ライドシェアとは、一般のドライバーが自家用車を使って乗客を配送するサービスです。
交通の利便性が向上するだけでなく、タクシードライバー不足の解消にもつながります。
ライドシェアは、2012年頃から各国で導入が始まり、今ではさまざまな国で普及しています。
一方で、日本は運用実績がなく2024年4月より、ようやく一部の地域で限定的にライドシェアが開始されます。
報道などを見て「なぜ今になってライドシェアが解禁となったのか」と、疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
今回はライドシェアが2024年4月より解禁される理由を中心に、運用に関する条件や関連の法律も解説していきます。
【この記事で分かること】
|
ライドシェアの解禁は2024年4月から
ライドシェアの導入をめぐる話し合いは以前から政府内で行われていました。
そんな中、2023年12月20日に行われたデジタル行財政改革会議で「2024年4月よりライドシェアを解禁する」と、岸田文雄元首相が発表していました。
国内初の取り組みで、導入効果が不透明であることから、まずは実証実験のような形で一部の地域のみでサービスが解禁されます。
その後に関しては、6月までにアプリ事業者などの参入があり、より具体的な法整備が進められていく予定です。
参考:「ライドシェア」24年4月に限定解禁 全面導入に業界抵抗|日本経済新聞
ライドシェア解禁に至った3つの理由
これまで導入が見送られてきたライドシェアサービスが、解禁されることとなった主な理由は3つあります。
- タクシー業界の人手不足
- 地方の過疎化
- インバウンド対策
ここでは、上記3つの理由について国内の交通事情を踏まえながら解説していきます。
タクシー業界の人手不足
ライドシェアサービスを解禁することになった1つ目の理由が「タクシー業界の人手不足」です。
タクシー業界は、平均年齢が他の業界と比べて高く、団塊世代の引退によりドライバーが大きく不足すると懸念されていました。
そのような中で、ドライバー不足をより大きく加速させることとなったのが「新型コロナウイルスの世界的流行」です。
外での飲食を控える動きが強まり、海外からの旅行客も激減したため、タクシー業界は大きな打撃を受けています。
これをきっかけに、業界内では引退や別業界へ転職するドライバーが急増しました。
「全国ハイヤー・タクシー連合会」が公表したデータによると、新型コロナウイルスが流行した頃からのドライバーの推移は以下の通りです。
年月 | 法人タクシーの乗務員数 |
2019年3月 | 29万1,516人 |
2021年3月 | 約26万人 |
2023年3月 | 23万1,938人 |
5年の間で約2割も減少しており、新型コロナウイルスの影響が限定的となった今では、観光地や過疎地を中心にドライバー不足が深刻化しています。
地方の過疎化
ライドシェアを解禁する2つ目の理由が「地方の過疎化」です。
日本では、人口減少に伴う地方の過疎化が深刻化しており、経営悪化により、多くの交通事業者が撤退を余儀なくされている状況です。
地方に住む高齢者の交通手段がなくなり、生活に支障が出始めている状況で、高齢者の自動車運転による事故も問題となっています。
この解決策として、政府では個人タクシーの活用を考えており、ライドシェアが解禁されるきっかけとなりました。
ライドシェアであれば、大掛かりな会社を立ち上げる必要もなく、車両もわざわざ準備する必要がありません。
インバウンド対策
ライドシェアを解禁するきっかけとなった最後の理由が「インバウンド対策」です。
「タクシー業界の人手不足」でも解説した通り、国内では新型コロナウイルスの大流行がきっかけで、タクシードライバーの数が流行前と比べて2割ほど減少しました。
近年では、新型コロナウイルスの影響も限定的になりつつあり、海外からの旅行者が元に戻ってきています。
結果、以前よりもタクシードライバー不足が深刻化しており、既存のタクシー業界だけでは対応できないほどの状況です。
また、京都などの観光地では交通機関が需要に追いついておらず、土日・祝日を中心にタクシー乗り場での大混雑が問題となっています。
これらの問題を解決するため、今まで導入が見送られてきたライドシェアが解禁されることになりました。
ライドシェア解禁に伴う3つの条件
ライドシェア解禁による、ドライバー不足の解消や交通の利便性向上に期待が高まっています。
一方で、既存の交通産業への悪影響や、乗客の安全性、ドライバーへの補償面を懸念する声も少なくありません。
そこで政府は、2024年4月のライドシェア解禁にあたり、3つの条件を設けています。
- タクシー会社が運行管理や配車をする
- タクシー不足の地域・時間帯に限定する
- 事故が起きた場合の責任はタクシー事業者が取る
ここでは、各条件の詳細について、懸念材料も踏まえながら解説していきます。
タクシー会社が運行管理や配車をする
2024年4月から解禁されるライドシェアサービスは、タクシー会社が運行管理や配車などを担当することになっています。
海外のライドシェアサービスは、専用アプリを通じて直接ドライバーと乗客が繋がれるシステムが一般的です。
今回、このような条件が設定された理由としては「サービスの安全対策」が関係しています。
ライドシェアサービスは、二種免許を持たない一般のドライバーも参加できることから、運転スキルや安全に対する意識の低さが懸念されています。
安全な運行に欠かせない、乗務前の車両点検や点呼も義務付けられていないのが現状です。
これらの課題を解決するため、ドライバーはタクシー事業者が雇用する形となり、運行管理も事業者が行います。
タクシー不足の地域・時間帯に限定する
ライドシェアサービスは、国内どこでも利用できるわけではなく、タクシーが不足している地域と時間帯のみで解禁されます。
この理由としては、道路運送法第78条が関係しています。
本来、国内では自家用車を用いて有償で旅客運送をしてはいけません。
そのため、事業許可を得ていない白タクはもちろん、ライドシェアのドライバーも違法です。
ただし、過疎地などでドライバーが不足しているような状況に限り、二種免許を持たない人でも一定の資格を満たせば自家用車での運送が認められます。
これは「自家用有償旅客運送制度」という法律で、内容が見直されたことでライドシェアが解禁可能となりました。
そのため、タクシー不足の地域や、時間帯のみでライドシェアが許可される形です。
地域や時間を限定する理由には、既存の交通産業を保護する狙いもあると考えられます。
運事故が起きた場合の責任はタクシー事業者が取る
外国のライドシェアサービスでは、万が一交通事故を起こした場合、ドライバーが個人的に加入する保険で補償が行われます。
一方で、2024年4月から開始する日本国内のライドシェアサービスでは、ドライバーの運行管理だけでなく、事故の際の補償もタクシー会社が対応することになっています。
個人ドライバーの中には、十分な保険に加入していない人もいるため、乗客に安心して利用してもらうための条件設定と考えられます。
ちなみに、外国でのライドシェアに関してのルールは各国で異なり、事故の際に十分な補償が受けられるように、保険加入の審査が行われるのが一般的です。
ライドシェア解禁:白タクは道路運送法第78条で原則禁止
ライドシェアが解禁されるからといって、自由に自家用車でタクシー業務を行えるわけではありません。
ライドシェア解禁の条件で解説した通り「道路運送法第78条」により、自家用車を用いた有償の旅客運送は禁止されています。
事業許可を得ていない白タクと同じ扱いとなり、発覚した場合は300万円以下の罰金若しくは、3年以内の懲役が科されることになります。
「自家用有償旅客運送制度」のもとで、タクシー不足が認められた地域のみ、ライドシェアサービスを提供できます。
ライドシェアの解禁論に関連する内容|3選
ライドシェアの解禁は賛否両論で、反対する声も決して少なくありません。
- ライドシェア解禁論の全くダメな4つの理由について
- ライドシェア解禁論に「まずタクシー規制緩和を」第一交通社長の訴えについて
- Uber Japanがタクシー会社への導入支援を発表した件について
ここでは、メディアで紹介された、ライドシェア解禁に対する反応について解説していきます。
ライドシェア解禁論がダメな4つの理由
YouTube番組「東京ホンマもん教室」では、ライドシェア解禁について4つの理由で反対しています。
【ライドシェア解禁を反対する理由】
|
ライドシェアの利用価格は、通常のタクシーと同額での開始を予定しているものの、海外では7〜8割の安さで提供されています。
日本でライドシェアの普及が進み、タクシーよりも低価格で利用できるようになった場合、当然タクシーの利用者が激減し、賃金が下がってしまうのです。
タクシー業界の賃金が下がってしまえば、転職するドライバーも増えるため、余計に人手が不足すると言えます。
他にも、政府はタクシードライバーの不足解消を導入の理由としていますが、全国規模で見ると、ほとんどの地域ではタクシーが十分足りている状況です。
一定の地域では、タクシーが不足しているものの、その対策として「自家用有償旅客運送制度」が既に存在します。
このような理由から、ライドシェア解禁に反対している声があります。
参考:TOKYO MX|【東京ホンマもん教室】ライドシェア解禁論が全くダメな4つの理由(11月11日 放送)|YouTube
第一交通社長の訴え
第一交通産業の代表取締役社長・田中亮一郎氏は、ライドシェア解禁をめぐり「まずはタクシー規制緩和をすべき」と話しています。
その理由として「道路運送法の規制でタクシー会社が簡単に作れないからタクシーも増やせない」と主張しています。
道路運送法は今から70年も前に制定されており、一部改正されることはあっても、大幅な見直しは行われていません。
結果、今のタクシー業界に適応できておらず、営業区域などのルールにより、タクシーが増やせていないことを指摘しています。
参考:ライドシェア解禁論に「まずタクシー規制緩和を」 第一交通社長訴え|朝日新聞
Uber Japanのタクシー会社導入支援
既に各国でライドシェア事業を展開する「Uber」は、ライドシェアの導入支援を行うことを発表しています。
具体的には、約70ヵ国で利用されているUberアプリの提供を予定しており、2024年4月より提携タクシー会社とともに事業展開していく予定です。
参考:Uber Japan、「タクシー会社によるライドシェア」への参画を発表 提携タクシー会社と 4 月にサービス開始し、全国に展開|Uber Japan
ライドシェア解禁に関するよくある質問
最後は、ライドシェア解禁に関する、4つのよくある質問に答えていきます。
- ライドシェア解禁のメリットは何がありますか?
- ライドシェアが禁止されている理由は何ですか?
- ライドシェアの問題点は何ですか?
- タクシーとライドシェアの違いは何ですか?
ライドシェアの問題点や既存のタクシー事業との違いに関する内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。
ライドシェア解禁のメリットは何がありますか?
ライドシェア解禁のメリットには、以下のような内容があります。
|
国内でのライドシェア利用料金は、通常のタクシーと同じ料金に設定されていますが、普及していくにつれて値下げされる可能性があります。
混みやすい時間帯などに関しては、多くの個人ドライバーが待機すると予想されており、利用者の利便性も高まると言えるでしょう。
二種免許の取得が必要なく、比較的簡単に始められるため、副業感覚で事業に参加することが将来的に可能になると予想されます。
ライドシェアが禁止されている理由は何ですか?
ライドシェアが日本で禁止されていた理由は「道路運送法第78条」により、自家用車を用いた有償の旅客運送が違法となるためです。
ちなみに、ライドシェアが解禁された後も「自家用有償旅客運送制度」で認められた地域以外での営業はできません。
ただし、今後試験的に運用が進められていけば、全国で利用できるように法改正される可能性があります。
ライドシェアの問題点は何ですか?
ライドシェアで発生すると予想されている主な問題点には、以下のような内容があります。
|
既にライドシェアが普及している外国では、実際に似たトラブルが発生しています。
日本では各国で起きた事例も踏まえて、法整備を進めていく予定です。
タクシーとライドシェアの違いは何ですか?
タクシーとライドシェアの違いは、ドライバーや事業者に対する規制の違いがあります。
具体的な規制の違いは各国によって異なります。
日本で行われるライドシェアに関しては「ドライバーの二種免許の所有」が明確な違いと言えるでしょう。
ライドシェアのドライバーは、従事する上で二種免許が必要ありません。
ライドシェア解禁に関するまとめ
2024年4月より、日本国内で初めてライドシェアが解禁されます。
過疎地や観光地で深刻となっているドライバー不足の解消や、インバウンド対策として効果を発揮すると期待されています。
既存の交通産業への影響などを踏まえて、複数の条件が設けられており、運用結果をもとに今後法改正が積極的に進められていく予定です。
解禁に反対する声も少なくないため、慎重な法整備が求められています。
タクシー求人をお探しの方へ
ドライバーキャリアは、運送・旅客・物流業界に特化した転職支援サービスです。
- 希望条件に合う求人のご紹介
- 履歴書など書類作成のサポート
- 企業との条件交渉/面接日程の調整
無料でご利用いただけますので、ぜひご活用ください。
求人を検索する(無料)