近年、人工知能(AI)の進化により、「建築士の仕事は将来なくなるのでは?」と懸念する人も少なくありません。
建築業界では、AIの技術が設計プロセスや建築物のシミュレーションに取り入れられています。これにより、建築士の仕事はAIによって置き換えられ、最終的にはなくなってしまうのか、という疑問が生じているのです。
そこで本記事では、建築士の仕事がなくならないと考えられている理由、建築士の仕事の脅威と言われているAIツール、建築士が安定して仕事を得るために身につけるべき能力などについて解説します。
建築士の仕事が将来なくなると言われている理由
AIの発達
近年、AIの発展によって建築士の仕事が将来的に消えるのではないかと懸念されています。
実際にAI技術の開発や導入が進んでおり、建築業界でもAIを活用する企業が増えているのです。図面作成や敷地の調査、計算といった作業は、AIで代替できる部分も多くなってきました。
2022年には、米ゴールドマン・サックスが「AIによって世界で3億人相当の仕事と共に自動化されるリスクがある」と指摘し、「建築設計・エンジニアリング」の分野が影響を強く受ける職業のランキングで3位に挙げられました。
これにより、建築士の仕事にも大きな変化が予想されています。しかし、クライアントとの信頼構築や、顧客の感情や細かい要望を汲み取るといった業務は、人間ならではのスキルが求められるため、建築士の仕事が全てAIに取って代わられるわけではありません。
今後は、AIが得意とする業務はAIに任せ、建築士はより高度で感情的なケアが必要な部分に集中することで、業務負担の軽減や効率化が期待できます。
BIMの導入
建築士の仕事が減少する要因の一つとして、欧米を中心に導入が進んでいるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の存在があります。
BIMは建物のライフサイクル全体をシミュレーションでき、設計から施工、維持管理に至るまでの業務を効率化することが可能です。
さらに、耐久性のシミュレーションもできるため、建築士の中には「自分の仕事がなくなるのでは?」と不安に感じる人も少なくありません。
人口減少
少子高齢化の影響で、新築住宅の着工件数は年々減少傾向にあります。野村総合研究所によると、2022年度の着工件数は86万戸でしたが、2040年度には55万戸まで減少すると予測されています。
また、住宅需要の減少は、建築士の仕事にも直結します。商業施設や賃貸マンションの需要も減少すると見込まれており、多くの建築士が将来に不安を抱いているのが現状です。
参考:2040年度の新設住宅着工戸数は55万戸に減少|株式会社野村総合研究所
建築士の仕事が将来なくなるとは言えない理由
続いては、建築士の仕事がなくならない理由を紹介します。建築士の仕事がなくならない理由は下記の3つです。
- 設計は人の創造性が必要になるから
- 現場の工事監理は建築士でなければできないから
- 建築する地域の状態は建築士でなければ判断できないから
では、一つずつ解説します。
設計は人の創造性が必要になる
建築士の仕事がなくならない理由の1つ目は、設計には人の創造性が必要になるからです。
建築設計は単に技術的なスキルや知識の適用だけでなく、文化的、社会的な要素を融合させ、人々の生活や活動に適した空間を創り出す芸術性が求められます。
そのため、建築設計には、建築士の個々の感性、経験、洞察力が大きく影響し、それぞれのプロジェクトに独自の価値を付加します。
また、建築物は時代の変遷と共にその機能やスタイルが進化し続けており、このような変化に対応するためには、人間特有の創造的思考と柔軟性が不可欠です。
さらに、建築士は単に建物を設計するだけでなく、クライアントの要望を理解し、地域の環境や文化に調和したデザインを考案するための対話や協働も重要です。
このようなコミュニケーション能力や共感力は、現時点で人工知能や自動化技術では代替が難しく、建築士の役割をより重要なものにしています。従って、建築士の仕事は人間の創造性や感性に根ざしており、その価値は今後も続くと考えられるのです。
出典:講演「建築の設計と設備運用における人工知能利用の可能性」|J-STAGE
現場の工事監理は建築士でなければできない
建築士の仕事がなくならない理由の2つ目は、現場の工事監理は建築士でなければできないからです。
工事監理とは、設計図通りに建物が建設されているかを確認し、品質、安全性、環境への配慮といった面での基準を満たしているかを監督する作業です。
このプロセスは、単に建築に関する深い知識が必要なだけでなく、実際の建設現場での経験や現場で生じる様々な問題に対処する能力も求められます。そのため、現場の工事監理は、建築士でなければ適切に実行することができません。
また、予期せぬ問題が発生した場合には、その場で迅速かつ適切な判断を下す必要があり、これらの判断は建築士の専門的な見識に基づいています。
このような現場での工事監理業務は、技術の進化や自動化が進んでも、建築士特有の役割として今後も継続すると考えられます。そのため、建築士の仕事は将来にわたってなくなることはないと言えるのです。
出典:講演「建築の設計と設備運用における人工知能利用の可能性」|J-STAGE
建築する地域の状態は建築士でなければ判断できない
建築士の仕事がなくならない理由の3つ目は、建築する地域の状態は建築士でなければ判断できないからです。
建築物を設計する際、その地域の気候、地理、土地の特性、さらには文化的、社会的な背景を理解し、それらを考慮した設計を行うことは、建築士の重要な役割です。
例えば、地震が多い地域では耐震設計が必須であり、寒冷地では断熱や雪に対する配慮が必要となります。また、歴史的に価値のある地区では、その地域の文化や伝統を尊重したデザインが求められることもあります。
建築士はこれらの多様な要因を総合的に分析し、その地域に最適な建築物を設計するための専門知識と技術を持っています。そのため、建築士は単に建物の美観を考えるだけでなく、機能性、安全性、環境への影響など、幅広い視点から最適な建築計画を立てることが可能です。
このように、特定の地域の状況を的確に判断し、それに基づいて建築計画を立てる能力は、建築士特有のものであり、技術の進化や自動化が進んでも代替することが難しいため、建築士の仕事は今後も継続して求められると考えられるのです。
出典:講演「建築の設計と設備運用における人工知能利用の可能性」|J-STAGE
建築士の仕事の脅威と言われている3つのAIツール
続いては、建築士の仕事の脅威と言われているAIツールを紹介します。建築士の仕事の脅威と言われているAIツールは以下の3つです。
- 建築物の構造解析AI
- 設計支援AI
- 消費量シミュレーションAI
では、一つずつ解説します。
建築物の構造解析AI
建築士の仕事の脅威と言われているAIツールの1つ目は、建築物の構造解析AIです。
構造解析AIは、建築士が設計した建築物に設計ミスがないかや耐震性はあるかなどを解析し修正できます。
AIがチェックすることで建築士のヒューマンエラーが起こりにくくなり、安全性を保ちやすくなるでしょう。
AIが得意とする計算や解析をおこなうため、建築士の仕事の脅威といわれています。
設計支援AI
建築士の仕事の脅威と言われているAIツールの2つ目は、設計支援AIです。
設計支援AIは、建築士が描いた設計図を3Dモデルに変換するシステムです。
設計の時間短縮になり、建築士が顧客のへの丁寧なヒアリングやこだわりに専念できます。
脅威と言われていますが、建築士が設計図を描かないとAIは支援できません。
消費量シミュレーショAI
建築士の仕事の脅威と言われているAIツールの3つ目は、消費量シミュレーションAIです。
消費量AIシミュレーションAIは、建築物のエネルギー消費量をシミュレーションして提案するものです。
建築士が設計した建築物をシミュレーションするため、建築士の設計能力が必要です。
省エネをAIが自動で提案してくれるため、建築士の業務改善に繋がります。
建築士が将来仕事がなくならないために必要なスキル
続いては、建築士が安定して仕事を得るために身につけるべき能力を紹介します。建築士が食いっぱぐれないために身につけるべき能力は以下の2つです。
- AIを活用して生産性をあげる能力
- 新技術を活用して新たなアイディアを生みだす能力
では、一つずつ解説します。
AIを活用して生産性を上げる能力
建築士が安定して仕事を得るために身につけるべき能力の1つ目は、AIを活用して生産性を上げる能力です。
現代の建築業界では、AI技術が設計の効率化、コスト削減、エラーの最小化などに寄与しており、この技術をうまく活用することが、建築士にとって競争力を高める鍵となります。
例えば、AIを利用して建物のデータ分析を行うことで、より効率的な設計案を短時間で作成できるようになります。また、AIを使ったシミュレーションを通じて、建築物の環境への影響や使用される素材の持続可能性を評価することも可能です。
AIを活用する能力には、単にソフトウェアを操作する技術的な側面だけでなく、新しい技術を受け入れ、それを現在の仕事に応用する柔軟な思考も含まれます。
さらに、建築士がAI技術のトレンドを把握し、それを自身の設計プロセスやプロジェクト管理に統合することで、より効率的で革新的な設計を提供できるようになります。
このように、AIを活用して生産性を上げる能力を身につけることは、建築士が安定して仕事を得るための重要な戦略となり、将来的なキャリアの成功に寄与するでしょう。
新技術を活用して新たなアイディアを生みだす能力
建築士が安定して仕事を得るために身につけるべき能力の2つ目は、新技術を活用して新たなアイディアを生みだす能力です。
建築業界は常に進化しており、新しい材料、技術、そして設計手法が次々と登場しています。これらの新技術を取り入れることにより、建築士は従来の枠を超えた創造的な解決策や斬新なデザインを提案できます。
例えば、持続可能な建築材料の使用や、エネルギー効率の高い建築設計、そして仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を活用したクライアントへのプレゼンテーションなどが挙げられます。
このような新技術を活用する能力には、常に最新のトレンドやイノベーションに目を向け、それらを自分の作業にどのように統合できるかを考える柔軟性を含みます。
また、建築士が新技術を使って新たなアイディアを生み出すことは、プロジェクトの品質を向上させるだけでなく、クライアントのニーズに対する新しい解決策の提供にも繋がります。
新技術を活用する能力を身につけることで、建築士は競争が激しい業界内で自身の価値を高め、安定したキャリアを築く上で重要な差別化要因とできるでしょう。
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建築業界における最新のAI活用事例
建築業界に関するAIの活用事例は下記の3つです。
- AI搭載ドローンでの現場監視
- AI搭載の作業ロボット
- AIを活用した建築設計支援
それぞれ詳しく紹介します。
AI搭載ドローンでの現場監視
建築業界に関するAIの活用事例の1つ目は、AI搭載ドローンでの現場監視です。
AI搭載のドローンを建設現場へ飛ばし、作業の監視や現場の安全性をリアルタイムでモニタリングします。
現場の進捗状況や人員配置に活用し、業務の効率化をおこないます。
現場監督の他に、現場の測量や地形のスキャニングなどにも活用可能です。
建築士の作業が短縮し、作業効率も上がります。
ドローンで撮影した画像は、建築現場の分析や建築物の劣化具合などの状況にも活躍しています。
AI搭載の作業ロボット
建築業界に関するAIの活用事例の2つ目は、AI搭載の作業ロボットです。
AI搭載ロボットは、危険性の高い作業などに建築現場で多く活躍しています。
重機や堀削機、ブルドーザーなどにAI搭載ロボットとして、人間の代わりに作業を行なっています。
重い資材を指定した場所まで無人で運搬するロボットもあり、障害物などを検知すると自動で進路を変更し、指定の場所まで運びます。
また、溶接ロボットも開発されており、アームを自在に動かしながら高度な溶接を自動でおこないます。
AI搭載ロボットは、現場の作業ロボットとして次々と実用化し活躍しています。
AIを活用した建築設計支援
建築業界に関するAIの活用事例の3つ目は、AIを活用した建築設計支援です。
AIは、数学や調査、画像作成などの機械的な作業が得意で、建築設計の支援に向いています。
大まかなイメージを画像AIで作成し、時間を大幅に削減できます。
また、最適な構造計算や工事の進捗管理をデータ上で管理でき、業務の効率化が可能です。
AIをうまく活用すると、顧客と建築物の細かい方向性やこだわりのデザインを作成する時間を作れます。
設計資料作成も短時間で作成でき、建築士の作業効率を円滑にしてくれます。
建築士が多すぎて仕事がなくなることもある?
続いては、建築士が多すぎると言われている理由を紹介します。建築士が多すぎると言われている理由は下記の3つです。
- 更新制がない生涯資格だから
- 設計職以外の技術者も含まれているから
- 定年間近の人が現在はいるから
では、一つずつ解説します。
更新制がない生涯資格だから
建築士が多すぎると言われている理由の1つ目は、更新制がない生涯資格だからです。
建築士の資格は、取得した後の定期的な更新や再評価を必要とせず、資格を生涯保持することができます。その結果、資格取得者が市場から退退するか、他の職業に転職するまで、建築士としての資格は有効であり続けます。
このような資格の更新が必要ないシステムは、資格取得者が常に一定数以上存在し続ける状況を生み出す原因となっています。
また、新しい技術や規制の変更に対応するための継続的な教育や評価が不足している可能性があり、これが業界全体の専門性の向上を妨げる要因になることもあります。
さらに、資格者が増え続けることで、市場における建築士の供給過多が生じ、結果として競争が激化し、職業としての魅力が低下する可能性もあります。
このように、更新制がない生涯資格であることは、建築士が多すぎるという現象を引き起こす一因となっていると考えられているのです。
設計職以外の技術者も含まれているから
建築士が多すぎると言われている理由の2つ目は、設計職以外の技術者も含まれているからです。
建築士の資格は、建築物の設計に限らず、建築に関連する幅広い技術職に適用されるため、実際に設計業務に従事している人だけでなく、工事監理や施工管理、さらには不動産関連の職務に従事する技術者も含まれています。
そのため、建築士の実数は、実際に建築設計を行う人数よりも大きくなる傾向にあります。
この状況は、建築士という職業の多様性を示している一方で、建築設計職の市場における供給過多の印象を与えてしまう可能性があります。
したがって、建築士が多すぎるという現象は、資格が建築業界内の広範囲な職種を包含していることに起因していると言えるでしょう。
定年間近の人が現在はいるから
建築士が多すぎると言われている理由の3つ目は、定年間近の人が現在はいるからです。
定年間近の人々が多く存在している状況は、特に長年にわたって業界で働いてきた経験豊富な建築士が引退を控えているものの、彼らがまだ職に就いているため、全体の建築士の数が膨れ上がっていることを示しています。
このようなベテラン建築士は業界において重要な役割を果たしてきましたが、彼らが現役を続けている限り、若手の建築士や新しい人材の参入に対する機会が限られます。
もちろん、定年間近の建築士が退職すると、一気に大量の空きポジションが生まれる可能性がありますが、業界内での知識や経験の伝承が途絶えるリスクも生じるため、業界としてはこの移行期に適切に対応することが求められます。
このように、定年間近の建築士がまだ多く在籍していることは、建築士が多すぎるという現象の一因となっており、これが業界内の人材構造やキャリアパスに影響を与えているのです。
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建築士の仕事が将来なくなる?に関してよくある質問
建築士の仕事がなくなるに関してのよくある質問は下記の3つです。
- 建築士は社会にどう貢献するのでしょうか?
- AIが進むとなくなる職業はありますか?
- 一級建築士は希少性が高い資格ですか?
それぞれ詳しく紹介します。
建築士は社会にどう貢献するのでしょうか?
AIが実用化されても、建築士の社会貢献が期待されています。
高度経済成長の時期に建築された住宅やビル、橋などの老朽化が進んでおり、建て替えや解体が必要な建築物が増えています。
建て替えを必要とする建築物は、放置しておくと危険な状態です。また、建て替えが困難な建築物は解体が必要となります。
建て替え、リフォーム、解体する場合は、専門知識を持った建築士が必要で、活躍の場も多くあります。
他にも、新築の高齢者向けのマンションや新築マンション、リゾート施設などさまざまな場所で建築士が活躍し社会貢献が可能です。
AIが進むとなくなる職業はありますか?
AIによってなくなる職業は、事務や受付、オペレーター、レジ係、建築設計など同じ事を繰り返しおこなう業務がなくなる可能性が高くあります。
AIは、計算やデータの収集、分析などが得意です。そのため、仕事の一部がAIでおこなえる職業もあるでしょう。
建築士の場合には、基本設計や敷地調査、現場での作業などがAIによって効率的におこなえます。
図面の設計もAIで作り出せますが、複数のデータを認識し、それを元にして作成するため、デザインなどは人間が必要になります。
一級建築士は希少性が高い資格ですか?
一級建築士は、少子高齢化の影響を受けて、現場で活躍している年齢が50代や60代と高齢化が進んでいます。
若い一級建築士は非常に希少性が高く、現在現場で活躍している建築士が引退すると建築士が足りなくなると問題となっています。
AIの導入で建築士の仕事がなくなると思われていますが、建築士の仕事が全てなくなるわけではありません。
今後老朽化する建物も多くあり、建て替えやリフォームする場合に建築士が必要です。
一級建築士は、実務経験が必要になるため、若い建築士は希少性が高い資格です。
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建築士の仕事が将来なくなる?についてのまとめ
建築士の仕事は将来なくなるのか、AIの進化によりその懸念が広がっています。実際、建築設計・エンジニアリング分野は自動化の影響を強く受けるとされています。
しかし、クライアントのニーズを理解し、創造的かつ地域に適した設計をおこなう能力は、AIには代替できません。
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