思い描いた発想を具体的に形にしていくうえで、欠かせない存在と言えるのが機械設計者です。
家電製品・自動車・製造機械といった、あらゆる機械の設計には専門的な知識やスキルが必須と言えるでしょう。
機械設計エンジニアを目指しているものの、何の勉強からはじめていけばいいのか分からないという人もいるのではないでしょうか。
今回は、機械設計の仕事に就くために必要な知識や具体的な勉強方法について、分かりやすく解説していきます。
【この記事で分かること】 ・機械設計者になるうえで欠かせない4大力学 ・設計者として働く際に必要となる知識 ・機械設計の勉強方法と役立つCADアプリ ・各地で開催されている機械設計の勉強会について |
機械設計エンジニアになるなら勉強しておくべき4大力学
機械設計と一口に言っても、精密機械に使用する細かな部品の設計や、大規模な機械の設計など、さまざまな種類があります。
それぞれで求められる専門知識は異なるものの、まずは全ての設計に活かせる基礎知識を身につけておく必要があります。
機械設計における基礎知識として「機械工学の4大力学」があります。
・材料力学
・機械力学
・流体力学
・熱力学
ここでは、各力学についてどのような内容なのか分かりやすく解説していきます。
材料力学
機械には、それを構成するために数多くの部品が使われています。
各箇所で求められる部品強度を計算したうえで、設計するのが材料力学の考え方です。
重圧がかかった際に破損してしまわないか、熱をもった際に変形してしまわないか、細かく計算しながら設計します。
機械そのものを動かす構造を設計する作業ではなく、地味な作業ではありますが、品質の良い機械を最小限のコストで創るうえで重要な役割を果たすものです。
・SI単位系
・応力やひずみ
・材料の曲げに対する強度
・許容応力や引張強度、安全率
・せん断応力や熱応力
・疲労とクリープによる破壊
・座屈
応力とは、単位面積あたりにかかる力のことで、応力が大きいほど部品が壊れやすくなります。
部品に使用する各材料がどれくらいで曲がったり、破損してしまったりするのか、力関係についての知識を身に付けていきます。
車の設計に例えると、発進や減速などの際に各部品に働く力や変形を調べ、あらゆる環境での走行に耐えうる車体を設計する際に活かせます。
機械力学
機械力学とは、機械を動かした際にどのような力が生じるのかを扱う学問です。
車・家電製品・工場の生産ロボットなど、あらゆる機械の設計に欠かせないもので、設計エンジニアとして最も重要な要素と言えるでしょう。
機械力学には、動く物体の力関係を学ぶ「動力学」と、動かない物体に対して影響する力を学ぶ「静力学」の2種類があります。
機械に使用するギアが、どれくらいの力でどのような動きをするのか、往復運動や回転運動部分を設計する際に基盤となる力学です。
・力のつり合いやてこの原理
・ニュートンの運動3法則
・重心
・ラーメン構造やトラス構造
・放物運動と落下、運動学
・摩擦係数や摩擦力
・慣性力、遠心力、向心力
・振動
・危険速度、共有、固有振動数
とても難しそうな内容ですが、学生時代に習う慣性の法則といった、物理の延長線上にある力学です。
車の設計に例えると、走行中における各部品の動きや振動などを調べ、安全に走行し続けられる車の設計に活かします。
流体力学
流体力学とは、風や水といった自由に変形する流体の運動に関する学問です。
風や水の力を利用する風車や水車、19世紀あたりに起こった産業革命では、蒸気の力を利用した蒸気機関が生み出されました。
近年では、重い機械を動かすために、油圧や圧縮空気が利用されています。
これらの物質の動きにより発生するエネルギーを利用し、機械の目的に合った動きをさせるのが流体機械です。
車の設計に例えると、走行時に生まれるボディ周りの空気の流れや抵抗を調べ、空気抵抗を減らす形状にして燃費を向上させる際に活かせます。
熱力学
熱力学とは、熱が生み出すエネルギーを活かすための学問です。
先ほど紹介した蒸気機関は、石炭を燃やすことで発生した熱で水を沸騰させ、蒸気の力でピストンを動かす仕組みです。
なぜ空気が温まると膨張するのか、その働きをどのように活かすのか、具体的に学んでいきます。
車の設計に例えると、エンジン内における熱の発生や伝わり方を調べ、効率の良いエンジンの開発に活かせます。
機械設計エンジニアになるなら勉強しておくべき6つの知識
機械設計エンジニアになるには、力学だけでなく製造の際に必要となる図面の作成方法や、各製造工程に関する知識も必須と言えます。
製造における具体的な知識には、以下のような項目があります。
・製図
・機械要素
・加工
・材料
・組立
・生産
各工程に関する具体的な知識について解説していきます。
製図
機械をつくりあげていくうえで、はじめに着手するのが製図です。
製図とは、設計の仕様を図面にしたもので、製造に関わる全ての人が意図したものを作れるように、一定のルールが定められています。
機械に使用されている全ての部品ごとに製図が作成され、内容に沿って材料が加工されていきます。
機械要素
機械要素とは、機械を構成する最小の機能単位のことで、ボルトやワッシャーといった部品を固定するものや、ギアやプーリーといった運動を伝達する部品が該当します。
各部品にどのような種類が存在するのか、各動作に最適なものはなんなのか詳しく理解していなければ、品質の高い機械が作れません。
ナットを例に紹介すると、以下のような種類が存在します。
名称 | 概要 |
六角ナット | ボルトの固定で最も使用されるナットで、精密機械や家電製品、橋などあらゆる箇所に用いられている。 |
六角袋ナット | ボルトの先端がむき出しにならないため、人が触れる恐れのある箇所の使用に適している |
四角ナット | 溝などにはめ込むことで回転しなくなるため、ナットを抑えずに固定できる |
インサートナット | プラスチックに埋め込んで使用するナットで、真鍮製やアルミ製がある |
振動の多い場所では緩みにくいもの、柔らかい素材に使用する場合は馴染みやすいものというように、あらゆる箇所に最適な部品を選べるようになる必要があります。
加工
実際に部品を製造する行程では、さまざまな機械加工が用いられ、それぞれにメリット・デメリットがあります。
加工方法 | 特長 |
切削加工 | 金属やプラスチックの加工に用いられることが多く、刃物で素材を削って形状を整える。
短時間で加工できるため、多品種小ロットの部品製作に適している一方で、切りくずが大量に発生しやすく、コストが高くなることがある。 |
研磨加工 | 金属加工の仕上げに使用されることが多く、表面を少しずつ削るため滑らかな状態にしたい場合に適している。
ミクロン単位での精度調整が可能である一方で、大量に研削しなければならない部品製造には適さない。 |
放電加工 | 電気エネルギーによって放電を繰り返し、素材を溶解させることで形状を整える。
高精度な加工が可能で、硬い素材でも溶解できる一方で、導電性のない素材では使用できず、加工に時間がかかる。 |
溶接加工 | 接合したい金属部分同士や溶加材を間に溶かして接合する加工。
機械加工では難しい大きな機械の製造に適しており、強度の高い接合ができる一方で、熱によりゆがみがでやすい。 |
製造する機械によって製造方法はある程度決まっているため、全ての加工方法について理解しておく必要はありません。
材料
機械要素と同様に、使用環境に適した材料の選定も大切です。
各材料には「機械的特性・物理的特性・化学的特性」があります。
機械的特性 | 金属材料が持つ力学的な特性を示すもので、圧縮や引張りといった外部からの力に対する耐久性などが数値によって表わされている。 |
物理的特性 | 物質の密度や導電性、熱伝導性などを数値化したもの。 |
化学的特性 | 各物質に起こりうる化学反応や化学変化に関するもので、酸化状態や吸湿性、燃焼性などがある。 |
繰り返し運動による摩擦が多い箇所などは、摩擦熱が発生しやすく、耐熱性の高い素材を選定しなければなりません。
衝撃や振動を受けやすい場合は、柔軟に対応できるような素材が適していると言えるでしょう。
組立・生産
製図通りに部品が加工された後は、機械を組み立てていく行程へと移ります。
自動車や家電といった大量生産する機械に関しては、工場での「ライン生産方式」が主流です。
ベルトコンベアーによって流れてきた機械の骨組みに対し、工場スタッフが決められた作業をこなし組み立てていきます。
この他では「セル生産方式」があります。
セル生産方式は、少人数のチームで1つの製品を最初から最後まで組み立てていく方式で、多品種少量生産に適しています。
製造工程で別の部署が存在するため、詳しい行程まで熟知しておく必要はないものの、どのような種類があるのか理解しておくようにしましょう。
近年は、製造効率の向上と作業員の負担軽減を目的として、生産行程のAI化やIot化が進んでいます。
各種工程で作動している機械や、作業員の動きをインターネットとつなげることにより、製造データの収集や分析を行い、遠隔操作も可能とした技術。
機械設計を勉強する方法5選
機械設計の仕事につくための力学や、専門知識について学習する方法は、主に5つあります。
・本で勉強する
・YouTubeで勉強する
・機械設計エンジニア養成の講座で勉強する
・転職して実務経験をしながら勉強する
・ポリテクセンターで勉強する
各学習方法の内容について、メリット・デメリットも踏まえながら解説していきます。
本で勉強する
機械設計に関する書籍は数多く販売されており、通販により簡単に手に入れられます。
テキストによってレベルが異なるため、自分に合った書籍を選定したうえで購入するようにしましょう。
通信講座や専門学校への通学と比べて、費用がほとんどかからず、気軽に始められることがメリットと言えます。
一方で、講師がいないため途中で質問ができず、1人で学習を進めていかなければならず飽きやすいため注意が必要です。おすすめのテキストを2冊紹介します。
生産性を高めるための有効な手段である、自動化に関する設計の基礎やコツが紹介されており、実務に直結した基礎知識に絞り込んで解説されています。機械の構想から機構やアクチュエータ、材料や加工法まで図を用いて詳しく紹介されたテキストです。
機械工学をベースにした設計について分かりやすく解説されており「設計事始・機構設計・構造設計・材料設計・要素設計・回路設計」を学べます。
YouTubeで勉強する
YouTubeでも、機械設計エンジニアに関するさまざまなコンテンツが配信されています。
通信講座のように、各設計に関して詳しく解説しているものもあれば、キャリアアップを目指す方向けのおすすめスキルなどを紹介している動画もあります。
動画コンテンツであるため、理解しやすくコメント欄から質問も可能です。
音声のみで、移動中などに気軽に聞けることも魅力と言えるでしょう。
一方で個人的な考えで解説されているものも多く、全ての内容が正解とは限らないため、注意が必要です。
・機械設計エンジニアの基礎知識 MONOWEB
・竹の子Lab.【現役機械設計者】
機械設計エンジニア養成の講座で勉強する
近年は、動画テキストをメインとした通信講座も多く販売されています。
入門編から上級者向けまでさまざまな講座が用意されており、テキストメインのものもあれば、eラーニングで学べる教材もあります。
学習ステップや受講期間などが細かく設定されており、無理なく正しい知識を身に付けられることが特長です。
講座にもよりますが、価格は15,000〜100,000円ほどです。
転職して実務経験をしながら勉強する
機械設計エンジニアとして働くには、専門的な知識が必須と言えますが、全ての業務を一人でこなすわけではなく、未経験からでも転職可能です。
人材確保の観点から、未経験者を歓迎している機械設計の求人も少なくありません。
見習いからのスタートとはなりますが、実務経験を積みながら設計者として成長できます。
どのような機械を設計したいのか、具体的な業務内容などを決めたうえで、求人を見つけてみましょう。
各種メーカー・製造業に特化して、多くの求人を取り扱っており、CADオペレーターや機械設計に関する求人も多くあります。各種条件を指定したうえでの求人検索はもちろん、経験豊富なコンサルタントへの無料相談も可能です。全求人のうち、8割は非公開求人であり他の転職メディアで理想の求人が見つからなかったという方にもおすすめです。メーカーキャリア公式サイトはこちら
ポリテクセンターで勉強する
勤めていた会社を退職し、求職中という方はポリテクセンターでの勉強もおすすめです。
ポリテクセンターとは、職業能力開発促進センターのことで再就職をサポートするための職業訓練を受けられます。
訓練中には、機械CAD設計科などもあり、約6ヵ月間かけて専門知識やスキルを身に付けられます。
テキスト代として数千円かかるものの、受講料などが一切かからないのが一番の魅力です。
そのまま、求人を紹介してもらうことも可能であり、効率良く転職活動を進められます。
機械設計を勉強する上で役立つ5つのCADアプリ
機械設計の仕事をこなすうえで、必ず扱うツールの1つに「CAD」があります。
自動車・家電・住宅など、あらゆるものの製図を作成するためのツールのことです。
立体図や平面を線や円弧で描く「2D CAD」と、立体像を円や直方体を使って描く「3D CAD」に分かれます。
部品設計や機械設計は3D CADが主流です。
近年は、スマートフォン用のCADアプリもたくさんあり、初心者でも気軽に挑戦できます。
・IJCAD Mobile LT
・CAD Pockets
・RootPro CAD
・AutoCADモバイル
ここでは、上記4つのCADアプリについて、解説していきますので気になる方は活用してみてください。
IJCAD Mobile LT
IJCAD Mobile LTは無料で使用できるCADアプリで、ドロップボックスに図面を入れておくことで、いつでも確認できるようになっています。
さまざまな機能が付いており、図面にチェックを付けたりメモを残したりもできます。
ヘルプ機能も充実しており、初めてで使い方が分からないという方でも安心です。
CAD Pockets
CAD PocketsはPDF・DWF・DWG・DXFファイルの編集に優れており、2Dと3Dどちらにも対応しています。
クラウド対応しており、複数人でデータを共有することも可能です。
CADになれていない人はもちろん、現役の設計士も重宝する機能性に優れたアプリと言えるでしょう。
RootPro CAD
RootPro CADは2D CADアプリで、機械だけでなく土木や電子などのジャンルにも幅広く対応しています。
開発元が日本のメーカーであることから、操作方法なども理解しやすく初心者の方におすすめです。
AutoCAD・JwCADとの互換性があり、ファイルの読み込みや書き出しができます。
一部を無料で利用できて、全ての機能を使いたい場合は19,800円〜で購入可能です。
AutoCADモバイル
AutoCADは、現役の機械設計エンジニアにも使用されているソフトの1つで、中級者向けのCADアプリです。
自由に図面を編集できるのはもちろん、各種データの保存性に優れており、複数人での共有も出来ます。
建築設計や機械設計など、業種別でツールが用意されており、利用している企業が多いことから、操作に慣れておくと実際の業務でも十分役立つアプリです。
機械設計に関する勉強会は各地で実施されている
機械設計の勉強方法を紹介してきましたが、この他にも製造業で役立つセミナーが全国で開催されています。
ライブ配信で受講できるものも多く、具体的には以下のようなセミナーがありました。
機械装置の疲労破壊を防ぐ方法 受講料:43,000円 | 各種機械の部材に対して応力が発生することで起きる疲労破壊の仕組みを理解し、破壊力学の知識を身につけ防止対策ができるようにする。 |
基礎から学ぶ「機械設計」 受講料:49,500円 | 機械設計の仕事に従事するにあたり、必要な設計の初期段階における手順や注意事項を解説。 |
加工方法の性質を考慮した意義ある図面の書き方と活用法 受講料:49,500円 | 加工方法別で適切な図面の書き方を詳しく解説。
部品の寸法などの精度評価が曖昧にならないようにしたうえで、不具合や事故の発生を防げるようになる内容。 |
この他にもたくさんの機械設計に関するセミナーがありますので、気になる方はネット上で調べてみてください。
参考:ものづくりセミナーサーチ
機械設計の勉強に関するよくある質問
最後は、機械設計の勉強に関する3つのよくある質問に答えていきます。
・機械設計の勉強は何からはじめたらいいですか?
・機械設計の勉強は何ヶ月かかりますか?
・機械設計の仕事にはどのような資格が必要ですか?
勉強のはじめ方や、就職するうえで必要となる資格などについて解説していますので、参考にしてみてください。
機械設計の勉強は何からはじめたらいいですか?
機械設計の勉強をはじめる場合は、全ての設計業務に共通している「4大力学」の学習をおすすめします。
4大力学についてある程度理解できた後は、従事したい業種に合わせた製造に関する規格や製図の方法、組み立ての流れなども勉強していきましょう。
機械設計の勉強は何ヶ月かかりますか?
機械設計の知識やスキルを証明する「機械設計技術者試験」を参考に紹介すると、入門編となる3級で200〜300時間の勉強が必要と言われています。
実際の業務に活かせるより詳しい知識を身に付けていくには、数年の時間が必要と言えるでしょう。
ただし、機械設計の仕事に従事するうえで必須となる資格はなく、働きながら設計エンジニアとして成長することも十分可能です。
機械設計の仕事にはどのような資格が必要ですか?
機械設計の仕事に就くうえで必須となる資格はなく、未経験者を歓迎している求人も中にはあります。
機械設計の知識を証明する資格には、前述した「機械設計技術者資格」があり、入門編の3級から上級者の1級まであります。
キャリアアップに役立ちますので、ある程度実務経験を積んだうえで資格取得に挑戦してみるものおすすめです。
参考:機械設計技術者試験とは|一般社団法人日本機械設計工業会
関連記事:機械設計エンジニアにおすすめの資格10選|メリットや難易度も
機械設計の勉強に関するまとめ
機械設計の勉強をはじめる場合、全ての基礎となる4大力学の学習からスタートしていきます。
4大力学について理解した後は、挑戦したい業種に合わせて実際の業務で必要となる製図・機械要素・加工・組み立てといった製造の流れについて学習していきましょう。
機械工学系の学校へ進学するのが一般的ですが、専用のテキストやYouTubeなどでも十分知識を身に付けられます。
また、未経験者を歓迎する求人もあるため、機械設計関係の会社へ入社したうえで、実務経験を積みながら成長していく方法もおすすめです。
自分の現状に合っていると感じた方法で、機械設計士を目指してみましょう。
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