新型コロナウイルスの影響が限定的となり、外国からの観光客が元に戻りつつある中で、深刻化しているのが「タクシードライバー不足」です。
地方の過疎地に関しても、後継者不足などによりドライバーが不足しています。
この現状を踏まえて、国内では2024年4月からライドシェアの運用がスタートする予定です。
ライドシェアにより、二種免許を持たない一般の人でも、自家用車を用いて旅客運送ができるようになります。
ドライバー不足の解消や、交通の利便性向上に期待が高まる一方で、既存の交通産業に対する悪影響や安全面を懸念する声も少なくありません。
今回は、ライドシェアの問題点について、既に運用が開始している海外の事例も踏まえながら分かりやすく解説していきます。
【この記事のまとめ】 ・ライドシェア導入に関する6つの問題点 ・海外で起きたライドシェアに関する5つの問題 ・ライドシェアに関する問題の解決策 ・ライドシェアの運用を開始することに対する国内の反応 ・ライドシェアの問題点に関するQ&A |
日本ライドシェアに関する6つの問題点
ライドシェアは、ドライバー不足の解消や交通の利便性向上に期待が高まっている一方で、さまざまな悪影響を懸念する声も少なくありません。
日本でライドシェアを導入するにあたって、具体的に以下のような問題が懸念されています。
- 事故した場合の保険や保証に関して整備されていない
- 二種免許がないので運転技術に不安が残る
- ドライバーの飲酒チェックがおこなわれない
- 乗客がドライバーに迷惑行為をする場合がある
- ドライバーが乗客に危害を加えるおそれがある
- ドライバーに対しての労働基準や収入に関して詳しく定まっていない
ライドシェアの導入で起こり得る上記問題について、解説していきます。
事故した場合の保険や保証に関して整備されていない
交通サービスを導入する上で避けて通れない問題と言えるのが「交通事故」です。
タクシー会社の場合、自賠責保険だけでなく適切な任意保険への加入が義務付けられており、ドライバーと乗客双方が保護されるようになっています。
ライドシェアでドライバーとなる人も、それぞれで保険に加入しているものの、現時点で義務付けられている規則がありません。
そのため、一般のドライバーが加入している保険の内容によっては、事故の際に十分な補償が受けられないリスクが高いと言えます。
また、乗客が車内の内装を傷つけてしまった場合の保証なども考える必要があり、補償に関する整備が不十分といった声もあります。
二種免許がないので運転技術に不安が残る
タクシーやバスのドライバーとして働くには、より高い安全性に対する配慮と運転スキルが求められます。
そのため、ドライバーになるには「二種免許」の取得が必須であり、誰でも簡単に従事できるわけではありません。
一方で、ライドシェアの場合は乗用車を運転するための「一種免許」のみで従事できるため、ドライバーの運転スキルにバラつきが出てしまいます。
2024年2月時点では、この対策としてタクシー会社が一般ドライバーの運行管理を行うことを規則として定めています。
ただし、ドライバーとして従事する上で試験などが用意されているわけでもなく、運転技術に対する懸念は解消しきれていません。
ドライバーの飲酒チェックがおこなわれない
運転技術とは別に、ドライバーの健康面に対する懸念もあります。
タクシー会社では、運行管理者による飲酒チェックを含めた体調確認や車両点検などが実施されます。
一方で、一般のドライバーに関しては、健康面に対するチェックが義務付けられていません。
タクシー会社による運行管理が行われるため、明らかな体調不良での運行は防止できるものの、安全面の低下が予想されます。
安全面に対する自覚も、プロと比較すると劣ってしまいやすく、健康管理が十分にできていないドライバーが、事業に参加してしまう可能性も十分あります。
乗客がドライバーに迷惑行為をする場合がある
タクシー業界では、乗客によるドライバーへの迷惑行為が問題となっています。
ライドシェアに関しても、同様の問題が発生すると予想されています。
一般ドライバーは、接客マナーに関する徹底した研修を受けておらず、車内の防犯対策も義務化されていません。
そのため、タクシー以上に暴言や暴行といった問題が多発するといった予想も、少なからずあります。
密室空間ということもあり、ドライバーが犯罪に巻き込まれてしまう可能性もゼロではありません。
ドライバーが乗客に危害を加える恐れがある
前述した内容とは逆に、ドライバーが乗客に危害を加えてしまうことも十分考えられます。
一般のドライバーは、徹底した研修を受けないため「ドライバーとお客様」といった感覚が薄まりやすいと言えます。
親近感をもって利用できる一方で、些細なことがきっかけでトラブルに発展する可能性もゼロではありません。
また、比較的簡単にドライバーになれるため、最初から危害を加えることを目的にしている人がいる可能性もあります。
ドライバーに対しての労働基準や収入に関して詳しく定まっていない
ドライバーの医療や休暇、収入といった待遇面を懸念する声も少なからずあります。
海外におけるライドシェアのドライバーは、個人事業主として扱われており、従来の雇用関係とは異なる条件で働いています。
ライドシェア事業を管理する事業者の元で働くものの、ドライバーに対しての待遇面の保証は一切ありません。
日本はまだまだ実証実験の段階で、具体的な取り決めは決まっていないものの、ドライバーの待遇面も適切な管理が求められています。
海外で起きているライドシェアの問題点|5選
2024年4月から運用が開始されるライドシェアサービスですが、海外では既に運用を開始している国がいくつかあります。
主な国としては「アメリカ・中国・イギリス・オーストラリア」などがあり、具体的な規則は各国で異なります。
海外でライドシェアを導入した結果、さまざまな効果があった一方で、以下のような問題も発生しています。
- 強盗や殺人事件が起きている
- ドライバーの飲酒や薬物摂取が起きている
- ドライバーの労働待遇に関する問題が起きている
- ドライバーの技術・知識不足でトラブルが起きている
- 企業同士の衝突が増えている
ここでは、実際に起きた事例を踏まえながら、各国が抱えるライドシェアの問題について解説していきます。
強盗や殺人事件が起きている
各国で発生しているライドシェアに関する問題の1つ目が「強盗・殺人事件・暴力事件」です。
【アメリカで発生した事件】 ・大手ライドシェア事業者 【中国で発生した事件】 ・中国のライドシェア最大手「DiDi Chuxing」では、2018年に2回立て続けで乗客の殺人事件が発生 |
インドでも同様の暴力事件が起こっており、ドライバーに関してはライセンスを永久に除外される処分を受けています。
DiDi Chuxingは、殺人事件をきっかけに、同じ地域に向かう乗客同士が相乗りする「ヒッチサービス」を無期限で停止しました。
ちなみに、このような事件を防止するため、各国では以下のような対策が講じられています。
【アメリカの対策】 ・ライドシェア事業者「Safr」では、女性専用のサービスを展開しており、ドライバーと乗客双方が相手の性別を選べる。 【シンガポールの対策】 ・シンガポールの配車大手Grabは、ドライバーの登録に面接を取り入れて、厳正な審査を課している |
ドライバーの飲酒や薬物摂取が起きている
日本で起こり得る問題で紹介した「ドライバーの飲酒や薬物摂取による危険運転」も海外で起こっています。
2018年には、カナダで乗客を乗せようとしていたドライバーが、直前で酒気帯び運転により逮捕されています。
明らかに様子がおかしくなければ、乗客が事前に見つけるのは難しいため、乗客の安全確保が課題となっています。
ライドシェア大手・ウーバーでは、スマートフォンの操作でドライバーが飲酒しているか判断できるシステムを、2018年に特許申請しています。
ドライバーの労働待遇に関する問題が起きている
海外におけるライドシェアのドライバーは、個人事業主扱いとされるのが一般的です。
事業者の直接雇用ではないため、保険などの保証がなく、労働待遇の悪さも問題となっています。
2018年・アメリカでは、ウーバーの元ドライバーが、失業保険の受給資格を求めて裁判を起こしました。
これに対し、ニューヨーク州労働委員会は、受給資格を認定する判決を下しています。
アメリカでは、10以上の州でライドシェアのドライバーを失業保険の対象外としているのが現状です。
ドライバーの技術・知識不足でトラブルが起きている
ドライバー運転スキルや、地理に関する知識不足が原因となるトラブルも発生しています。
ライドシェアのドライバーは、副業感覚で働く人も多く、必ずしもプロ並みのスキルや知識があるとは限りません。
ナビの活用で、一定のサービスレベルは保てるものの、各地域の時間帯によっては裏道を使った方が早く到着することもあります。
過去には、目的地までの経路で乗客とドライバーが口論になるケースも多数発生しています。
企業同士の衝突が増えている
2012年頃から、各国で導入され始めたライドシェアサービスですが、関連の法整備は国によって内容や進捗具合にバラつきがあります。
アメリカを中心に、世界中でライドシェアサービス事業を展開するウーバーも、各国の法律に抵触した過去もあります。
【フランスでの裁判事例】 ライドシェア事業者・ウーバーがフランスで「UberPop」を開始したところ、タクシー業界からの反発が強まった。 これに対しフランス政府は、未登録のドライバーがアプリを介して乗客とやり取りを行うことを禁止。 ウーバーはこれに反発したものの、最終的に多額の罰金が課せられている。 |
韓国やドイツでも、旅客輸送法違反を理由とした同じような事例が発生しています。
また、日本では2015年2月に福岡市でTNC型ライドシェアの実証実験を行った結果「道路運送法違反になる」といった声が相次ぎ、行政指導が行われました。
ここまで紹介してきた問題は、既存のタクシー事業でも発生しており、一概にライドシェアだけが悪いわけではありません。
ただし、安心安全なライドシェアサービスの導入には、過去の事例を参考にした、適切な法整備が必須と言えるでしょう。
【TNC型ライドシェアとは】 専用アプリを介して、乗客とドライバーが繋がり、乗車から決済までを完結できるサービスで、TNCサービス事業者は、仲介手数料によって収益を得るビジネス。 TNC型とは別にPHV型もあり、国が車両やドライバーに関する厳しい規制を設けており、ライセンスの取得が必要となる。 TNC型の方が利便性が良く、自由度も高い一方で安全面は低いという特徴がある。 |
参考:世界各国における自家用車ライドシェアをめぐる犯罪行為等に関する質問主意書|衆議院
日本ライドシェアに関する問題点の解決策|4選
ここまで、ライドシェアの問題点や過去に発生したトラブルを紹介していきましたが、決して危険なサービスというわけではありません。
海外のライドシェアに関しても、少なからず関連トラブルが発生しているものの、各国の法整備により、サービスの大半は上手く機能しています。
国内でライドシェアを安心安全に運行するには、以下のような対策が必要です。
- 安全運転ができるように専用講習の実施を検討する
- ライドシェアに関する明確な法規制を設ける
- ライドシェアドライバーの労働条件に関する不安定さを解決する
- デジタルシステムを取り入れて効率化を実現する
各対策の具体的な取り組みについて、解説していきます。
安全運転ができるように専用講習の実施を検討する
ドライバーの運転スキルを一定レベル以上にするには、安全運転に関する講習が必須と言えるでしょう。
国内では、乗客の安全性を考慮してライドシェアのドライバーは、タクシー会社が運行管理を行うことになっています。
実際に運用してみなければ、具体的な課題が見えてこないものの、乗務前に一定の講習を設けることは必須と言えるでしょう。
運転スキルだけでなく、接客マナーなどの講習も乗客とのトラブルを防ぐ上で重要です。
ライドシェアに関する明確な法規制を設ける
ライドシェアを安心安全に運行する上で必須と言えるのが法規制です。
具体的には「運行管理・ドライバーの保証・ドライバーの管理」などがあります。
輸送に使う車の整備やドライバーの健康状態のチェック、労働時間などに関する法規制が明確になっていけば、トラブルや事故を未然に防ぎやすくなります。
ライドシェアドライバーの労働条件に関する不安定さを解決する
ライドシェアを国内で普及させていくためには、ドライバーに対する労働条件の整備も重要です。
海外で起きている問題で解説した通り、収入や医療の保証がなくなれば、安心して働くことができません。
ちなみに、国内で2024年4月からスタートするライドシェアサービスでは「タクシー会社との雇用契約を結ぶこと」が条件となっています。
ドライバーや乗客に対する保証は、現在も話し合いが進められており、徐々に法整備が進んでいく予定です。
デジタルシステムを取り入れて効率化を実現する
ライドシェアのメリットを十分に活かすためには、デジタルシステムによる効率化が必須と言えます。
海外でも、専用アプリを使用したスマートフォンによる利用が普及しており、誰もが気軽に使えるサービスとして普及してきました。
簡単な利用システムだけでなく、ドライバーの健康管理や情報管理、トラブルの際の通報システムなど、総合的な運用システムの構築が重要です。
ライドシェアは法律で日本では禁止されている
ライドシェアは既に世界各国で導入されており、運用が始まってから10年ほど経っている国もあります。
さまざまなメリットのあるライドシェアを日本が導入してこなかった理由には「旅客運送に関する法律」が関係しています。
道路運送法78条では、原則として自家用車を有償で運送の用途に使用することが禁じられています。
そのため、ライドシェアは現状、白タクと同様に違法行為になってしまうのです。
ただし、あくまでも原則でありタクシーなどの公共交通事業が成り立たない過疎地などに関しては、必要な安全上の措置を講じれば、自家用車での有償旅客運送が認められています。
2024年4月から国内の一部地域で始まるライドシェアは、このルールに則ったものです。
ライドシェアに関する反対の意見も多くある
観光地や過疎地におけるドライバー不足解消や、交通の利便性向上といった効果のあるライドシェアサービスですが、導入を反対する声も少なくありません。
ライドシェアに反対する理由には、以下のような内容があります。
・徹底した安全管理や保証がない ・供給過多による既存の交通産業の崩壊 ・運行中に起こり得る事故やトラブルへの懸念 |
ここまで解説してきた通り、このような懸念は実際に海外で現実となっています。
各地域の交通事情や地域住民の声も取り入れた、適切な法整備が必須と言えるでしょう。
ライドシェアの問題点に関するよくある質問
最後は、ライドシェアの問題点に関する5つのよくある質問に答えていきます。
- ライドシェアは危険性が高いですか?
- ライドシェアの料金設定はどのようになりますか?
- ライドシェアの欠点は何ですか?
- ライドシェアは日本ではいつ解禁されますか?
- 白タクは違法ですか?
ライドシェアの危険性や料金設定など、サービスの詳細に関する内容ですので、今後利用するうえで参考にしてみてください。
ライドシェアは危険性が高いですか?
ライドシェアは、既存のタクシーサービスに比べると危険性が高いと言えます。
二種免許を持たない一般人がドライバーとなるため、必要最低限の運転スキルが伴っていない可能性があるからです。
また、ドライバーの健康管理も難しく、飲酒運転や居眠り運転を懸念する声も少なくありません。
ドライバーと乗客の双方が安心安全に利用できる法整備が必須と言えるでしょう。
ライドシェアの料金設定はどのようになりますか?
国内のライドシェアサービスは、まだまだ実証段階であり料金設定に関しても明確な基準が定まっていません。
2024年4月からの運用に関しては、既存のタクシー料金と同額で開始される予定です。
海外に関しては、タクシーよりも2〜3割安い料金設定が一般的です。
料金設定に関しては、既存の交通産業への影響も考慮した上で話し合いが行われていくと考えられます。
ライドシェアの欠点は何ですか?
ライドシェアの欠点には、以下のような内容があります。
・ドライバーに対する保証がない ・乗車拒否などのルールが定まっていない ・安全性が低い |
ライドシェアでは、自家用車が使用されるため、乗車可能な人数などが車種によって異なります。
喫煙車もあれば禁煙車もあり、ドライバーと乗客双方が理想としている快適な利用ができない可能性があります。
タクシー会社に所属する、ドライバーのような徹底した研修も行われないため、安全性の低さも欠点の1つと言えるでしょう。
ライドシェアは日本ではいつ解禁されますか?
2024年2月時点で、国内でのライドシェア解禁は2024年4月で調整が進められています。
全国で一斉に運用が開始されるわけではなく、一部の地域で時間が限定される予定です。
関連の法改正に関しては、運用の様子を踏まえながら同年6月までの改正を予定しています。
白タクは違法ですか?
営業許可を得ていない白タク(白ナンバーのタクシー)は違法です。
日本では、道路運送法第78条により「自家用車は原則として有償の運送に使用してはいけない」と定められているからです。
白タクでの営業が発覚した場合、300万円以下の罰金または3年以下の懲役が科されます。
2024年4月から始まる、ライドシェアに関しては「自家用車有償旅客運送」に該当するとして、一定の条件を満たしていれば違法とはなりません。
ライドシェアの問題点に関するまとめ
ドライバー不足の解消や交通の利便性の向上に期待が高まるライドシェアサービスには、問題点もあります。
「事故やトラブルの保証・ドライバーの運転スキル・密室空間での犯罪」といった内容です。
既にライドシェアが普及している海外では、実際に同じような問題が発生しています。
これらの問題を抑制するには、安全に対する講習の実施や関連法規の整備が必須と言えるでしょう。
国内では2024年4月からのライドシェア導入が決まっており、段階的に法整備が進められていく予定です。
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