新型コロナウイルスの影響が限定的となり、外国人観光客が元に戻ってきたことで、交通産業の需要が高まってきています。
その一方で、交通産業では運転手不足が問題となっており、観光バスや路線バスも例外ではありません。
バス会社では、雇用条件の引き上げや運転免許の取得支援制度の導入といった取り組みが積極的に進められている状況です。
中途採用も積極的に行っていることから、観光バス運転手への転職を検討している人も少なくありません。
そこで今回は、観光バス運転手の収入事情を中心に、仕事内容や魅力について解説していきます。
観光バス運転手の年収
別の職種へ転職する上で気になるのが「収入事情」です。
観光バス運転手の平均年収や、給与の詳細が気になる方もいるのではないでしょうか。
ここでは、観光バス運転手の年収や給与で支給される手当などを詳しく解説していきます。
平均年収は397.4万円
厚生労働省が公表した、令和4年度賃金構造基本統計調査によると、バス運転手の平均年収は397万4,000円と推計されます。
年収の詳細は以下の通りです。
・決まって支給する現金給与額:29万2,800円 ・年間賞与、その他特別給与額:46万400円 |
※企業規模10人以上のデータを参照にしています。
全産業の平均年収の中央値は423万円であるため、26万円ほど低い水準と言うことが分かります。
ちなみに、同じ運転系の職種であるタクシー運転手の平均年収は361万1,800円で、バス運転手の収入を36万円ほど下回っています。
出典:令和4年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種|厚生労働省
出典:2022年 国民生活基礎調査の概況・Ⅱ 各種世帯の所得等の状況 |厚生労働省
遠征手当や宿泊手当がでることがある
観光バス運転手の給料体系は、他の職種と基本的に同じで「基本給+各種手当」が一般的です。
手当の内容に関しては、残業などで支給される時間外手当のほか、業務に関するものには、以下のような種類があります。
・遠征手当 ・宿泊勤務手当 ・夜行手当 |
遠征手当とは、遠方に向かう運行に対して支給される手当です。
宿泊が必要な仕事を行う際は、宿泊勤務手当が支給され、早朝や深夜の運転がある業務では夜行手当(深夜手当)が付きます。
遠征手当が付く仕事には修学旅行や部活の遠征などがあり、夜行手当は都市間を行き来する夜行バスなどの業務で支給されます。
勤務エリアによって差がある
観光バスは、観光地周辺や利用者の多い都市部での需要が高い特徴があります。
そのため、同じ仕事内容でも、勤務エリアによっても年収に違いがあります。
【平均年収の高い都道府県】 1位・神奈川県:約501万円 2位・福岡県:約499万円 3位・埼玉県:約451万円 4位・京都府:約444万円 |
※令和4年賃金構造基本統計調査を参考にしています。
最も平均年収が高いのは神奈川県で、他にも都市部周辺や、国内有数の観光地がランクインしています。
【平均年収の低い都道府県】 1位・秋田県:約279万円 2位・山形県:約288万円 3位・青森県:約290万円 4位・和歌山県:約295万円 |
※令和4年賃金構造基本統計調査を参考にしています。
バス運転手の平均年収が最も低かったのは秋田県で、神奈川県と比べると約222万円の大きな差が付いています。
あくまでも平均であり、一概に地方では稼げないというわけではないものの、都市部の方が高収入を目指しやすい傾向です。
年収は50代がピーク
観光バス運転手の年代別年収は、以下の通りです。
年代 | 合計収入 |
10代 | 219万7,900円 |
20代 | 282万5,850円 |
30代 | 316万950円 |
40代 | 346万5,750円 |
50代 | 346万7,900円 |
60代 | 278万4,350円 |
上記データに時間外手当等は含まれていません。
年代別で最も収入が高かったのは50代で、次いで40代と続きます。
バス運転手は昇給や出世によって収入が上がっていくため、経験豊富な40〜50代が最も高収入になると推測されます。
観光バス運転手の年収を左右する要素
ここまで業種全体の平均年収について解説してきましたが、観光バスの仕事は運転手によって年収に大きな違いがあります。
各バス運転手の年収を左右する要素は、以下の3つです。
・繁忙期か閑散期か
・公営バスか民営バスか
・正社員か契約社員か
繁忙期と閑散期の収入の違いや雇用形態の種類など、観光バス産業の現状を踏まえながら解説していきます。
繁忙期か閑散期か
路線バスや高速バスの需要が一年中安定している一方で、観光バスは季節によって忙しさが異なります。
修学旅行の時期がある程度決まっており、観光地に関しても季節によって訪れる観光客数に、大きな差が出るためです。
正社員雇用である以上、基本給は変わらないものの、残業時間が減り宿泊勤務手当などがなくなるため、閑散期は収入が下がってしまいます。
公営バスか民営バスか
観光バスにはあまり関係ないものの、路線バスの場合は、民間企業運営の「民間バス」と地方自治体運営の「公営バス」で収入が異なります。
公営バスの運転手は、公務員扱いとなり収入が安定しており、民間バスよりも収入が高い傾向です。
ただし、公営バスでも契約社員やアルバイトの場合は、収入が低くなります。
一方で民間バスは公営バスほど収入が高くないものの、高速バスや観光バス事業への移行で収入を上げられます。
最近では、バス事業の経営悪化により、民間企業に運営が委託されるケースが増えてきている状況です。
正社員か契約社員か
観光バスの雇用形態は、正社員が基本であるものの、契約社員や嘱託社員の求人もあります。
また、繁忙期だけ働くアルバイト社員もあり、最も収入が高いのは手当や賞与の額が多い正社員です。
ちなみに、バス運転手の求人には業務委託もあり、バス会社から委託を受けて運行を行います。
業務委託の場合、運転手の運転スキルや経験を踏まえながら金額を交渉するため、正社員よりも収入が高くなる可能性があります。
異業種から観光バス運転手へ転職しようとしている場合は、正社員の求人がおすすめです。
観光バス運転手の年収を上げる6つの方法
ここまで解説してきた通り、観光バス運転手の収入は、雇用形態や所属する会社で支給される手当などによって変わります。
運転手として働きながら、全体の平均年収を超える高収入を目指すことも十分可能です。
観光バス運転手として年収を上げる方法は、主に6つあります。
・稼ぎやすい地域を選ぶ
・長距離運行や夜間運行を選ぶ
・大手に入社する
・評価を上げる
・勤続年数を積み重ねる
・転職する
ここでは、年収が上がる各方法について解説していきます。
稼ぎやすい地域を選ぶ
観光バスは、人口の多い都市部や観光地で需要が高く、勤務するエリアによって年収が変わります。
具体的には「バス運転手の平均年収の高い都道府県」で紹介した、神奈川・福岡・京都などがおすすめです。
また、都市部に近い群馬や埼玉なども平均年収は高い傾向です。
地方では稼げないというわけではないものの、希望の勤務地がなく高収入を目指したい人は、都市部や観光地の求人を探してみましょう。
また、遠方のバス会社に転職する場合は、寮の完備や引越しに関するサポートがあるかもチェックしてみましょう。
長距離運行や夜間運行を選ぶ
観光バス運転手の仕事には、主に3つの種類があります。
・県内の観光地を巡る短距離の運行 ・県をまたいで観光地へ向かう中距離の運行 ・泊りがけで向かう長距離の運行 |
運転手として働き始めて最初に従事するのは、短距離の運行が多く、仕事に慣れてくるにつれて長距離の運行へと変わっていきます。
長距離になるほど、宿泊手当や遠征手当などが付くため高収入を目指しやすくなります。
経験を積みながら長距離運行のバス運転手を目指してみましょう。
大手に入社する
令和4年賃金構造基本統計調査によると、バス運転手の企業規模別における収入は以下の通りです。
企業規模 | 合計収入 |
10~99人 | 304万7,400円 |
100~999人 | 330万5,900円 |
1,000人以上 | 352万3,100円 |
※時間外手当などは含まれていません
大手企業になるほど、ブランド力により多くの人が利用するため、売上が安定しやすい特徴があります。
また、福利厚生が充実している傾向もあるため、高収入を目指したい場合は大手バス会社への転職も検討してみましょう。
具体的には「京成バス・はとバス・阪急交通社・九州産交バス」などがあります。
求人サイトだけでなく、各バス会社の公式サイトでも求人情報をチェックしてみましょう。
評価を上げる
バス運転手は、年に数回行われる評価によって昇給があり、収入が上がっていきます。
社内での評価を上げるためには、無遅刻・無欠席はもちろん、無事故を心掛けて信頼を得ることが大切です。
業務姿勢を意識しながら、仕事に従事しましょう。
勤続年数を積み重ねる
観光バス運転手は、年功序列の会社が多く、成果によって収入が変わるようなことはありません。
そのため、1つの会社で長く勤務し続けることも収入を上げる上で大切です。
昇給による収入アップだけでなく、営業所長や本社勤務などのキャリアアップも目指しやすくなります。
転職する
観光バス運転手としてある程度の経験を積んだ場合は、さらに待遇の良いバス会社へ転職することでも収入を上げられます。
ここまで解説してきた通り「会社の規模・福利厚生の内容・勤務エリア」なども踏まえながら理想のバス会社を探してみましょう。
観光バス運転手の仕事内容
観光バス運転手の仕事は、目的地までの運転がメインであるものの、その他にもさまざまな業務をこなします。
ここでは、具体的な仕事内容や労働環境について、解説していきます。
主な仕事内容
観光バス運転手は、運行内容によって仕事の流れが異なるものの、主に以下のような業務をこなします。
・運行予定に基づいて交通情報や目的地までの経路の確認 ・乗務員と経由地や乗客の情報などについて情報共有 ・出発前の車両点検 ・営業所へ戻り、給油や洗車を行う |
観光スポットを巡る場合、交通渋滞などが起きやすいため、複数のルートを考えておく必要があります。
ほとんどの人が旅行で利用するため、楽しい車内を演出することもバス運転手の大切な仕事です。
労働環境
観光バス運転手は、コースによって勤務時間が異なるものの、乗務時間は5~6時間が一般的です。
出勤に関してはシフト制の会社が多く、旅行者が多い土日を避けて平日に休暇を取ります。
ちなみに、泊りがけのコースを担当する場合、基本的に乗客と同じ宿に宿泊します。
ただし、数時間程度で戻れる場合は、乗客を宿に届けた上で営業所へ戻ってくることも珍しくありません。
観光バス運転手になるには
観光バス運転手になるには「大型第二種自動車免許」が必須です。
学歴や経歴で特別な条件はなく、免許さえ取得すれば異業種からの転職も十分可能です。
大型二種免許の取得に関しては「資格取得支援制度」を導入している会社が多く、入社後に教習所に通いながら取得できます。
そのため、観光バス運転手の求人に応募する際は「普通運転自動車免許」だけを持っていれば問題ありません。
ただし、大型第二種自動車免許を取得するには、条件によって1〜3年の運転歴が必要です。
普通免許があれば、誰でも求人に応募できるわけではないので、注意しましょう。
大型二種免許を取得した後は、各会社で用意された研修を受けることとなり、約2〜3ヶ月ほどで運転手としての乗務がスタートします。
観光バス運転手になるメリット
観光バス運転手として働く場合、以下のようなメリットがあります。
・さまざまな観光地にいけるため飽きにくい ・お客様に直接感謝してもらえる ・長く働き続けられる |
観光バス運転手は、乗客が希望する目的地へ向かうため、路線バスのように毎日のルートが決まっていません。
さまざまな地域を運転しながら観光地を巡れるため、仕事に飽きにくいと言えます。
お客様とは一緒にすごす時間が長く、上手に旅行をサポートできた際は、直接感謝の言葉をかけてもらえることも珍しくありません。
多くの乗客の命を預かる仕事であるため、常に集中しておかなければならず大変であるものの、力仕事が少ない分長く働き続けられます。
観光バス運転手のキャリアプラン
観光バス運転手として経験を積めば、路線バスや夜行バスなどの業務にも従事できるようになります。
定年まで、現役運転手として働き続ける人もいれば、以下のような仕事に移行する人もいます。
・営業所での指導運転士 ・運行管理者 ・営業所長 ・本社での人事業務 |
運行管理者や営業所長は、バスに乗務することなく、各種事務作業や乗務員の点呼などを通じて運転手をサポートするのが仕事です。
観光バス運転手の年収についてのまとめ
観光バス運転手の平均年収は約397万円で、全産業の平均と比べると若干低い水準と言えます。
ただし、運転手によって収入に差が出やすい職種であるため、さらに高収入を目指すことも可能です。
収入を上げたい場合は、観光バスの需要が高い都市部や観光地で、なるべく大手のバス会社を選ぶようにしましょう。
観光バス運転手として経験を積めば、運行管理者や人事職といった仕事へのキャリアアップも可能です。
転職を検討している方は、今回紹介した内容をもとに求人を探すことから始めていきましょう。