安心安全な運行を維持するうえで、運転手の健康状態の把握は非常に重要です。
脳出血や心筋梗塞で運転手が意識を失った場合、本人はもちろん乗客の命に関わる重大事故を引き起こす可能性があるためです。
運転職に従事している場合、健康診断を受けるのは義務であり、受けなければ行政処分の対象となります。
今回は、バス運転手の健康診断に関するルールについて、分かりやすく解説していきます。
これからバス運転職に転職予定の人や、既に運転手として乗務している人も、ぜひ参考にしてみてください。
【この記事で分かること】 ・バス運転手の健康診断に関するルール ・バス運転手が受ける健康診断の内容 ・バス運転手が健康診断を受けるメリット ・バス運転手の健康診断に関するよくある質問 |
バス運転手の健康診断は義務
路線バスや送迎バスは、人々の交通手段として欠かせないものであり、毎日多くの人が利用しています。
多くの人が乗車しているため、安心安全な運行管理が欠かせません。
しかしながら、運転手の病気などが原因となった事故は、各地で少なからず発生しています。
函館市の市道で、路線バスが乗用車5台に次々と衝突し、6人がケガを負った。
路線バスは、4台の車に衝突した後も100メートルほど走行しており、再度別の乗用車に衝突した。警察が事情聴取を行ったところ、バス運転手は「運転中に体調が悪くなり、意識がもうろうとした」と供述している。
このような事態を受けて、バス運転手の健康診断は「労働安全衛生法」という法律により、義務化されています。
ここでは、バス運転手の健康診断ルールについて、分かりやすく解説していきます。
健康診断は会社側の義務
バス運転手だけでなく、全ての運転職に従事する人は健康診断が義務付けられています。
その責任は運転手を雇用する会社側にあり、3つの健康診断を受けさせなければなりません。
【運転職従事者が受ける3つの健康診断】
- 採用時の健康診断
- 定期健康診断
- 特定業務従事者が受ける健康診断
1つ目が採用時で、医師による健康診断を必ず受診しなければなりません。
なお、診断結果を労働基準監督署へ報告する必要はありません。
2つ目の定期健康診断は、1年に1回のペースで受診します。
3つ目の特定業務従事者とは、夜間勤務(22時〜翌5時)に従事する人のことで、半年に1回の健康診断が義務化されています。
健康診断の費用に関しては、事業者の全額負担が基本となっており、異常が見つかった際の二次健康診断も事業者が負担します。
健康診断の結果は、報告義務はないものの会社で5年間保存しておかなければなりません。
参考:昭和四十七年法律第五十七号・労働安全衛生法|e-GOV法令検索
定期健康診断などで異常が見つかった場合の対処法
健康診断を受けた結果、何らかの異常が見つかることがあります。
この場合、事業者は医師に対して運転手を乗務させていいのか、その際の注意点などについて意見を求めなければなりません。
心臓疾患や脳血管疾患などに関する異常であった場合は、必ず二次健康診断を受けるようにしましょう。
乗務自体に問題がなく、普段の生活に関する意見があった場合は、本人に任せっきりにすることなく、普段の点呼に項目を加えるなどしながら、健康管理します。
悪質な違反は行政処分の対象
バス・トラック・タクシーといった車両の自動車事故は、全国で発生しています。
車両サイズが大きく、バスの場合は多くの人が乗車しているため、大事故につながる危険性が高いと言えます。
運転手の健康管理が正しく行われていなかった事例もあり、これをきっかけに行政処分の対象として、以下のような内容が追加されました。
処分:初違反40日車・再違反80日車
40日車とは、40日の間、1台のバスを稼働させられないルールです。
心臓疾患や脳疾患などによる意識喪失による事故が、健康起因事故の対象です。
また、労働安全衛生法で定められた健康診断を実施していないことが判明した場合は、労働安全衛生法違反で、50万円以下の罰金が科されます。
バス運転手の健康診断の内容
運転職の従事者が受診する健康診断は、内容に関しても以下の通り項目が定められています。
- 問診
- 自覚症状及び他覚症状の有無
- 身体測定
- 血中脂質検査
- 貧血検査
- 尿検査
- 胸部X線検査
- 血糖検査
- 肝機能検査
- 心電図検査
- 血圧
過去の診断結果や受診時の健康状態にかかわらず、上記11項目を省略することはできません。
受診先によっては、有料オプションとして「胃カメラ」や「腹部超音波検査」などを追加できます。
追加分に関しては、自己負担となりますが、病気の早期発見につながりますので、気になることがある場合は、検査してもらうようにしましょう。
バス運転手が健康診断を受けるメリット
運転職に従事する人にとって義務となる健康診断ですが、定期的に受けることで以下のようなメリットがあります。
- 自覚症状のないような病気を早期発見できる
- 適切な指導により健康改善しやすくなる
- 早期発見により、短期間の治療だけで済む
- 将来の医療費が減らせる
病気の中には、自覚症状のないものもあり、健康診断することで発見できる可能性が高まります。
健康診断の結果に応じた、生活方法など適切なアドバイスも受けられるため、正しく健康改善できます。
病気は、進行するほど治すのが大変であり、治療費もかかります。
定期的に健康診断を受けていれば、進行する前に発見できるため、医療費による出費を減らすことも可能です。
ただし、健康診断を定期的に受けていれば絶対に安心というわけではありません。
普段の食生活や生活リズムに注意しながら、定期的に運動するようにしましょう。
「バス運転手の健康診断は義務」に関連してよくある質問
最後は、バス運転手の健康診断に関する、3つのよくある質問に答えていきます。
・バス運転手は健康診断を年2回受ける必要がある?
・入社時に受ける健康診断の種類は?
・健康診断を受けるのが1ヶ月遅れたけど大丈夫?
・乗務中に運行を中止すべきかを判断する主な症状は?
適切な健康診断を受けなければ、法律違反になる可能性があるため、必ず理解しておくようにしましょう。
バス運転手は健康診断を年2回受ける必要がある?
バス運転手は、必ず健康診断を年に2回受けなければならないわけではありません。
入社時に受診する健康診断を除いた、定期健康診断は年に1回のペースで問題ありません。
そのため、入社した年以外は基本的に年1回のペースで健康診断を受けます。
ただし、22時〜翌5時の時間帯に勤務時間が被っている「特定業務従事者」の場合は、半年に1回のペースで健康診断を受ける必要があります。
ちなみに、特定業務従事者は、深夜業務が1週間に1回以上または、1ヶ月に4回以上行っている人が該当します。
入社時に受ける健康診断の種類は?
運転手として会社に入社した際に受ける健康診断では、以下のような検査が行われます。
問診 | ・他覚症状や自覚症状の有無 ・業務歴や既往歴の調査 |
測定 | 身長、体重、腹囲、視力及び聴力 |
検査 | ・血液検査 ・血圧測定 ・胸部エックス線検査 ・尿検査 ・心電図検査 |
ちなみに、入社する3ヶ月以内に前の会社で健康診断を受けていた場合は、その結果を利用することもできます。
健康診断を受けるのが1ヶ月遅れたけど大丈夫?
定期健康診断は、1年に1回の受診が義務付けられていますが、繁忙期などで少し遅れた場合は法令違反となります。
労働安全衛生規則で「1年以内ごとに」と定められているためです。
1年を目処に暇なタイミングで受けるといったことはできませんので、注意しましょう。
乗務中に運行を中止すべきかを判断する主な症状は?
健康診断を定期的に受けていたとしても、100%病気を防げるわけではありません。
それまで何も異常がなかったのに、急に症状が現れることもあります。
乗務中に症状が現れた場合は、一時停車したうえで、営業所へ連絡するようにしましょう。
具体的な症状は、以下の通りです。
脳疾患 | ・片方の手足や顔がしびれる ・ふらふらして呂律が回らない ・言いたいことが言葉として出てこない ・片方の視野が欠けたりぼやける |
心臓疾患 | ・胸が痛く圧迫される感じがする ・足がむくんで呼吸がしにくい ・脈が飛んだり、動機がする ・胸部の不快感がある |
乗務中に現れる症状ではないものの、運転手の居眠り運転に大きく影響していると言われているのが「睡眠時無呼吸症候群」です。
十分な睡眠時間を取っていても、睡眠の質が悪く十分に脳や体が休めていない状態が続きます。
夜間にいびきをかきやすく、息が止まったり、何度も目が覚めたりする場合は病院で見てもらうようにしましょう。
睡眠時無呼吸症候群は、耳鼻咽喉科や呼吸器内科で対応してもらえます。
「バス運転手の健康診断は義務」についてのまとめ
大型車両で多くの乗客を輸送するバス運転手は、安心安全な運行のため、健康診断の受診が義務化されています。
入社時の健康診断のほか、1年以内に1回の定期健康診断、夜間帯に働く特定業務従事者が半年に1回受ける健康診断の3種類があります。
また、診断内容にも指定があり、結果に異状があった場合は内容に応じて適切に対応しなければなりません。
健康診断を定期的に受けることで、自覚症状のない病気を発見したり、病気の進行を防げます。
バス運転手は、シフト制が主流であり生活リズムを維持するのが大変な仕事です。
健康診断だけでなく、普段の生活から健康を意識してすごすようにしましょう。
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