営業利益率とは、企業の収益性を示した数字です。その企業が安定した収益を得られるのか判断材料になるため、企業の経営に必要不可欠な情報であるのはもちろんのこと、転職の際の企業分析にも大いに役に立つでしょう。
本記事では、製造業の営業利益率の実態、製造業における営業利益率ランキングなどについて解説します。
製造業に転職を考えている方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
製造業の営業利益率の実態
営業利益率とは、企業の売り上げに対して本業でどれくらいの利益が出ているのかを示した割合のことです。
ここでの本業での利益は「営業利益」といい、売上高から売上原価や販売管理費を引いた値のことを指します。
それでは、製造業の営業利益率の実態を見ていきましょう。
製造業の営業利益率は一般的
経済産業省の調査によると、2019年、2020年の営業利益率の平均値は約3.5%でした。製造業を含めた全業界の合計が約3.5%となっており、製造業の営業利益率は一般的と言えます。
製造業全体の利益の計算方法
営業利益率の計算に必要なのは「営業利益」の値です。
営業利益とは、本業の営業活動によって生じた利益のことを指します。
売上から製造原価と商品の販売にかかる費用を差し引くことで求められます。
(売上高)-(製造原価)-(販売費及び一般管理費)=(営業利益)
売上高には、自社ビルの賃貸収入や貸付利息など、本業以外で得られた利益が含まれないことに注意が必要です。
製造原価は、材料費はもちろん、製造過程で要した人件費や設備費なども含まれます。
販売費及び一般管理費とは商品の販売のため必要な経費であり、製造原価に含まれない給料や水道光熱費、減価償却費などがこれに当たります。
製造業の利益率の目安は4.0%
経済産業省の調べによると、製造業の営業利益率は4.0%です。
これは、企業の規模に関わらず、似た値となっています。
製造業では、営業利益率4.0%が一般的と言えるため、企業経営や企業分析の目安とできるでしょう。
【業種別】製造業の利益率の目安
製造業全体としては、営業利益率4.0%が目安となりますが、製造業の中でも分野が異なれば平均値も変わってきます。
製造業の分野ごとに利益率を見ていきましょう。
衣服・繊維製品製造業
平均値 | 黒字・自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 41.3% | 41.6% |
売上高営業利益率 | -4.0% | 3.5% |
売上高経常利益率 | -2.5% | 3.2% |
自己資本利益率 | -11.1% | 90.3% |
総資産利益率 | -2.6% | 6.1% |
衣服・繊維製品製造業は、製造業界の中で売上高経常利益率や売上高純利益率が低くなっています。
国内市場の規模は、1991年を境に縮小しています。
現在は、国外から安価な製品が輸入されているため、収益を上げるのが難しくなっているのです。
食料品製造業
平均値 | 黒字・自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 40.7% | 42.2% |
売上高営業利益率 | -5.0% | 3.5% |
売上高経常利益率 | -3.1% | 3.5% |
自己資本利益率 | -0.5% | 84.3% |
総資産利益率 | -3.5% | 5.6% |
食料品製造業は、製造業界の中では利益率が低い傾向にあります。
他社との差別化が求められ、競争が激しいため、商品の種類が増える一方で大量生産できなくなってしまうため収益性が低くなってしまうのです。
また、卸売など中間業者が介入するためコストがかかることも、利益率を低下させる原因となっています。
印刷・製版業
平均値 | 黒字・自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 47.5% | 47.3% |
売上高営業利益率 | -2.0% | 3.9% |
売上高経常利益率 | -0.7% | 4.1% |
自己資本利益率 | 13.8% | 74.1% |
総資産利益率 | -0.9% | 6.3% |
印刷・製版業は、売上高総利益率は比較的高いですが、売上高営業利益率は低い傾向があります。
印刷・製販は、主に受注生産のため、顧客ごとに異なるオーダーに応えるためコストがかかり、販売・管理費が膨らんでしまうのです。
また、印刷・製販で不可欠な資材が、原油相場や為替相場に影響を受けるため、世界情勢が製造原価に大きく反映されてしまいます。
金属製品製造業
平均値 | 黒字・自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 41.1% | 42.8% |
売上高営業利益率 | -1.2% | 5.1% |
売上高経常利益率 | -0.2% | 5.3% |
自己資本利益率 | 26.4% | 61.7% |
総資産利益率 | 0.6% | 7.4% |
金属製品製造業は、製造業界のなかでは、利益率が高い傾向があります。
日本の金属製品は精度や品質が海外でも評価され、輸出量が増えているため、利益率が高くなっているのです。
反対に、国内向けの生産では、多品種少量生産が求められ、コストが高くなってしまうため、利益率低下のリスクもあるといえます。
プラスチック製品製造業
平均値 | 黒字・自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 38.5% | 38.6% |
売上高営業利益率 | -1.4% | 4.3% |
売上高経常利益率 | -0.9% | 4.5% |
自己資本利益率 | 14.1% | 72.2% |
総資産利益率 | -1.6% | 6.5% |
プラスチック製品製造業は、業界全体でみると利益率は低い傾向があります。
プラスチック製品は他の製造業の製品より安価で多くの分野で需要があるため、商品の種類が多く、利益が伸びにくいのです。
また、近年環境配慮の一環で脱プラスチックの傾向が増加していることも利益率に影響を及ぼしています。
一般機械器具製造業
平均値 | 黒字・自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 40.0% | 42.8% |
売上高営業利益率 | -3.0% | 5.4% |
売上高経常利益率 | -1.8% | 6.1% |
自己資本利益率 | 18.2% | 94.6% |
総資産利益率 | -0.9% | 7.5% |
一般機械器具製造業は、製造業界の中では、売上高営業利益率や売上高経常利益率が高くなっています。業界内では販売管理費の低減に取り組んでいる企業が多く、その結果と言えます。
近年、「製品を販売する」から「製品を利用するサービスを提供する」に変えようというサービタイゼーションが推進されているため、アフターサポートを充実させるなど製品以外の価値が付加されることで、利益を伸ばしています。
製造業における営業利益率ランキング
財務データベースに登録されている80万社の中から抽出している、2019年11月時点の営業利益率ランキングです。製造業界の中で高利益率を出す企業は以下の通りです。
順位 | 社名 | 5期平均の営業利益率 | 所在地 | 社員数 | 事業概要 | 売上高 |
1位 | ペプチドリーム | 52.5% | 川崎市 | 104名 | 医薬品候補物質の開発 | 72億1662万円 |
2位 | 成和インターナショナル | 45.2% | 町田市 | 18名 | 化粧品製造・販売 | 33億3646万円 |
3位 | アルファ | 40.8% | 沼津市 | 50名 | ヒートシンクの製造 | 23億3545万円 |
4位 | 山本漢方製薬 | 29.7% | 小牧市 | 37名 | 健康食品製造 | 66億4818万円 |
5位 | 念治錦江 | 29.6% | 八尾市 | 55名 | ステンレス部品製造 | 50億1805万円 |
6位 | エーワン精密 | 28.5% | 府中市 | 95名 | コレットチャック製造 | 20億8420万円 |
7位 | 帝王チャック | 25.5% | 八尾市 | 163名 | チャック製造 | 48億5916万円 |
8位 | ワシノ機器 | 24.6% | 名古屋市 | 92名 | 産業用配管機器製造 | 22億732万円 |
9位 | 三貴工業 | 24.5% | 雲仙市 | 100名 | 産業機械の製造 | 25億6598万円 |
10位 | アタゴ | 25.0% | 港区 | 190名 | 精密測定器製造 | 32億7956万円 |
参考:【2023年】製造業の利益率は?業種別の平均目安と企業ランキングを解説|比較biz
製造業の営業利益率の計算方法
営業利益率は、企業の収益力を見極めるのに重要な値です。企業分析で営業利益率を計算できれば、理解をより深めることができます。
ここからは、製造業の営業利益率の計算方法を解説します。
営業利益率の計算方法
営業利益率は、企業の主たる業務の収益性を示す値です。
売上高より製造や管理販売に要する経費をのぞいた「営業利益」を以下の式に当てはめます。
(営業利益率)=(営業利益)÷(売上高)×100
営業利益は、本業ではない自社ビルの賃貸や貸付など営業外損益を足し引きする前の値のため、財務活動による変動は反映されません。
企業の主たる事業の収益を示すことができます。
その他の利益率の計算方法
利益率は、売上高に対して利益がどれくらいの割合を占めるのか示す値です。
営業利益のほかにも、以下のような利益率があります。
- 売上高売上総利益率
- 売上高経常利益率
- 自己資本経常利益率
- 総資本経常利益率
各利益率の求め方を解説していきます。
売上高売上総利益率は、粗利率ともいわれ、企業の製品やサービスによって得られた利益の割合を示します。
売上高より製造原価を差し引いた「売上総利益」を用います。
(売上高売上総利益率)=(売上総利益)÷(売上高)×100
売上高経常利益率は、企業全体の収益力を示す数字です。
本業ではない不動産収入や保有している株式の配当金、借入金の支払利息など、本業ではない営業外の収益や費用を営業利益に足し引きした「経常利益」を用います。
(売上高経常利益率)=(売上経常利益)÷(売上高)×100
自己資本経常利益率とは、ROEともいい、会社の資本が効率よく運用され収益をあげられているかという運用効率を表します。投資家にとって重要な数字です。
固定資産の売却、国からの補助金など通常の事業活動では生じない臨時の利益「特別収益」と、災害の損失など臨時の損失「特別損失」を、経常利益に足し引きした「税引前当期純利益」を用います。
(自己資本経常利益率)=(税引前当期純利益)÷(売上高)×100
総資本経常利益率とは、ROAともいい、企業の総資本の運用によってどれだけ利益を生み出しているのか示す値です。
税引前当期純利益から法人税等を差し引いた「当期純利益」を用います。また、分母は、借入金など他人資本を含む「総資産」を用います。
(総資本経常利益率)=(当期純利益)÷(売上高)×100
製造業の営業利益率が低い原因
営業利益率は、企業の主たる事業の収益性を表す数字です。
企業の利益を増やすためには、営業利益率の向上を目指す必要があります。
ここでは、営業利益率が低い原因を解説していきます。
人材の最適な配置ができていない
製造業の営業利益率が低い原因の1つ目は、人材の最適な配置ができていないことです。
企業の人材には限りがあります。限られた人材を適切に配置しなければ、業務効率が下がり、結果として営業利益率が低下するのです。社員のスキルや経験、希望の配置を考慮する必要があります。
また部門の仕事内容を把握することも大切です。営業部門では、数字やマーケティングに優れた人材を欲するのに対し、生産管理部門では、人と人の間を取り持ち細かな調整を得意とする人材を必要とします。
仕事内容と人材のスキルをマッチングさせて、最適な部門に配置することで、業務効率を上げて結果として営業利益率を上げることができるのです。
原価が高い
製造業の営業利益率が低い原因の2つ目は、原価が高いことです。
製造原価は、営業利益率に直接的に影響するため、営業利益率の向上を目指すためには原価や原価率を見直すことも必要です。
製造原価とは、製品の製造にかかった費用を言い、材料だけでなく、人件費や経費なども含まれます。製造原価が売上高に対してどれくらいの割合を占めるのか示す値が、原価率です。
製造業での原価率は、80%程度が目安とされています。原価や原価率が高い場合は、改善が必要です。
- 余剰在庫を抱えないよう在庫管理を見直す
- より低コストな素材を提供する仕入先を探す
- 素材の消費量を分析し、過剰仕入を見直す
- 素材の高騰に合わせて販売価格を上げる
- 生産過程で生じてしまう不良品の原因を突き止める
原価や原価率を見直すことで、営業利益を上げて、利益率を向上させることにつながるでしょう。
システム運用保守が機能し切れていない
製造業の営業利益率が低い原因の3つ目は、システム運用保守が機能し切れていないことです。
現在、ほとんどの企業が営業支援系、生産管理、経理のシステムを導入しています。
しかし、運用保守の担い手が不足しているため、十分に機能しているとはいえない企業も多くあります。社内の全業務を網羅するシステムがなかったり、システム内の過剰なカスタマイズにより複雑化したりして、使いこなすことができなくなっていることもあるようです。
システムが充分に機能しないことで、業務の効率が落ちてしまいます。業務効率悪化の原因がシステムにあると認識することも難しく、気づかないまま経営を続けてしまうこともあります。
システム運用保守を担う人材を確保したり、各部門の業務を見直したりして、システムを十分に機能させることで、業務効率を上げることができるでしょう。
製造業の営業利益率を上げるコツ
営業利益率が低下する原因は、人的資産の活用や製造原価、業務システムまで多岐にわたります。
ここからは、営業利益率を上げるコツを紹介します。
各部門にバランスよくコストをかける
製造業の営業利益率を上げるコツの1つ目は、各部門にバランスよくコストをかけることです。
製造業では、生産性を上げようと工場にコストをかけすぎて、他の部門に充分なコストを回せないことがあります。
しかし、工場ばかりが生産性をあげるものとは限りません。営業部門は、取引先との交渉や新規取引先の獲得を担い、生産管理部門では、受注や在庫状況から素材の調達や製造工程を管理します。このように、工場以外の他部門でも、生産性をあげ、利益につなげるための投資が必要なのです。
生産性を向上させ営業利益率を上げるためには、全体にバランスよくコストをかけて、全ての部門が効率よく動けることが重要と言えます。
新規の取引先を獲得する
製造業の営業利益率を上げるコツの2つ目は、新規の取引先を獲得することです。
新たな取引先が増えれば、販売数や売上を伸ばすことができます。
製造業界では、取引先が固定されている企業もあります。営業部門が取引先との調整ばかりを行い、新規顧客の開拓に注力しない場合もあるようです。
確かに、新規開拓は、時間もコストもかかります。たとえ見つけられても少量の注文で大した収益にならないこともあります。ですが、その中にも、長期で注文を受けられる取引先が見つかる可能性もあるかもしれません。
また、新規の取引先の開拓には、自社のマーケティングが必要不可欠です。自社の製品がどんな層に需要があるのか分析して、新たな顧客層を見つけたり、宣伝広告に力を入れたりすることで、経営方針にも反映されます。
より自社製品の理解を深め、新規の取引先を獲得することで、売上を伸ばし営業利益率を向上させることが期待できます。
DX化の推進
製造業の営業利益率を上げるコツの3つ目は、DX化の推進です。
DX化とは、デジタル技術で業務の効率化を図り、働き方を改革することをいいます。
多くの会社が、受注管理や在庫管理、会計などを効率的に処理するための基幹システムを導入しています。
ですが、製造業では、システムに対する投資が充分ではありません。システムの運用保守に投資されるリソースさえも不足して、業務効率の低下を招いていることもあります。
近年、業務効率化に加えて、システムの保守運用のコスト削減を目的として、ERPシステムを導入する企業が出てきています。ERPシステムとは、部門ごとに独立していた情報管理を一元管理し、各部門を横断して情報を処理できるシステムのことです。
DX化が進むことによって、業務効率の向上や費用削減となり、営業利益率が上がることになるのです。
製造業の営業利益率は高過ぎも低過ぎも良くない
ここまで、営業利益率を上げることについて解説してきましたが、営業利益率はただ高くすればいいというわけではありません。
営業利益率が低過ぎる場合は、売上が減った場合赤字になる可能性があるため、営業利益率が低い原因を突き止め、改善していく必要があります。
反対に、営業利益率が高すぎる場合には、利益を追求するあまり、社員や顧客に負担を強いている可能性があるのです。
- 人件費を削りすぎて人離れを起こしてしまう
- 原価を抑えようとして、仕入先や下請けとの関係が悪化してしまう
- 設備投資の費用を抑え過ぎて、企業としての成長が止まってしまう
- 営業外収益が大きすぎて、投資先企業の業績悪化で資金調達に窮する
経費の削減に取り組むことは、企業として必要なことではありますが、利益率が上がるにつれて上記のようなリスクが発生することも考慮しなければなりません。
製造業の営業利益率についてのまとめ
今回は、製造業の営業利益率について解説しました。
製造業の中では業界ごとに営業利益率の平均値も変わってきます。
営業利益率は、企業の収益力を見極めるのに重要な要素の一つです。低すぎても高すぎてもリスクがあるため、注意が必要です。
製造業への転職を考えている方は、本記事を参考に業界分析をしてみてください。
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