運転職に従事するうえで、最も注意しなければならないのが交通事故です。
特にバス運転手は、車両サイズが大きく多くの人が乗車するため、細心の注意が必要です。
しかしながら、集中力を切らさずに長時間運転し続けることは難しく、こちら側に非がないような事故に遭うケースも珍しくありません。
事故のリスクがあることから、バス運転手への転職を迷う人も少なくありません。
今回は、バス運転手が事故を起こしてしまった際の会社から受ける処分や、法的処分について、分かりやすく解説していきます。
バス運転手が事故を起こした場合の処分|5選
乗用車で事故を起こしてしまった場合、その内容によって「行政処分・刑事処分・民事上の責任」の3つの処分が科される可能性があります。
具体的には、運転免許の違反点数加算や懲役、損害賠償金といった内容です。
一方で、バス運転手の場合はこれとは別に、所属している会社でも独自の処分を受けるのが一般的です。
主な処分は以下の通りです。
・口頭注意
・配置転換
・減給
・停職
・解雇
ここでは、各処分の内容について解説していきます。
口頭注意
会社内での処分で最も軽いのが「口頭注意」です。
なぜ事故が起きたのか、どうしたら今後同じような事故を防げるのかを徹底的に話し合った上で、事故前と同じような勤務に戻ります。
具体的な事故の内容は、会社によって異なりますが安全運行のために設けられたルールを守っていたものの、事故を起こしてしまったようなケースが該当します。
また、別の車に接触されるようなこちらに非がない事故なども、口頭注意になることが多いと言えるでしょう。
配置転換
事故内容に重責な過失があった場合は、配置転換の処分を受けることがあります。
会社をクビになるわけではないものの、バス運転手以外の部署へと移動しなければなりません。
また、軽微な事故ではあるものの、以前から何度も繰り返しているようなケースも、適性がないと判断されて配置転換の処分を受けることもあります。
配置転換ではなく、1ヶ月や3ヶ月の乗務禁止期間を設けたうえで、最終的にバス運転手に戻れるような処分もあります。
減給
減給処分は、文字通り賞与や給料の一部がカットされる内容です。
適性がないわけではないものの、何度も事故を繰り返したり重責な過失があったりした場合が対象です。
同じ営業所で事故が頻発しており、運行管理に問題があると判断された場合、事故した運転手とは別に、責任者が減給処分を受けるようなケースもあります。
停職
停職処分は、より重い事故を起こした場合が対象となりやすく、出勤自体ができなくなります。
事故の内容によって停職の期間が決められ、その間は給与が一切発生しません。
停職期間の間、過ごし方には制限がかからないものの、必要最低限の外出しかしないのが一般的です。
解雇
懲戒解雇は、5つの中で最も重い処分であり、労働契約を一方的に解除されてしまいます。
プロの運転手としてあるまじき行為である「信号無視」や「飲酒運転」での事故が対象です。
懲戒解雇になると、退職金は減給または支給されなくなり、失業手当を受け取るための「特定受給資格者」にもなれません。
転職する際も、離職票や退職証明書で懲戒解雇されたことが、応募先の企業に分かるため、採用してもらえる確率が大きく下がります。
真面目に働いている限り、このような処分を受けることは稀と言えますが、事故の内容によっては懲戒解雇になることもあります。
バス運転手が事故を起こした場合:3つの流れ
バス運転手が乗務中に事故を起こしてしまった場合、対処の流れは以下の通りです。
・事故の内容を連絡する
・事故報告書を作成する
・始末書を作成する
ここでは、3つの流れについて解説していきます。
事故の内容を連絡する
バスを運転中に事故を起こしてしまった場合、現場で行うことは一般的な事故と変わりません。
安全な場所にバスを止めた上で、負傷者の確認を行い適切に対応します。
その後、すぐに警察に報告したり救急車を呼ぶ流れです。
バス運転手の場合、これに追加してバス会社へ事故を起こしたことを連絡しなければなりません。
連絡を受けたバス会社は、すぐに事故速報を作成した後に、各営業所への情報共有を行います。
その後は、事故を起こした時の状況などについて、警察の事情聴取を受けます。
事故報告書を作成する
事故を起こした翌日は、予定されていた仕事を全て外されて、事故報告書を会社で作成します。
記入する内容は、会社によって異なりますが、主な内容は以下の通りです。
・事故の発生日時やその時の状況 ・事故による被害状況 ・事故の原因 ・事故の対応策 |
まずは、上司からのヒアリングが行われた後に、事故報告書を作成していく流れです。
作成された事故報告書は、全ての営業所で共有され、同じような事故が起きないように注意喚起されます。
始末書を作成する
始末書とは、ミスや事故の事実関係を明らかにした上で、謝罪や反省、事故の防止を誓約させるための書類です。
事故を起こしてしまったことに対する、反省の言葉などを書き込んでいきます。
事故報告書のように各営業所に共有されるようなことはなく、会社側で保管されます。
この後に、処分について話し合いが行われる流れです。
バス運転手が事故を起こした場合にあった事例|3選
バス運転手は、大型車両に多くの乗客を乗せた上で運転するため、死傷者が出るような事故も珍しくありません。
事故の内容はさまざまで、乗用車と同じような内容の事故もあれば、大型車両ならではの事故もあります。
ここでは、過去に発生したバスの事故事例を3件紹介していきます。
・事例①:走行中にバスの扉が開いてしまった事故
・事例②:山道を走行中に観光バスが横転した事故
・事例③:下車した乗客をバスがひいてしまった事故
なぜ事故が起きたのか、当時の状況などについて詳しく解説していきます。
事例①:走行中にバスの扉が開いてしまった
神奈川県では、路線バスの扉が走行中に開いてしまう事故が発生しています。
【事故の状況】
路線バスが停留所に近づいたタイミングで、車両が停止していないにもかかわらず乗車用のドアを開けてしまった。 前の扉に寄り掛かっていた乗客は、そのままバスから転落してしまい、鎖骨を骨折するなどのけがを負っている。 聞き取りに対し運転手は「停留所で待っている人が見えて、早く扉を開けようとしてしまった」と答えている。 |
事例②:山道を走行中に観光バスが横転した事故
2つ目の事例は、富士山の5合目あたりにある県道で起きた横転事故です。
【事故の状況】
日帰りツアーを終えた観光バスが、富士山5合目あたりの県道を下っている途中、ブレーキが効かなくなり車両が横転した。 当時36人が乗車しており、1人の女性が死亡し、28人が重軽傷を負う事態となった。 運転手に事情聴取した結果「フェード現象」が原因であることが発覚し、周辺を走る運転者に対し注意喚起が行われた。 |
「フェード現象」とは、フットブレーキを使用し続けたことが原因で、ブレーキ部分の摩擦材が発熱し、発生したガスで摩擦係数が低下したことで、ブレーキが効かなくなる現象です。
ブレーキを多用する下り道で起こりやすい現象であり、エンジンブレーキの活用が有効な予防法です。
事例③:下車した乗客をバスがひいてしまった事故
3つ目の事故は、福島県で起きた路線バスの事故です。
【事故の状況】 バス運転手は、既に車両から離れたものと思い込み、安全確認しないまま発進した結果、転倒した乗客を引いてしまった。 その後、救出されすぐに病院へ運ばれたが、後に死亡した。 |
事故がおきた原因は、ミラーによる適切な安全確認が行われていなかったことが考えられます。
頻繁に事故が起きているわけではなく、リスクの高い仕事というわけではないものの、プロの運転手として運転中は常に集中している必要があります。
バス運転手が事故を起こした場合に考えられる3つの法的処分
ここまでバス運転手が事故を起こした際の、会社内での処分について解説してきましたが、それとは別に、法的処分も受けます
法的処分は、主に3つの種類があります。
・民事責任
・刑事責任
・行政責任
ここでは、各法的処分の詳細について解説していきます。
民事責任
事故を起こした際に発生する「民事責任」とは、事故の被害者に対する損害賠償責任のことです。
被害内容を金銭として評価した上で、その支払いによって被害者の損害を回復する狙いがあります。
具体的には、事故車両の修理費用や被害者の治療費用などがあり、会社が加入している保険によって支払われます。
そのため、民事責任でバス運転手が個人で損害賠償のお金を払うようなことは、基本的にありません。
刑事責任
交通事故における刑事責任とは、法定上で定められた犯罪行為に対して科される刑罰のことです。
車の運転では、以下のような罪があります。
・過失運転致死傷罪:運転中に必要な注意を怠っていた場合
・危険運転致死傷罪:危険な運転行為により事故を起こした場合 |
被害者の被害状況や運転時の状態、事故直後の対応などによって、刑事罰の内容が異なります。
行政責任
行政責任とは、運転者の免許に対する処分です。
違反した交通ルールなどにより、違反点数が決定され、反則金を納付しなければなりません。
また、違反点数が一定の点数を超えた場合は、免許の取り消しや停止処分を受けます。
悪質な交通違反であった場合、一発で免許取り消しや停止処分になるケースもあります。
バス運転手が事故を起こさないためにやるべきこと|5選
ここまでバス運転手が事故を起こした際の処分について解説してきましたが、未然に事故を防ぐことが最も大切です。
普段の運転で事故を起こさないためには、5つのポイントを心掛ける必要があります。
・乗客の着席確認をする
・運行速度を守る
・適切なマイク案内をする
・扉の開閉に気をつける
・右左折時に安全確認をする
各ポイントの詳細について、解説していきます。
乗客の着席確認をする
路線バスは、朝や夕方を中心に多くの人が利用します。
停留所を発車する際は、必ず全ての乗客が着席したことを確認したうえで発進するようにしましょう。
満席の場合は、手すりなどを掴んでいるかを確認します。
立っている状態は、ちょっとしたブレーキやアクセルでも転倒しやすく、乗客がケガしてしまう恐れがあります。
たくさんの乗客が乗っている場合は、直視するだけでなくミラーを活用しながら、乗客の様子を確認することが大切です。
運行速度を守る
バス運転手は、時間通りに目的地へ到着しなければならないため、渋滞などで時間が遅れてしまうと、ついついスピードを出してしまいがちです。
運行速度を超えてしまうと、追突や急ブレーキによる車内事故の危険性が高まります。
夜間や雨天時は特に、スピードを抑えるように意識しながら、事故を防ぎましょう。
適切なマイク案内をする
運行中は、マイク案内による注意喚起を行うことで、車内事故を防げます。
「毎日使用している乗客ばかりだから大丈夫」といった考えを持たずに、定期的なマイク案内を癖付けるようにしましょう。
マイク案内をする際は、車内後部までしっかり聞こえるよう、ハキハキと適切な音量で話すことが大切です。
扉の開閉に気をつける
事故事例でも紹介した通り、バスの開閉時はさまざまな事故が起きやすいため、注意が必要です。
過去には、挟み込みや車外転落といった事故が発生しています。
どれだけ急いでいても、完全にバスが停止するまで開閉しないように心掛けましょう。
発車前には、ミラーだけでなく直視で安全確認することが大切です。
右左折時に安全確認をする
バスは乗用車と比べて内輪差が大きく、死角が多いため、右左折時の巻き込み事故が多発しています。
曲がる前には必ず最徐行をするようにした上で、直視したりミラーで確認したりしながら、安全確認しましょう。
車内事故を防ぐためにも、ゆっくり曲がるようにしましょう。
ここまで解説してきた通り、バスによる事故を防ぐには、当たり前の作業を欠かさずこなすことが大切です。
どのような状態でも平常心を保ち、安全が第一であることを忘れないようにしましょう。
出典:乗合バスによる事故防止のためのドライバー教育と事業者が取り組むべき事項について|国土交通省
バス運転手が事故を起こした場合の処分に関するよくある質問
最後は、バス運転手が事故を起こした際の処分に関する、3つのよくある質問に答えていきます。
・バスが事故を起こす確率はどのくらいですか?
・バスが事故を起こしたらどうなりますか?
・バスの車内事故の責任は誰にありますか?
バス運転手を目指す上で、参考にしてみてください。
バスが事故を起こす確率はどのくらいですか?
バスが事故を起こす確率は非常に低く、全体の事故数の0.5%ほどです。
国土交通省が公表した「バスに関する交通事故統計データ」によると、各車両の事故の構成率は以下の通りでした。
【平成24年度・事故の発生状況】
乗り物の種類 | 件数 | 構成率 |
普通乗用車・軽乗用車 | 51万6,015件 | 71.1% |
普通貨物車・軽貨物車 | 10万2,805件 | 14.2% |
原付自動車・自転車 | 4万8,934件 | 6.8% |
大型・中型貨物車 | 2万5,062件 | 3.4% |
自転車等 | 2万3,633件 | 3.3% |
バス・マイクロバス | 3,573件 | 0.5% |
走行している車両数が少ないことも影響しているものの、トラックと比べても非常に事故数が少ないと言えます。
バスが事故を起こしたらどうなりますか?
バスが事故を起こした場合、乗用車と同様に「行政処分・刑事処分・民事上の責任」を受けます。
また、これとは別に会社で「口頭注意・配置転換・減給・停職・解雇」といった処分を、事故の内容に応じて受けます。
バスの車内事故の責任は誰にありますか?
バスの急ブレーキ・急発進などにより、乗客が転倒した場合、基本的にバス運転手およびバス会社の責任になります。
ケガした場合は、治療費や慰謝料の支払義務も発生します。
ただし、必ずバス会社側が悪いとなるわけではなく、車内事故の原因が乗客側にあった場合は、賠償額が減額されるケースもあります。
具体的には、運転手の注意喚起に従わず、転倒してしまったようなケースです。
バス運転手が事故を起こした場合の処分に関するまとめ
バス運転手が乗務中に交通事故を起こした場合、乗用車と変わらず「行政処分・刑事処分・民事上の責任」を受けます。
バス運転手としては、事故後に事故報告書や始末書を作成しなければなりません。
事故の原因や対策などを明確にした上で、最終的に会社内での処分が科せられます。
しかしながら、バスの事故率は他の乗り物と比べて非常に低く、日頃から安全運転を心掛けていれば、めったに事故を起こすことはないと言えるでしょう。
未経験者でも、安全意識を持ち真剣に研修に臨むことで、バス運転手として長く活躍できます。
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