多数持ち、多数の取材実績があるなど、運送業界の労務問題におけるスペシャリストです。

なぜ運送会社で残業代の訴訟が起きているのか?

残業代の未払い自体は運送会社以外でも起きているはずです。しかしながら、実際の訴訟は運送会社に集中しています。なぜ、運送会社で次々と訴訟が起きているのでしょうか。その理由と原因は以下の通りです。

離職率が高い

勤務先を相手取った訴訟を在職中に起こす方は、なかなかいません。ほとんどの労働者は、会社の退職後に請求を行います。運送業は離職率が高く、退職する従業員の数が多いです。そのため、他業界に比べて訴訟を起こされる機会も増えるといえます。

労働時間が長い

特に長距離トラックの労働時間は長い傾向にあります。渋滞が起きてしまったり、荷物の積み降ろしの順番を待つことが日常的にあるからです。そうなると労働時間が長くなり、残業時間が伸びてしまいがちです。

労働時間に関する客観的証拠が残りやすい

タコチャート紙やデジタルチャートなど実際の労働時間が分かる資料が揃いやすいことも、請求される一因となっています。

そもそも給与体系・社内規程に問題がある

運送会社は定額残業代や歩合制を採用しているところが多いです。しかし、これらの制度の有効性は特にここ数年、裁判所で厳しく判断される傾向にあり、労働者側から「争われやすい」給与体系であることも訴訟に繋がりやすい要因でもあります。

運送会社が裁判で負ける理由

未払い残業の訴訟を起こされた場合、運送会社が負けてしまうケースが非常に多い傾向にあります。なぜ会社が裁判に負けてしまうのか、その原因は主に下記の4つです。

入社時に雇用契約書を交わしていない

入社時に雇用契約書を交わしていなかったり、労働条件通知書を交付していないと、「労使間でどのような合意があったか」が分かりません。特に固定残業代が有効とされるためには、「通常の労働部分と定額残業代とが明確に区別できる」ことが必要ですが、雇用契約書がなければ、両者を明確に区別することは困難であり、ほとんどのケースで会社が負けてしまいます。

固定残業代・歩合給の仕組み自体に問題がある

先に見た通り、固定残業代・歩合給の制度の有効性は、ここ数年、裁判所で厳しく判断される傾向にあります。固定残業代については、①そもそも残業代としての趣旨が明確ではなかったり、②基本給と明確に区別できない場合には、無効と判断される可能性が高いです。また、③長時間の残業(月80時間を超える残業)を想定して固定残業代を払っている場合にも、無効とされる可能性があります。 歩合給については、①そもそも本来的には歩合給であるものを、残業代名目で支払う場合や、②歩合給と残業代が連動する仕組みになっている場合には、有効な 残業代の支払と認められない可能性が高いです。

雇用契約書と賃金規程、給与明細が一致していない

雇用契約書の内容と、賃金規程・給与明細の内容が一致しないケースも多くあります。途中で賃金体系を変更したものの、社内規程を変更していなかったり、雇用契約書の内容が古いままになっている、というパターンが多いです。特に固定残業代が争われるような事案では、雇用契約書・賃金規程・給与明細が一致していないと、先に見た「残業代の趣旨の明確性」や、「明確区分性」に大きくマイナスになります。

給与体系の変更に対する説明を行なっていない

会社の都合で給与体系を変更する場合、多くのケースで労働者側に不利な変更となります。特に、賃金という重要な労働条件を変更するためには、労働者に十分な説明を行った上で、「真摯な同意」を得る必要がありますが、十分な説明をしないまま、漫然と従業員にサインを求めているケースがほとんどです。このような状況で、賃金の不利益変更が争点となると、ほとんど会社は負けてしまいます。

会社側はどう対策すべきか?

裁判で負けないためには、会社側が現状を変えていくしかありません。未払い残業代問題の対策として会社が行うべきことは、「給与体系の確認」と「労働実態の把握」の2点です。

1.給与体系の把握

①実労働に応じて残業代を支給している場合
固定残業代や歩合給制を導入しておらず、実際の残業時間数に応じて残業代を計算・支給している企業は大きな問題とはなりません。ただし、会社の把握している残業時間と、実際の労働時間に乖離がないかは、定期的にチェックを行う必要があります。

②固定残業代を支給している場合 
固定残業代という形で、毎月定額を残業代として支払っている場合や、「●●手当」等の名目で残業代を払っている場合には、以下の3つを確認しましょう。

  • 有効な固定残業代の仕組みと言えるか
    →残業代として支給されていることが明確か(他の趣旨・要素は混ざっていないか)、基本給部分と明確に分かれているか(給与明細の記載も重要です)
  • そもそも残業実態と固定残業代とが乖離していないか
    →未払となっている残業部分がないか、実際の残業時間より「大幅に上回る」固定残業代を支給していないか
  • 想定している残業時間が長すぎないか
    →特に、月80時間を超える残業を想定して固定残業代が支給されていると、公序良俗に反するとして、無効になる可能性がある。

③歩合給を支給している場合 

歩合給制度を導入している企業は以下の2つを確認しましょう。

  • 残業代と歩合給が連動する仕組みではないか
    →例えば、歩合給が増えると残業代が増える、残業代が増えると歩合給が減る(ただし総支給はほぼ変わらない)、というように、歩合給と残業代が連動する仕組みになっている場合は危険です。
  • 歩合的要素を含む給与を「残業代」として支払っていないか 
    →歩合は歩合、残業代は残業代と、明確に分けて考える必要があります。売上に応じて算出される「歩合的要素を含む」手当を、残業代として支払うのは危険です。

2.労働実態の確認

会社が労働時間として把握している時間と、裁判上、労働時間として認定される時間とで、大きな乖離があることが多いです。この乖離は、「待機・手待時間」を休憩時間として扱うか、労働時間として扱うかにより生じます。
  
実際に残業代請求がなされる場面では、ほとんどの労働者側弁護士は、「拘束時間=実労働時間」という主張をしてきます。そして裁判所も、労働者側の主張に近い認定を行うことが多いため、会社としては、労働時間管理についても対策をとる必要があります(詳しくはインタビューにて解説しています)。

また、労働時間の管理を放置せず、定期的に「タコグラフ」「日報」の確認、精査は必要です。実際には休憩時間も相当程度あるのに、 すべて待機として記載されているケースも多いからです。実際の勤務時間と乖離がある場合には、その都度ドライバーに修正を求めましょう。

インタビューにお答えいただきました

村岡 つばさ先生

セミナーの内容に加え、今回は村岡先生に未払い残業の問題点と解決策についてインタビューでもお話しいただきました。

編集部
数々の事例を聞かせていただき、多くの運送会社は一刻も早く対策をとるべきと感じました。ですが、現在すでに未払い残業代が発生してしまっている企業も多いはずです。そういった会社は、まず何から変えていくべきでしょうか?
村岡先生
まず大前提として、自社の給与体系、労働実態を把握する必要があります。

最初に「仮に裁判となった場合にはどの程度のリスクがあるか」を把握しないと、改定の方向性も検討できません。

①「労働時間を把握・管理していない会社」
②「把握・管理していても、会社が計上している残業時間と拘束時間の乖離が大きい会社」
③「明細上、残業代とそれ以外の手当を区別せずに支払っている会社」

のうち1つでも当てはまる場合は特に危険です。

そのほか、セミナーでもお話しした通り、定額残業代など、毎月定額で残業代を支給している会社や、歩合給と残業代が連動する仕組みとなっている会社、実態は歩合給のものを残業代扱いとして払っている会社も同様に危険です。

編集部
そもそも労務の記録を正確に取れていない場合はどうしたらいいのでしょうか?
村岡先生
前提として、会社は労働時間を適正に把握すべき義務があります。もしこれに違反している場合、裁判所は会社に非常に厳しい判断を下します。

「管理していない以上、労働者の主張に近い形で認定がされても仕方ないですよね」というスタンスです。労働者本人のメモや手帳の記載、LINEのやり取りなども労働時間の認定の証拠に有効となります。労働者主張の〇割の労働時間というように、ざっくりと認定している裁判例もあります。

編集部
そうなった場合、会社側にほとんど勝ち目はなさそうですが・・・。
村岡先生
会社としての証拠収集はなかなか難しいですが、ETC履歴は有効です。

また、出勤・退勤に関する何らかの履歴が残っていれば当然証拠になります。アルコールチェックの記録や点呼表などが挙げられます。そのほか、社用携帯のGPSの履歴が残っていればそちらも使えます。

後は取引先の受付表なども証拠として扱えます。例えば最後の配送先の受付が〇時なので、普通に考えたら〇時には帰社していた、といった主張です。ただ、取引先に迷惑をかけてしまうので、実際にはあまり活用されません。

編集部
自社で訴訟が起きているなんて、できれば取引先に知られたくないですものね。
村岡先生
事業所の防犯カメラの映像も検討することがありますが、保管期限があるため、紛争が顕在化したときにはデータが残っていないことが多いです。なお、他従業員が証言してくれるから大丈夫」という声も耳にしますが、在職中の従業員による証言は会社側として判断されるため、証拠価値は非常に低くなってしまいます
編集部
運送会社側が労働時間の過少申告をしていた場合、先ほどのお話の通り、労働者側が集めてきた証拠が有利になる理解です。では、法人視点、社員視点で労働時間の証跡として有効になり得るものはどんなものでしょうか?
村岡先生
先の部分と共通しますが、タコグラフがない場合、客観的な労働時間を裏付ける証拠がないことが多いです。労働時間把握義務の問題もあり、ほとんどが会社に不利な判断になってしまいます。

これを防ぐためには、タイムリーに労働時間を把握できるデジタコをとにかく入れましょうというアドバイスに尽きます。結局、タイムリーに1日ごとに労働時間を把握できないと、改善基準を順守できないですし、労基法改正への対応も難しくなってしまいます。

編集部
そもそも荷待ちの時間は労働時間としてカウントされるのですか?
村岡先生
荷待ちをすべて休憩時間と扱ってもらうのは、今の裁判所の考えからすると厳しいというのが現状です。ただ、荷待ち時間の実態次第では、休憩と主張することも可能です。

一番問題なのは、「いつ呼ばれるか分からない」パターンです。「準備できたら呼びます」という現場は、呼び出し時間が明確でないため、すべて労働時間として扱われる可能性が非常に高いです。

他方、受付時間が明確に決まっていたり、「〇時に来てもらえれば」と事前にある程度の時間が決まっていれば、その時間までは自由に時間を使うことができた、すなわち休憩時間と主張することは十分に可能です。

編集部
事前に動く時間が決まっているかどうかで、拘束時間の捉え方が変わるんですね。
村岡先生
また、荷待ち問題は2024年問題にもかかわってきますし、運送会社の存続にも関わる非常に重要な課題です。給与形態の見直しや労働実態の把握だけでなく、荷主の協力も仰ぎながら改善していくのが良いでしょう。

まとめ

未払い残業代は運送会社において決して無視できない大きな問題です。「今まで何も無かったから大丈夫」「多めに払っているから平気」と放置していると、後で大損害になってしまう可能性があります。

2024年問題を前にして、今後残業代は運送会社にとって大変シビアな問題となるでしょう。早急な対策をとることが、企業の存続に繋がります。

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