電気主任技術者になる方法には、実務経験が必須である「認定取得」と、実務経験が不要である「試験」の2つがあります。
ただし、経験があれば無条件に認定を取得できるわけではありません。実務経験として認められる業務内容、年数、職場、学歴は、明確に電気事業法で定められています。
この記事では、認定取得によって電気主任技術者を目指す際、実務経験として認められる経験について解説するので、参考にしてください。
電気主任技術者になるには実務経験が必須なのか
電気主任技術者になる上で、実務経験が必須かどうかは、取得方法によって異なります。ここでは「認定取得」と「試験」の2つの取得方法について解説します。
認定取得なら実務経験が必須
経済産業省の認定を受けて電気主任技術者になる場合、実務経験は必須となります。第一種・第二種・第三種、3つの種類ごとに定められている実務経験の要件は以下の通りです。
資格の種類 | 実務経験の要件 |
電験一種 | 電気工作物(電圧5万ボルト以上)の運用・持続・配線や設置経験 |
電験二種 | 電気工作物(電圧1万ボルト以上)の電気機器の運用・配線や設置経験 |
電験三種 | 電気工作物(電圧500ボルト以上)の電気機器の運用・配線や設置経験 |
なお、既に第三種電気主任技術者の資格を持っている人だとしても、第二種や第一種の取得を目指す場合は、別で実務経験が必要となります。
試験を受けるなら実務経験は不要
電気主任技術者になるもう1つの方法に「試験」があります。試験では電気理論、法規、機械、器具などの幅広い知識が求められ、特に第一種は最も難易度が高いとされています。
試験は毎年1回または2回実施され、合格すれば即座に資格の使用が可能です。電気主任技術者として認定されると、変電所や発電所、工場などの電気設備に関わる重要なポジションを担うことができます。
なお、電気主任技術者試験の受験に実務経験は必須ではありません。そのため、専門的な知識を持つ学生や異業種からのキャリアチェンジを考えている人でも、独学や専門学校での学びを通じて知識を深め、試験に挑むことが可能です。
電気主任技術者の認定取得における実務経験の要件
電気主任技術者の認定を受ける上で必須となる実務経験ですが、電気関連の仕事であれば何でも認められるわけではありません。
そこでここでは、実務経験として認められる職場や業務と、そうでないものの違い、資格の種類ごとに必要となる実務経験の年数を紹介します。
実務経験として認められる職場や業務
実務経験として認められる職場や業務として代表的なものを6つ紹介します。
性能検査と機器調整
電気設備には、給電設備・変電設備・送配電設備・発電設備などがあり、さまざまな電気機器が設置されています。
性能検査は、これらの電気設備が設計された通りの性能を保持しているかを確認する作業です。電気機器の出荷前におこなわれ、各施設に設置された後にも現地調査がおこなわれます。
検査時に異常が見つかった場合は、症状に応じた機器調整を実施します。
配線工事
住宅やビルなどの施設に電気設備を設置する場合、配線工事が必須となります。
配線工事は一般的に電気工事士の仕事であり、電気主任技術者としておこなう仕事ではないものの、実務経験としては認められています。
電気設備関連の会社で電気工事士として働き、キャリアアップとして電気主任技術者を目指すような人が当てはまる実務経験です。
配線工事で身に付けた知識や技術は、電気工作物の保安監督業務でも十分活かせます。
設備持続のための保安管理
電気主任技術者の仕事に最も関係する業務内容であり、すでに運用が始まっている電気設備の保安管理をおこないます。
電気設備は長期間使用し続けていると、絶縁劣化などにより機能や能率が低下します。そのまま運用を続けると故障に繋がり、施設の健全な運用が利用できません。
これを防止するのが保安管理であるため、この業務に携わっていれば実務経験として認められます。
設備安定と経済的運転検査
工場や病院といった大規模な施設には、大掛かりな電気設備が設置されており、時間帯によって電気の使用量が大幅に増えることがあります。
このような状態でも電気が不足することなく稼働するには、設備安定を目的とした保安管理業務が必要です。
また、高圧受電設備は無駄な電気使用量が増加しやすいため、経済的な運転検査が欠かせません。効率良く稼働しているかを確認するために運転検査をおこない、経費削減に取り組みます。こういった作業も、電気主任技術者の実務経験として認められています。
電気設備や器具の設計
電気設備や器具の設計では、建物のコンセントやスイッチの場所などを設計します。
大規模な施設に関しては大量の電気設備が設置されるため、配線の量も踏まえた設計が必要です。
こうした設計業務では、些細な設計ミスが多くの人に影響を及ぼす可能性があることから、電気工事全体に精通する知識が求められます。
系統の変更
事業用電気工作物を設置する場合、設備ごとに持続や運用に関する保安規定の策定が義務付けられています。
組織詳細や保安教育、保全の方法などを詳しく取り決めておかなければ、大勢に被害が及んでしまうからです。このような保安規定の変更業務も、電気主任技術者の実務経験として認められます。系統を変更する事例としては、以下のものがあります。
・発電所や非常用発電機を設置した場合
・人事異動などにより、社内保安体制を変更した場合
・電力会社との財産分界点や責任を変更した場合
・電気主任技術者を新たに選任した場合
実務経験として認められない職場や業務
電気主任技術者の実務経験に認められない職場や業務として、代表的なものを5つ紹介します。
電気機械器具の製造業務
精密機械・家電の製造作業といった業務は、発電や受電する電気工作物の取扱いには含まれないため、実務経験として認められません。
また、設置やメンテナンス業務を伴わない、電気設備に関する営業なども実務経験には認められないため注意が必要です。
高電圧が発生する機械器具の業務
自動車の製造工場などで、大きな機械器具を操作することは、保安管理や点検業務には該当しません。定期的に、機械の清掃などをおこなっていたとしても、実務経験とは認められません。
海外での業務
日本企業が開発した電気機器は、世界各国で使用されており、人によっては現地で定期的なメンテナンスや修理に対応するケースがあります。
ただし、海外では日本の電気事業法が適用されないため、電気主任技術者の実務経験とは見なされないので注意が必要です。
電気主任技術者として仕事に携わることはできないものの、関連業務をおこなう会社への転職では海外の経験が役立ちます。逆に電気主任技術者になれば、身に付けた知識を海外で発揮することも可能です。
実験設備での業務
発電所やビルでの高電圧が発生する電気機器に関連する業務だとしても、事務業務や清掃業務、機器の操作業務などは、実務経験に含まれません。
船や車両等の電気設備に係る業務
自動車や船といった乗り物の電気設備は、発電や受電をする電気工作物ではないため、実務経験には認められません。
ただし、電気自動車の普及により増えている急速充電器は、自家用電気工作物扱いとなり、その持続や工事に関する業務は実務経験として認められます。
資格の種類ごとに必要な実務経験の年数
電気主任技術者を認定取得する場合、実務経験の年数にも指定があります。資格の種類と学歴ごとに必要な経験年数は以下の通りです。
大学卒業 | 短大・高等専門学校卒業 | 高校卒業 | |
第三種電気主任技術者 | 1年以上 | 2年以上 | 3年以上 |
第二種電気主任技術者 | 3年以上 | 5年以上 | 5年以上 |
第一種電気主任技術者 | 学歴に関係なく5年以上 | 学歴に関係なく5年以上 | 学歴に関係なく5年以上 |
電気主任技術者の認定取得に必要な実務経験以外のこと
電気主任技術者の認定取得には、実務経験の条件を満たすだけでなく、学歴に関しても電気事業法の定める単位を修了している必要があります。資格の種類ごとにおける学歴の要件は以下の通りです。
種類 | 学歴の要件 |
第三種 | ・経済産業大臣の認定を受けた学科で、必要な単位を修了した者・経済産業大臣の認定を受けた短期大学または高等専門学校で、必要な単位を修了した者・経済産業大臣の認定を受けた高等学校で、必要な単位を修了した者 |
第二種 | ・経済産業大臣の認定を受けた学科で、必要な単位を修了した者・経済産業大臣の認定を受けた短期大学または高等専門学校で、必要な単位を修了した者 |
第一種 | ・経済産業大臣の認定を受けた学科で、必要な単位を修了した者 |
認定取得によって電気主任技術者になれるのは、上記のように「経済産業大臣認定の学校で所定の科目を修めて卒業した人」だけです。
電気主任技術者を目指すなら実務経験を積もう
電気主任技術者になるには、実務経験を必要とする認定取得と、実務経験が不要である試験、2つの方法があります。しかし、可能であれば実務経験を積んで認定取得を目指す方が妥当と言えます。そう言える主な理由が以下の3つです。
試験の難易度は高いから
電気主任技術者の試験の難易度は高く、不合格になると多くの時間を費やすことになります。そのため、勉強に自信があり、速やかに資格を取得したい方には適しているでしょう。
一方で、認定取得には実務経験や学歴要件が必要であり、時間がかかりますが、難易度の高い試験を受けずに済みます。勉強が苦手な方や、既に培った技術や経験を活かして資格を取得したい方には認定取得がおすすめです。
収入が上がりやすいから
実務経験が豊富な人は、経験の浅い人よりも収入が高くなる傾向があります。経験の多さが買われて、早期に高度な業務を任されたり、管理職などの役職に就いたりすることが多いのです。
たとえば、電気工事士として働いて収入を増やしながら、認定取得に必要な実務経験を積むなどのキャリアプランが考えられます。
転職で有利だから
実務経験があると即戦力とみなされるので、電気業界では採用されやすいです。特に20代や30代では、若くして業界経験を積んでいると、企業から重宝される傾向にあります。
なお、実務経験者の比率は年齢が上がるにつれて高くなるので、未経験者は年齢を重ねるほど転職市場では不利になりがちです。
関連記事:電気主任技術者の合格率は?合格するための5つのコツとは
電気主任技術者の実務経験に関してよくある質問
最後に電気主任技術者の実務経験に関して、よくある質問に回答します。
実務経歴証明書はどうやって作成すればいいですか?
実務経験を積み、認定取得によって電気主任技術者になるには、経済産業省が定めた方法で経験の証明をしなければなりません。それが実務経歴証明書の提出です。
実務経歴証明書には経済産業省が用意したフォーマットがあるため、そちらに従って記載しましょう。
なお、日本電気技術者協会では「実務経歴証明書の記載例」が紹介されています。
そちらの例に従い、実務経験について職務の内容や、電気工作部物の概要、役職名などを時系列で詳しく記載します。また、同書類証明人の署名も必要ですので忘れないように注意しましょう。
参考:電気主任技術者免状交付に係る運用について(別紙3)|経済産業省
保安監督業務で必要な実務経験年数が緩和されたのは本当ですか?
外部委託により保安監督業務をおこなう場合、5年の実務経験が必要とされてきましたが、令和4年の制度改正により、5年から3年に緩和されました。
現役の電気主任技術者の年齢構成は、50代以上が過半数であり、将来的に人材が不足すると言われています(経済産業省調べ)。
その解決策の1つとして、外部委託の場合、実務経験年数が3年以上であれば保安監督業務に従事可能となったのです。
ただし、3年以上の実務経験で保安監督業務に従事する際には「保安管理業務講習」を修了している必要があります。
電気主任技術者の実務経験についてのまとめ
電気主任技術者になるために実務経験が必須か否かは、取得方法によって変わります。具体的には、認定取得だと実務経験が必要ですが、試験だと不要です。
なお、実務経験は無条件に認められるわけではなく、経済産業省が定めた学歴要件を満たした上で、規定の業務内容を一定期間経験している必要があります。
認定取得であれば、難易度の高い試験を受ける必要はありませんが、その分時間や労力はかかります。メリットとデメリットを理解した上で、自身の状況に合った方法を選択しましょう。
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