工事現場でクレーンなどに吊るされた資材が持ち上げられているのを見ることがありますが、その資材を吊るして運搬するために必要な技術が「玉掛け」になります。
玉掛けには持ち運ぶ資材やその形状・用途によって、「スリング」という吊るすための道具の種類や、吊るすためにおこなわれる作業である「掛け方」が異なり、それぞれに応じた方法が用いられています。
今回は玉掛けにおけるカテゴリーの中でも、作業における基本的な掛け方・スリングの種類・その他玉掛け作業に用いるさまざまな道具などについて解説していくことにします。
初めての人も玉掛けの経験がある人も、意外と奥の深い玉掛けの世界を一緒に覗いてみませんか?
玉掛けの基本的な方法4選
玉掛けとは資材や荷物などを、クレーンなどのフックに引っ掛けて持ち上げたり、降ろしたりする作業のことをいいます。
資材や荷物を直接フックに吊るす場合もありますが、一般的にはフックと荷物などの間にスリングという道具を使用して、運搬をおこないます。
後述しますがスリングは、ワイヤーロープなど多数の種類があり、資材や荷物の用途に応じてさまざまなスリングを使い分けて使用します。
また資材や荷物を安全・安定して持ち運ぶためには、スリングの種類を変えるだけでなく、スリングを荷物等に引っ掛ける掛け方も用途によって使い分ける必要が出てきます。
ここからはそれぞれの用途に応じた4種類の玉掛けにおける掛け方を紹介していきます。
目掛け
目掛けとは、ワイヤーロープなどのアイを直接フックに引っ掛ける方法で、ロープ等の数によって1~4本吊りといったものがあり、玉掛けの中では最もベーシックな掛け方であるといえます。
ただし資材や荷物といった吊り荷がそれぞれが非対象である場合は運用が難しいといわれており、また他の掛け方とも共通しますが、2本吊り以上の場合はロープ同士が重ならないようにする必要があるなど、掛け方においても常に注意を配る必要があります。
ちなみにアイとは、ロープなどの先端にある円状のようなものをいいます。
半掛け
次に紹介する半掛けは、フックにワイヤーロープなどのアイを引っ掛けるのではなく、ロープそのものを直接引っ掛ける掛け方をいい、ロープの数によって2・4・6本吊りなどがあります。
資材や荷物側につり手が着いている場合や、常に同じ仕様のものを運ぶ場合などに向いている掛け方です。
しかし荷物などの重心位置が高い場合や、重心が中心ではなく不安定なものについては、アイを使ってフックに引っ掛けていない分、バランスを崩してロープ自体が滑る恐れがあり、安定感がないものを掛けることには適していません。
あだ巻き掛け
続いて紹介するあだ巻き掛けは、クレーンなどのフックにワイヤーロープなどを1回巻き付けてから、資材や荷物などを引っ掛ける掛け方です。あだ巻き掛けの場合も他の掛け方と同様に、荷物等の種類によってロープを複数使用することがあります。
あだ巻き掛けの長所としては、半掛けに対してロープを1回巻き付けていることを活かしたものが多く、多少重心が高い荷物や重心が中心でないものでも安定して持ち上げることができるだけでなく、安定性を増すためにロープなどのスリングの長さを調整するといったこともできます。
しかしワイヤーロープなどが太い場合は、ロープが曲げづらいだけでなく無理に曲げることで強度が低下したり、曲げたロープに癖がついてしまうため、他の用途に転用しずらいといった点があります。
またあだ巻き掛けはフックに掛けるロープの面積が増えるため、4本づり以上で使用することはありません。
肩掛け
最後に紹介する肩掛けですが、フックのそのものではなく、フックの6の字を形作るちょうど上に位置する肩の部分にワイヤーロープなどを直接巻き付けて、資材や荷物などを引っ掛ける掛け方です。尚ロープの巻き方自体は、あだ巻き掛けの巻き方を同じになります。
肩掛けの長所に関しては、あだ巻き掛けにおける内容とほぼ同じですが、ロープを巻く場所がフックより太いため、ロープ自体の円の形も大きくなり、あだ巻き掛けの欠点でもあった太いロープでも使用しやすくなったり、またロープ自体の癖もつきにくくなるといった点が挙げられます。
しかしフックの形状によっては対応できないものもあり、この点においては注意が必要であり、また前もって確認しておくことも大事になってきます。
玉掛けにおけるそれぞれの掛け方には、長所もあれば短所もあるので、資材または荷物の種類や使用する目的・用途に対応した掛け方を使い分けておこなっていく必要があるといえます。
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玉掛け作業の必須用具「スリング」を選ぶ方法
玉掛けをおこなう際には、資材や荷物といった吊り上げるものの種類と、目的や用途に合わせてそれぞれに対応した掛け方をすることが望ましいことを前項で述べてきましたが、用途によって使い分けるものは掛け方だけではありません。
玉掛けをおこなうために必ず必要となるスリングも、資材や荷物といった種類や、目的や用途によって使い分ける必要があります。
スリングとは資材や荷物などの吊り荷と、フック等の吊り金具とを繋ぐ用具のことを指し、ワイヤーロープ・スリングベルト・チェーンスリングなどを主に使用します。
ここからは玉掛けのスリングに用いる道具の種類とそれぞれの特徴について解説していくことにします。
ワイヤーロープ
ワイヤーロープは玉掛け作業において、最もよく使われるスリングの1つです。
ワイヤーロープは材料に鋼鉄線が使われており、通常のロープに比べて強度が硬いのが特徴です。また玉掛け用以外にも台付け用などの種類もあり、太さや長さに関してもいろいろな種類があります。
玉掛け作業だけでなくいろいろな場面でオールラウンドな働きをしてくれますが、あだ巻き掛けにおける変形など、ロープの性質上形崩れがしやすかったり、また錆びやすいなどの劣化が早いといった欠点もあります。
よって玉掛け作業に使用する際は、前もって点検をおこない、安全に使用できるためのチェックを常にしておくようにしましょう。
スリングベルト
スリングベルトはワイヤーロープや後述するチェーンスリングとは異なり、材料に繊維を使用したスリングになります。繊維は主にナイロンを使用しているものが多く、また強度に関してもその他のスリングと比べてひけをとりません。
玉掛け作業用としては、ベルトスリングとラウンドスリングの2種類があり、それぞれの用途に合わせて使用されています。またどちらも軽量で作業をおこないやすく、繊維という性質上資材や荷物を傷つけることがないのがメリットといえます。
ただし熱や太陽光を苦手とし、保管場所には涼しくまた日の当たらない場所を選ぶ必要があったり、耐久性が他の2種類のスリングと比べて弱く、摩耗や劣化が早いのことに注意が必要です。
チェーンスリング
最後にチェーンスリングとはその名の通り、ワイヤーロープにおけるロープ部分をチェーン状にしたスリングになります。
チェーンスリングは前述した2つのスリングに比べて錆に強いだけでなく、形崩れや耐久性にも優れているという大変優秀なスリングです。耐久性を活かして何度も使い続ける業務には向いているスリングといえます。
しかし前述した2つのスリングに比べて重量があるため、取り扱いは楽ではありません。また耐久性や錆に強い仕様とはいえ、きちんとしたメンテナンスをしておかないと、その性能を発揮することはできません。
全てのスリングに共通していえることですが、スリングは資材や荷物といったものと、吊り上げるために必要となるフックなどの道具との間を取り持つ接着剤のような役目を果たしているといえます。
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玉掛け作業に使うその他の用具と使う方法
ここまで玉掛け作業をおこなうために必要な道具の1つであるスリングについて述べてきました。
スリングには主に3種類のものがあり、吊り荷の種類や用途によって使い分けることができましたが、クレーンなどの機械によって吊り荷を引き上げたり、また降ろしたりするのに必要となるフックのようなものにも、それぞれの用途に合わせたいろいろな種類があります。
ここからは玉掛けの作業において必要となるスリング以外の用具について解説していきます。
連結金具
ここまで玉掛けの作業として、スリングを引っ掛けて資材や荷物などを吊り上げる用具のことを、便宜上「フック」と述べてきましたが、正式にはフックを含めてそれらの吊り金具のことを総称して「連結金具」といいます。
この連結金具はその名の通り金具で造られていることが特徴で、その種類はスリングと比べて大変多く、さまざまな用途に対応しています。
またスリングを使用した掛け方に関しても、連結金具によっては全ての掛け方に対応していたり、一部にしか対応できなかったりとさまざまです。
ここからは玉掛けの知識において、一番種類が多くまたそれぞれ個性を放っている連結金具について1つでも多く紹介していくことにします。
シャックル
シャックルはU字型をした連結金具の1種で、いろいろなスリングや掛け方に対応した万能型の連結金具です。
玉掛け作業用のシャックルとしては、バウ型とストレート型の2種類があり、どちらもU字型の1番底の部分にワイヤーロープなどのスリングを引っ掛けてそれぞれを連結させます。
またシャックルを固定させる際には、ボルトで固定する以外にもねじ込みによって固定することもでき、用途に応じて使い分けることもできるタイプもあります。
重量フック
重量フックはクレーンなどに装着しているフックのことなどを指し、連結金具の中で最も一般的な吊り金具になります。
重量フックはアイフック形とシャンクフック形の2種類があり、その中でも玉掛け作業においては、アイフック形の重量フックの方が、ワイヤーロープなどの各種スリングと相性が良いといわれています。
また掛け方においても、他の連結金具と比べてスリングを引っ掛けたり外したりしやすいため、玉掛け作業を頻繁におこなう用途に向いた連結金具という性質も持っています。
リング
リングはその名の通り円形または楕円形の形をした連結金具で、そのまま使用するのではなく、重量フックなどに引っ掛けた状態で使用します。
重量フックにリングを引っ掛けておくことによって、重量フックから直接スリングを引っ掛けるよりも多くのスリングを取り付けることができるのが特徴です。
しかし前もって重量フックの厚みに対して、リングがどれくらいのスリングを吊り下げられるかを前もって調べておかないと、吊り下げ時の重み等によってリングが破損する恐れがあります。
クランプ
クランプはパッと見た感じは重量フックと似た印象を持ちますが、連結金具としての使用方法はかなり異なっています。
クランプは資材や荷物などを他の連結金具のように吊り上げるための金具ではなく、資材などを直接挟み込んで持ち上げる連結金具です。
スリングで引っ掛ける箇所がない資材などに用いられ、用途に応じて縦吊りと横吊りの2タイプがあります。
また他の連結金具に比べて、比較的安全かつ掛け方作業なども簡単におこなうことができ、さまざまなの工事現場で使用されているだけでなく、業界を中心に安全吊具としての評価も高いです。
アイボルト
アイボルトもその名の通りボルトの上部がアイ状になっている連結金具になります。
玉掛けの掛け方においては、アイボルトの上部であるアイの部分に、ワイヤーロープなどのスリングを引っ掛けて資材や荷物といったものを吊り上げて使用します。
またアイボルトはクランプとは異なり、原則横吊りには対応していないことに注意が必要です。
ハッカー
ハッカーは一見するとかぎ爪のように見えますが、使用方法もかぎ爪に少し似た感じともいえる連結金具でもあります。
ハッカーの爪は1本のものと2本のものがあり、どちらの場合も爪の部分を水平にして使用し、主に平たい板状の資材や荷物を吊り上げるのに適しています。
また掛け方としては、水平のバランスが大事になるため、1または3吊りのような奇数による掛け方はおこないません。また資材などがきちんと爪の奥まで挟まなければならないことにも注意が必要となってきます。
吊り天秤・保護具
ここまでいろいろな種類の連結金具を紹介してきましたが、玉掛け作業の掛け方において使用する金具や道具はまだ他にもあります。
ここからは玉掛け作業や掛け方において、各作業の効率性や安全性といった他に、資材及び荷物やスリングなども保護する道具などを紹介していきます。
吊り天秤
吊り天秤はその名の通り天秤のような形をした玉掛け用具の1つで、吊り上げる資材や荷物の中でも、比較的長尺のものを引き上げるのに使用されたり、スリングを垂直に吊り下げることによって、資材や荷物を辺りに接触させないよう吊り上げるのに使用したりします。
注意しなければならない点としては、吊り上げる荷物などに対して、吊り天秤のサイズや質量または重量といったものに合うものを使用する必要があります。
モッコ
モッコは小型で雑多な荷物などを一度に吊り上げることができる袋のような形状をした玉掛け用具の1つです。
袋の素材にはスリングにおけるワイヤーロープや、スリングベルトで使われている素材と同じものが使用されており、それらを網目状にしています。またシートを引くことによって、砂や土砂といった細かいものも吊り上げることができます。
モッコを使用するときに注意しなければならない点としては、荷物などをできる限り中央に配置して重心を一定に保つことや、使用する用途に応じた大きさや形状などに合わせたものを用意する必要があります。
サルカン
玉掛けにおける掛け方の作業が終わった後、資材等を吊り上げている最中にワイヤーロープなどのスリングが撚りを起こして吊り荷が回転するケースがあり、場合によっては重大な事故を引き起こす危険性があります。
それらの撚りや回転を防ぐ役目を担っているのが、サルカンという玉掛け用具です。
見た目は地味で目立たない金具ですが、担っている役割は大変重要な道具といえるでしょう。
チェーンブロック
チェーンブロックは、玉掛けの掛け方作業を終えて吊り上げの段階に入るとき、吊り荷の均衡が取れない場合にバランスを調整するために用いられる玉掛け用具の1つになります。
当てもの
当てものとは、吊り上げる資材や荷物などが角張っていたり鋭利な場合などでスリングを傷つける可能性がある場合や、逆に吊り荷自体がスリングによって傷がつくのを防ぐ際に用いられるものです。
当てものの種類としては、布やゴム板・鉄板などさまざまなものが使われています。
当てものを使用する際は、吊り上げてから当てもの自体を落下させないことに注意が必要です。
まくら・歯止め
まくら及び歯止めに関しては、いわゆるストッパーの役割をおこなうための用具です。
吊り荷が着地する際、荷物の形状によっては転がったり滑ったりすることがあります。それらを防止するために、まくらや歯止めが必要となってきます。
安全に玉掛けを行うために荷重表をチェック
安全係数を考慮した上で、玉掛用のワイヤーやチェーンの一本のつり具で垂直につることができる最大の質量を安全荷重と言います。
玉掛では2本でつったり4本でつったりすることも当たり前にあり、ワイヤーにかかる負担はつっているときの角度などによっても変わります。
他にも「耐荷重」という言葉があり、材料が破断しない荷重を表したり、製品により破断する荷重が明記されている場合があります。
このような数値は以下のような公式で求められます。
・破断荷重(t)=(ロープ径×ロープ径)÷20
例えばワイヤロープが20mmの場合で考えた場合
(20×20)÷20=20tが破断荷重となります。
・基本使用荷重(t)=(ロープ径×ロープ径)÷20÷6となります。
上記の使用例でいくと(20×20)÷20÷6=約3.3tが基本使用荷重
このような数値をまとめられたものが荷重表であり、どのような玉掛け作業でも必ず事前にチェックすることで事故を防ぐことができます。
参考にできるサイト:
玉掛け用ワイヤロープの安全荷重表(JIS 6×24 A種)|一般社団法人日本クレーン協会
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玉掛け作業に使うその他の用具と使う方法
いかがでしたでしょうか。ここまで玉掛け作業における掛け方・スリングの種類・連結金具・玉掛けにおいて必要なその他の用具や方法について述べてきました。
玉掛けは単純な作業などではなく、今回紹介した掛け方やいろいろな用具を組み合わせることによって初めて安全・安定かつ効率的に運用することができる、とても奥の深い作業でもあります。
この記事を参考に少しでも多くの人が玉掛けに興味を持って頂けたら幸いです。最後まで読んで頂き本当にありがとうございました。
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