近年、インバウンド需要が回復してきていることから、都市部や観光地でバス運転手不足が問題となっています。
これを受けて、各バス会社では中途採用による人材確保が積極的に進められています。
また、現役運転手の高齢化に対応するため、年齢制限を引き上げる会社も増えてきているのが現状です。
しかしながら、多くの乗客の命を預かる仕事でもあるため、年齢制限の設定で悩む事業者も少なくありません。
今回は、バス運転手の年齢制限を中心に、制限をなくすメリットやデメリットについて解説していきます。
【この記事のまとめ】 ・バス運転手の年齢制限 ・年代別における採用時の年齢制限 ・バス運転手の年齢分布 ・採用時に年齢制限をなくすメリット、デメリット ・バス運転手の年齢制限に関するよくある質問 |
バス運転手の年齢制限は60歳までが多い
バス運転手として乗務するうえで必須となる「大型自動車第二種運転免許」には、年齢の上限がなく、何歳になっても運転可能です。
2007年10月より、募集や採用に関わる年齢制限が禁止されたこともあり、バス運転手の求人に年齢制限はありません。
ただし、定年の年齢を60〜65歳にしている会社が多いことから、採用時のバス運転手の年齢上限は実質60歳と言えます。
また、60歳未満であったとしても、年齢が上がるにつれて採用基準を厳しくしていくのが一般的です。
関連記事:バス運転手は何歳まで採用される?70歳以上の高齢運転手でも働ける条件
【年代別】バス運転手の年齢制限について
前述した通り、バス運転手の採用時の年齢制限は60歳が一般的であるものの、年齢制限を超えていなければ、採用確率が変わらないというわけではありません。
60歳に近いほど、運行面のリスクを考慮して採用基準は厳しくなります。
応募者の年代別における採用時の考えは以下の通りです。
- 20代:年齢的なリスクを全く考慮しない
- 30代:年齢的なリスクを考慮せず適性を重視する
- 40代:心身ともに頑張れるかを年齢も踏まえて考慮する
- 50代:身体的な衰えに厳しいチェックが入る
- 60代:送迎バスなど一部の運行のみで採用している
各年代の年齢制限に関する具体的な考えについて、バス会社の声も踏まえながら解説していきます。
20代:年齢的なリスクを全く考慮しない
20代は、身体的な衰えがなく運行する上での問題がないため、採用時に年齢的なリスクを考えることはありません。
また、教育していく時間は十分にあるため、過去の経歴や経験も重視されない傾向です。
バス運転手に対する気持ちの強さや、将来的なキャリアプランを重視して採用を決めている会社が多いと言えるでしょう。
30代:年齢的なリスクを考慮せず適性を重視する
30代も、まだまだ身体的な衰えは少ないため、健康状態に特別な異常がない限り、年齢的なリスクを考えることはありません。
ただし、新卒のようにゆっくり教育できるほど時間がないため、これまでの経験を踏まえた適性が重視されます。
運転経験自体は必須の条件としないものの、本当にバス運転手として長く従事できるかを見極める会社が多い傾向です。
40代:心身ともに頑張れるかを年齢も踏まえて考慮する
40代になると、社会人としては中堅ポジションとなるため、バス運転手として何かしらの適性があることが必須と言えるでしょう。
運転手未経験でも採用しているものの、ゼロから頑張れる体力や気力があるかも、採用する上で重視されます。
業務の特徴を伝えた上で、本当にやっていけるのか本人に確認する会社もあります。
50代:身体的な衰えに厳しいチェックが入る
50代は、運行内容によっては乗務がつらく感じ始める年齢であるため、身体的な衰えに問題がないかを最も重視します。
また、50代で未経験者として教育していくのは難しいため、バス運転手としての経験が無ければ採用を見送るバス会社も少なくありません。
送迎バスといった、比較的体力を必要としない運行を行う会社では、採用されやすい傾向です。
60代:送迎バスなど一部の運行のみで採用している
60歳を応募年齢の上限としていることが多いため、基本的に60代を正社員として採用する会社はありません。
ただし、送迎バスや近場の観光ルートを巡る運行であれば、比較的体力を必要としないため、応募可能としている会社もあります。
60歳で定年退職した人を対象に、短時間の運行をパートとして募集するバス会社が多い傾向です。
関連記事:
・バス運転手に泊まり勤務はある?リアルな勤務形態|仕事内容と待遇
・バス運転手の連続勤務日数は13日まで|上限を守る3つの対策
バス運転手の年齢分布について
国土交通省がバス事業者にアンケートをとった結果、平成29年度における年齢分布は以下の通りでした。
20代 | 3.27%(9.18%) |
30代 | 19.23%(14.29%) |
40代 | 42.28%(52.04%) |
50代 | 31.52%(21.43%) |
60代 | 3.63%(3.06%) |
70台 | 0.07%(0%) |
※()内は女性運転手の年齢構成
参考:バス運転者の労働時間等についてのアンケート結果|国土交通省
最も多いのは男女共に40代であり、次いで多いのは50代です。
60代になると急激に少なくなっていることから、60~65歳を定年の目処としている会社が多いと予想されます。
70代に関しては、定年退職したあとに再雇用されているパート運転手と推測されます。
バス運転手の採用で年齢制限をなくすメリット
バス運転手採用時における年齢制限の緩和には、メリット・デメリットがあります。
メリットに関しては、以下のような内容です。
- 多くの応募者が集まる
- 幅広いスキルとノウハウを社内に活かせられる
- 会社のイメージ向上が図れる
なぜこのようなメリットがあるのか、具体的に解説していきます。
多くの応募者が集まる
年齢制限をなくし、60歳以上の人でも積極的に募集することで、多くの応募者が集まるようになります。
高齢になるほど運転スキルは落ちる傾向にあるものの、60歳を過ぎても普段の運行に全く問題のない運転手も少なくありません。
高齢者用に独自の健康診断を設けるなど対策すれば、リスクも減らせます。
幅広いスキルとノウハウを社内に活かせられる
年齢制限をなくし高齢者も積極的に採用することで、これまでにはないノウハウやスキルを社内で活かせる可能性があります。
バス運転手として違う会社で働いてきた経験は、若手人材にはない貴重な資産です。
高齢の運転手を採用したうえで適材適所な働き方を組み合わせられれば、他のドライバーにとって良い影響が生まれる可能性があります。
会社のイメージ向上が図れる
年齢に関係なく、経験豊富なバス運転手を雇うことは、会社のイメージ向上にもつながります。
「年齢だけで判断せず、個人の能力や適性を柔軟に考えている会社」といったイメージでみられるようになるからです。
地域の高齢者の活躍の場を設けることで、社会貢献度も高められます。
出典:その募集・採用 年齢にこだわっていませんか?|厚生労働省
60代以上の高齢バス運転手を雇用する3つのデメリット
60代以上の高齢バス運転手を積極的に雇用する場合、以下のようなデメリットがあることも理解しておく必要があります。
- 反応速度が低下して事故を起こしやすい
- 長時間運転は体力が持たない
- デジタルに対応しきれない
具体的な運行への影響など、各デメリットについて解説していきます。
反応速度が低下して事故を起こしやすい
高齢のバス運転手の採用における一番のリスクと言えるのが「交通事故」です。
高齢になるほど視力や聴力が衰えてくるため、運転中の反応速度が遅くなってしまいます。
急な渋滞や歩行者の飛び出しなど、突発的な交通状況の変化に対応できない分、事故のリスクが高まります。
60代以上の運転手向けに健康診断の内容を変えたり、特別な講習を設けたりすることで、対策できるものの、事故リスクをゼロにするのは難しいと言えるでしょう。
長時間運転は体力が持たない
高齢のバス運転手を雇った場合、乗務できる運行に制限が出てしまう可能性もあります。
観光バスや貸切バスは、遠方への運行が多く泊りがけとなることもあり、高い体力が必要であるからです。
高速バスの運転手も、都市間を行き来するため、走行距離が長く夜間の運行もあります。
このような運行は、昼間の短距離運行よりも事故リスクが高まるため、高齢の運転手は乗務が難しいと言えるでしょう。
デジタルに対応しきれない
バス業界は、人手不足の解消に向けたAI化が進められており、さまざまなシステムが導入されはじめています。
デジタル化により、従来よりも効率的な運行ができるようになるものの、新しい操作方法について都度学んで行かなければなりません。
高齢である場合、このような新しいシステムを覚えていくのは大変であり、普段の乗務で十分に活用しきれない可能性があります。
バス運転手の年齢制限に関するよくある質問
最後は、バス運転手の年齢制限に関する、4つのよくある質問に答えていきます。
- バス運転手の人手不足の原因は?
- 日本のバス運転手は何人くらいいますか?
- バス運転手の最高年齢はいくつですか?
- バス運転手の定年延長を取り入れている企業はどれくらいいますか?
バス業界の現状や年齢事情に関する内容ですので、採用方針を考えるうえで参考にしてみてください。
バス運転手の人手不足の原因は?
バス運転手の人手不足の原因は主に2つあります。
- 新型コロナウイルスの流行による現役運転手の減少
- 現役運転手の高齢化と若手人材の参入不足
新型コロナウイルスが国内で流行した際は、バスの利用者が大きく減少し外国人観光客がいなくなったため、観光バスの需要もなくなりました。
これにより、現役のバス運転手は他の職種への転職を余儀なくされる状態となり、全国でバス運転手の数が減ってしまっています。
また、現役運転手の高齢化が進んでおり、若手人材の参入が増えていないことから、人手不足がより深刻化している状態です。
近年は、新型コロナウイルスの流行が限定的になり、各地でインバウンド需要が回復してきていることから、都市部や観光地を中心に交通機関の混乱が問題視されています。
日本のバス運転手は何人くらいいますか?
日本のバス運転者の数は2023年時点で約11万1,000人です。
ちなみに、2017年度は13万3,000人ほどであり、2030年には9万3,000人まで減少するといった予想が出ています。
参考:国土幹線道路部会ヒアリング資料:公益社団法人日本バス協会
バス運転手の最高年齢はいくつですか?
現役バス運転手の最高年齢に関するデータはないものの、各バス会社では再雇用の年齢制限を引き上げる動きが広まっています。
愛知県内で路線バスを運行する名鉄バスは、2019年より再雇用の年齢制限を3歳引き上げて72歳までとしました。
そのため、70歳を超えてバス運転手を続けている人もいると推測されます。
バス運転手の定年延長を取り入れている企業はどれくらいいますか?
定年延長を取り入れた企業の数に関するデータはないものの、人手不足の解消を目的に定年を延長する動きは全国で高まっています。
国際興業、三重交通グループホールディングスといった会社が定年を60歳から65歳に引き上げました。
他にも多くの会社が同様の取り組みを進めており、60歳の定年を65歳に延長する内容が最も多い印象です。
また、前述した通り、再雇用の年齢上限を引き上げるバス会社も増えています。
バス運転手の年齢制限に関するまとめ
バス運転手の採用時における年齢制限はないものの、定年を60歳にしているバス会社が多く、60歳が上限と言えます。
60歳を超えていない場合も、体力的な衰えなどを考慮して40代後半や50代での採用は少ない傾向です。
しかしながら、高齢者を採用するメリットもあり、人手不足の解消にもつながることから、近年は高齢のバス運転手を積極的に採用する動きが高まっています。
また、定年の年齢に関しても60歳から65歳に延長するバス会社が増えてきており、再雇用年齢の引き上げも同様に進められています。
高齢のバス運転手採用には、デメリットも少なからずありますが、採用を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
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