テールゲートリフターは、カゴ台車やパレット荷物をそのまま積み降ろしできる装置です。
手積みなどによるドライバーの負担がなくなり、積み降ろしの時間短縮にもなるため、多くの運送会社で導入されています。
普及が進む一方で課題となっているのが、テールゲートリフター関連の事故です。
安全な配達を目指す上で、事故事例の周知や事故防止対策の理解は必須と言えます。
今回は、テールゲートリフターの事故事例や防止策、関連する法律の改正について解説していきます。
【この記事でわかること】 ・テールゲートリフターの事故の発生状況や主な原因 ・過去に発生したテールゲートリフターの事故事例 ・テールゲートリフターによる作業中の事故防止策 ・テールゲートリフターに関する法律の改正内容について |
テールゲートリフターの事故原因:昇降時の転落が最多
労働安全衛生総合研究所の分析によると、平成27年に発生したトラック運送に関連する事故原因は以下の通りです。
事故原因 | 具体的な作業内容 |
荷台への昇降時の転落:40% | 荷台から降りる際や任意の飛び降り、荷台へ上がるときの転落 |
その他:18.4% | その他作業 |
荷物上での作業:9.7% | 荷台に積み込んだ荷物の固定や固縛中に発生した転落など |
あおり使用時:8.5% | あおりのロック不良や手足等の引掛かり |
天候の影響:8.3% | 作業中の強風や道路凍結による転倒など |
シート掛け作業:8% | 荷物にシートをかけている際の転倒など |
作業者の後退中:7.1% | 荷台端部からの転落や転倒 |
トラックによる荷物配達中、最も多いのが荷台への昇降時の転落であり、テールゲートリフターによる作業もこれに関係しています。
テールゲートリフターを含む事故による死傷者数:約1.5万人
令和元年に発生した、トラック運送に関する労働災害の死傷者数は以下の通りです。
・災害発生率:8.55(全産業平均は2.22) ・死亡者数:101人(平成29年と比較して36人減少) ・死傷者数:15,382人(平成29年と比較して676人増加) |
死亡者数は緩やかに減少してきているものの、死傷者数は年々増加傾向にあります。
出典:陸上貨物運送事業における労働災害防止に向けた一層の取組みについて|厚生労働省
テールゲートリフターの事故発生の件数:約500〜650件
トラック運送事業では、さまざまな労働災害が各地で発生しています。
労働災害の原因として全体の4割をしめているのが、テールゲートリフターの利用を含む「荷台への昇降時の転落」です。
ここでは、テールゲートリフターに限定した労働災害の発生状況やその内容について、詳しく解説していきます。
事故件数
テールゲートリフターに関する労働災害の調査は、過去に労働安全衛生総合研究所が行っています。
結果、2011年と2012年に発生したテールゲートリフター関連の事故件数は、558~632件にも及ぶことが分かっています。
別の調査では「ロールボックスパレットの取扱作業中の労働災害」についても調査が行われています。
その調査結果によると、ロールボックスパレット取扱作業中に起きた災害の発生場所で最も多かったのがテールゲートリフターで、全体の約2割を占めていました。
参考:テールゲートリフター使用に起因する労働災害の分析|労働安全衛生総合研究所
参考:陸上貨物運送事業における労働災害発生状況|港湾貨物運送事業労働災害防止協会
【年齢別】テールゲートリフターを含む事故の発生状況
テールゲートリフターに関連する労働災害を含む、トラック運送事業の事故は、年齢別でみた場合にも傾向があります。
全産業の労働災害発生状況も踏まえながら、詳細について解説していきます。
発生状況:4つのタイプ
テールゲートリフターの作業中に発生した労働災害は、主に4つのタイプに分けられます。
・テールゲートリフターからの転落や転倒、または飛び降り ・テールゲートリフターからの荷物の転落や転倒、下敷き ・テールゲートリフターからの荷物及び作業者の転落や転倒 ・テールゲートリフターと荷台やプラットフォームの間に挟まれる |
テールゲートリフターを使った荷物の配達は、街中でも頻繁に行われています。
時には傾斜のある道路で積み降ろしを行うこともあり、テールゲートリフターの昇降中に発生する振動などにより、荷物の転倒や転落が発生しています。
また、荷物の転倒を防ごうとした作業者が、下敷きになってしまう災害事例も少なくありません。
参考:テールゲートリフター使用に起因する労働災害の分析|労働安全衛生総合研究所
墜落・転落災害
トラック運送業で多発している、転落や転落による災害を年齢別でみると、以下のようになっています。
【2019年度・墜落・転落災害の年齢別・年千人率】
年齢 | トラック運送業 | 全産業 |
19歳以下 | 0.8 | 0.1 |
20~24歳 | 0.9 | 0.2 |
25~29歳 | 1.0 | 0.1 |
30~34歳 | 1.4 | 0.2 |
35~39歳 | 1.6 | 0.3 |
40~44歳 | 1.9 | 0.3 |
45~49歳 | 2.6 | 0.4 |
50~54歳 | 3.0 | 0.4 |
55~59歳 | 3.3 | 0.5 |
60~64歳 | 3.4 | 0.6 |
65歳以上 | 2.3 | 0.6 |
年千人率とは、1年間の労働者1,000人当たりに発生した死傷者数の割合を示したものです。
トラック運転手は、体を動かす業務が多いだけでなく、現役運転手の平均年齢が高いこともあり、全産業よりも高い数値となっています。
出典:陸上貨物運送事業における労働災害防止に向けた一層の取組みについて|厚生労働省
転倒災害
次に転倒災害の年齢別・年千人率の詳細です。
【2019年度・転倒災害の年齢別・年千人率】
年齢 | トラック運送業 | 全産業 |
19歳以下 | 1.25 | 0.3 |
20~24歳 | 1.1 | 0.2 |
25~29歳 | 0.7 | 0.2 |
30~34歳 | 0.8 | 0.3 |
35~39歳 | 1.0 | 0.3 |
40~44歳 | 1.1 | 0.3 |
45~49歳 | 1.3 | 0.4 |
50~54歳 | 1.7 | 0.6 |
55~59歳 | 1.6 | 0.8 |
60~64歳 | 1.8 | 1.1 |
65歳以上 | 1.5 | 1.2 |
転倒に関しても、年齢が高くなるほど災害数が増える傾向にあるものの、転落に比べると比較的少ないことが分かります。
出典:陸上貨物運送事業における労働災害防止に向けた一層の取組みについて|厚生労働省
動作の反動・無理な動作災害
【2019年度・無理な動作などによる労働災害の年齢別・年千人率】
年齢 | トラック運送業 | 全産業 |
19歳以下 | 2.25 | 0.2 |
20~24歳 | 1.7 | 0.2 |
25~29歳 | 1.6 | 0.2 |
30~34歳 | 1.4 | 0.3 |
35~39歳 | 1.3 | 0.3 |
40~44歳 | 1.4 | 0.3 |
45~49歳 | 1.3 | 0.3 |
50~54歳 | 1.6 | 0.4 |
55~59歳 | 1.2 | 0.4 |
60~64歳 | 1.3 | 0.4 |
65歳以上 | 0.6 | 0.3 |
無理な動作による労働災害に関しては、若い年代の労働災害発生率が高い結果となっています。
上記に関しては、若い年代ほど経験が浅く、「急いでいる時に無理をしてしまいがちだから」と推測されます。
出典:陸上貨物運送事業における労働災害防止に向けた一層の取組みについて|厚生労働省
テールゲートリフターの使用を含む事故事例と5つの防止策
トラック運送業では転落や転倒、無理な動作による労働災害が多く発生していますが、具体例には以下のような事例があります。
・トラックや荷台からの墜落・転落
・トラックの荷台での荷崩れ
・フォークリフトの使用
・トラックの無人暴走
・トラック後退時のミス
なぜこのような事故が発生しているのか、具体的な防止策も踏まえながら解説していきます。
トラックや荷台からの墜落・転落
荷物の積み降ろし中によく発生する労働災害の1つが、荷台やテールゲートリフターからの落下です。
テールゲートリフターの床の広さを見誤ってしまい、あると思っていた箇所に床がなく、下に転落するといったケースです。
また、テールゲートリフターに荷物を乗せて昇降させている最中に、振動などにより転落するケースも発生しています。
これらの災害を防止する対策としては、万が一転落した場合に備えて、必ず保護帽を着用することが大切です。
また、事故事例について運転手に周知した上で、急いで作業を行わないように意識させるようにしましょう。
出典:陸上貨物運送事業における労働災害防止に向けた一層の取組みについて|厚生労働省
トラックの荷台での荷崩れ
トラックの荷台での荷崩れも、多発している労働災害の1つとなります。
運搬が終わり、荷下ろしのために荷物の固定ベルトを外した瞬間に、バランスを崩した荷物が崩れてくるといった事例です。
荷物の積み込み作業が終わった後の、固縛作業時にも注意が必要です。
また、テールゲートリフターの場合には、昇降中の振動によって荷物が傾いてしまい、下敷きになるような事例が多発しています。
「荷物が傾かないように」と、荷物と一緒に作業員がリフトに乗り込んで昇降させることも多く、荷物と一緒にバランスを崩し転倒する事例も発生しています。
このような災害の対策法としては、固縛ベルトを緩める前に荷物が荷崩れしていないかを確認し、ベルトを一気に緩めないようにしましょう。
テールゲートリフターの場合には、なるべく傾斜のない場所での積み降ろしを行うことが大切です。
また、荷物がバランスを崩しても、絶対に下から支えないようにしましょう。
出典:陸上貨物運送事業における労働災害防止に向けた一層の取組みについて|厚生労働省
フォークリフトでの巻き込み
トラックへ荷物を積み込む際に、最も使用されているのがフォークリフトです。
中にはタイヤの直径が人間と同じくらいの大きさの車両もあり、周辺での作業には注意が必要です。
過去に発生した事例としては、フォークリフトによる不安定な荷物の積み込み時に、荷物がバランスを崩し、誘導していたドライバーが下敷きになる事故です。
また、急にバックしてきたフォークリフトと、人が接触する事故も多発しています。
テールゲートリフターによる積み込みでは、フォークリフトを使用しないものの、周辺で作業している場合には、周りをよく見て作業するようにしましょう。
出典:陸上貨物運送事業における労働災害防止に向けた一層の取組みについて|厚生労働省
坂道でサイドブレーキをかけ忘れて無人暴走
街中での配送などでよくある災害が、トラックの無人暴走によるものです。
坂道でしっかりブレーキをかけておらず、テールゲートリフターでの作業中に、トラックが動き出してしまい轢かれるといった事例です。
また、雪道の場合には、ブレーキをかけていても動き出す可能性があります。
前述した荷物の落下を防ぐためにも、傾斜のある箇所での積み降ろしはなるべく避けましょう。
どうしても作業しなけれ場ならない場合には、輪止めも必ず併用することが大切です。
出典:陸上貨物運送事業における労働災害防止に向けた一層の取組みについて|厚生労働省
トラック後退時の資格が悪く挟まれる
トラック後退時に関する災害も、全国で発生しています。
具体的には、後退の誘導中に後ろに電柱や壁があり、トラックとの間に挟まれてしまう事例があります。
また、集積所などで降ろした荷物を動かしている際に、後退してきた別のトラックと接触するといった事例です。
これらの災害を防ぐには、誘導者は必ず運転手から見える場所で誘導を行い、移動する際には周りをよく確認することが大切です。
死角から出てくる場合には、特に注意しましょう。
テールゲートリフター中に発生した災害としては、夜間や早朝の積み降ろし中に、トラック後部に車が衝突してきたといった事例も起きています。
出典:陸上貨物運送事業における労働災害防止に向けた一層の取組みについて|厚生労働省
テールゲートリフターの事故防止策|4選
テールゲートリフターによる事故を防止するには、以下のような事故防止策を行うようにしましょう。
・昇降板のキャスターやカゴ台車のストッパーを使用する
・傾斜のない箇所を選び、三角コーンを配置する
・地面を背にした後退りの状態でリフトに乗らない
・荷物のバランスを事前にチェックする
具体的な事故防止の作業内容について解説していきます。
昇降板のキャスターやカゴ台車のストッパーを使用する
テールゲートリフターには、昇降中に貨物が転落しないようにキャスター(ストッパー)が四方に備え付けられています。
また、ロールボックスパレットといった下にキャスターがついている台車も、動かないようにするストッパーがついています。
テールゲートリフターに乗せて昇降させる場合には、必ずどちらにもロックをかけるようにしましょう。
傾斜のない場所を選び三角コーンを配置する
傾斜のある場所では、トラックが傾いているだけリフターも傾いており、ちょっとした振動でも荷物が転倒しやすくなっています。
”どこまでなら安全”という明確な線引きは難しいですが、なるべく傾斜の場所で積み降ろしを行いましょう。
また、周辺の歩行者に危害が及ばないためにも、必ずトラックの周りには安全確保のための三角コーンを設置します。
地面を背にした後退りの状態でリフトに乗らない
積み降ろしする荷物が不安定であり、作業者が一緒にリフトに乗り込む場合には、地面を背にして後退りの状態にならないようにしましょう。
作業者がトラックの荷台側にいるようにすれば、荷物の転倒による下敷き事故を防止できます。
リフターが地面に接地した状態で、荷物を降ろす場合は、前に人がいる可能性があるため、カゴ台車を引っ張るような形で降ろすようにしましょう。
荷物のバランスを事前にチェックする
荷物が積み込まれたカゴ台車をリフターで昇降させる場合、中の荷物がバランスを崩しているなどして、転倒しやすくなっている可能性があります。
リフターに乗せる前には、軽くカゴ台車を揺さぶるなどして、バランスが悪くないかチェックしましょう。
また、転倒してきた時のために、なるべく離れて操作するようにします。
ちなみに、テールゲートリフター車以外のトラックに関しては、昇降時の転落防止のため後部や側面に、格納式のステップを設置するなど対策してみましょう。
リヤフレーム部に、グリップを取り付けることも有効な対策と言えます。
出典:テールゲートリフターを安全に使用するために |厚生労働省
テールゲートリフターの事故防止に向けて特別教育が義務化
テールゲートリフター車の普及と共に、事故が多発していることもあり「労働安全衛生規則」などが一部改正されました。
ここでは、特別教育の具体的な内容について、詳しく解説していきますので、事前に準備を進めていきましょう。
学科4時間・実技2時間の受講が必須
テールゲートリフター使用者に対する特別教育では、以下のような内容の講習が定められています。
特別教育の科目 | 講習の内容 | 講習時間 |
テールゲートリフター作業に関する知識 | ・テールゲートリフター整備や点検の方法 ・テールゲートリフター構造や取扱方法、種類 |
2時間 |
テールゲートリフターに関する知識 | ・荷物の種類や台車の構造及び種類 ・保護具の着用や災害防止 |
1時間30分 |
関係法令 | ・法令及び安衛則中の関連条項 | 30分 |
実技教育 | ・テールゲートリフターの操作方法 | 2時間 |
合計で学科4時間、実技2時間の講習となります。
安全教育は基本的に自社で行うことと定められており、講師に関しては作業経験が豊富でテールゲートリフターの知識が豊富な人であれば誰でも問題ありません。
ただし、どうしても自社で資料を作成したり、講師の選定をしたりするのが難しい場合には、社外で特別教育を受けることも可能です。
弊社では「eラーニングによる特別教育」が受けられるサービスを提供しています。
学科4時間に対する講習を行っており、教育記録の記載や管理、修了証の発行もできます。
パソコンだけでなくスマホやタブレットにも対応しており、個別での受講にも対応可能です。
詳細に関しては、以下の特別ページをご覧ください。
義務に違反したら罰則を受ける
特別教育は、テールゲートリフターを使用する作業者全員が受講の対象となります。
また、事業者は受講者の受けた科目や名前などの記録を作成し、3年間保存しなければなりません。
これらのルールを守らなかった場合、労働安全衛生法違反となり、50万円以下の罰金や半年以下の懲役が科せられます。
その他の規則改正
特別教育の詳細について解説しましたが、他にも3つの改正が行われており、令和5年10月1日より施行となっています。
改正点1・保護帽の着用義務が適用されるトラックの範囲に、最大積載量2t以上5t未満で、テールゲートリフターが搭載されている車両の追加 改正点2・最大積載量が2t以上のトラックで荷物を積み下ろす際に、昇降設備(格納式のステップなど)の設置が義務化 改正点3・運転位置から離れる場合、エンジン停止が義務であったものの、テールゲートリフターによる操作の場合にはこの義務が除外となる |
既にテールゲートリフターによる配達を行っている場合、これらの改正点に沿った作業を遵守しましょう。
関連記事:テールゲートリフターとパワーゲートの違いは商標名か否か
関連記事:テールゲートリフター特別教育を実施しない場合の罰則とは?
テールゲートリフターの事故についてのまとめ
テールゲートリフターに起因する災害は全国で多発しています。
主な災害内容としては、リフターからの転落やバランスを崩した荷物の下敷きなどの事例があります。
これらの災害を防ぐためには、今回紹介した事故事例の周知と、適切な事故予防対策が必須と言えるでしょう。
テールゲートリフターを活用する際には、なるべく傾斜のない場所で作業を行い、備え付けのキャスターなどで荷物の転落を防止しましょう。
特別教育を行うことにより、事故事例や注意点の周知もできます。
正しい作業により、安心安全な運行を続けられるようにしていきましょう。
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