退職手続きをスムーズに進めるためには、事前の準備と計画が不可欠です。
手続きを怠ると、給与の未払いが発生したり、年金や健康保険の切り替えが遅れたりするリスクがあります。
また、引き継ぎが不十分な場合、トラブルや後任者への負担が増えることもあり、職場全体に迷惑がかかる恐れもあります。
さらに、円満退職ができなければ、将来的な再雇用や人脈に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。
そこでこの記事では、退職の意思表示から必要書類の提出、業務の引き継ぎ、公的な手続きに至るまで、退職手続きの全体的な流れと注意点を解説します。
退職を検討している方や、すでに退職を決意された方は、円滑な退職を実現するために本記事の内容を参考にしてください。
退職手続きの流れ
退職手続きの流れは大きく分けて、上記の7つの段階となっています。それぞれ詳しく解説します。
退職の意思表示
退職の意思は、まず直属の上司に伝えることが重要です。
伝えるタイミングは一般的に1~3カ月前が多いですが、民法上では、期間の定めのない雇用契約(正社員など)の場合、退職の意思は退職希望日の2週間前までに伝えれば問題ないとされています。
ただし、就業規則で特定の期限が定められている場合は、その規則に従うことが大前提です。
急な退職は企業側に多大な迷惑がかかります。後任者探しが間に合わなかったり、業務の引き継ぎがスムーズにできなかったりして、円満退職が難しくなることもあるでしょう。
周囲への負担を考え、余裕を持って早めに退職の意思を伝えることをおすすめします。
退職願の提出
退職願の提出は法的に義務ではありませんが、就業規則で定められている場合もあるため、上司に確認することをおすすめします。
なお、会社都合による退職の場合、退職願は不要であるのが普通ですが、稀に提出を求められることがあります。その際は「一身上の都合」ではなく、「部門の再編成により」「業務整理に伴い」など、具体的な理由を記載しましょう。
「一身上の都合」と記載してしまうと、自己都合退職と見なされ、失業給付の支給が遅れるなどの不利益が生じる可能性があります。
なお、退職願は退職希望日の1カ月前に提出するのが理想的ですが、民法上は2週間前までの提出で問題ありません。
業務の引き継ぎ
業務の引き継ぎは、退職日から逆算して段取りをすることが重要です。ただし、退職日ちょうどに引き継ぎを完了させるのではなく、退職日の3日前までに完了させることをおすすめします。
自分が担当している業務は、可能な限り区切りの良いところまで進め、中途半端な状態で引き継ぐことは避けましょう。すでに後任者がいる場合は、引き継ぎ資料をまとめておくと、よりスムーズに進められます。
取引先への挨拶
社外の取引先への退職のあいさつは、退職日の2~3週間前におこなうのが一般的です。ただし、企業によっては慣例として退職日まで口外禁止の場合もあるので、上司に確認してから行動しましょう。
あいさつは直接会っておこなうのが理想ですが、難しい場合はメールなどコミュニケーションツールでの連絡でも問題ありません。一斉送信ではなく、個別に送信することで、より良い印象を残せます。
有休の消化・備品の返却
有給休暇が残っている場合は、全日数を消化しながら給与を得ることが可能です。ただし、後継者への引き継ぎ、取引先へのあいさつも大事な仕事ですので、それらに支障が出ないように、計画的に有休を消化してください。
同時に、貸与物の返却やデスク周りの整理も忘れずにおこないましょう。
最終出社
退職当日は、ほとんどの業務が既に完了している状態が望ましいです。残る作業は、事務的な手続きと職場での挨拶しかない状態が理想でしょう。
支給された備品を返却し、書類の受け取りを済ませた後、メールや直接対面でのあいさつを適切なタイミングでおこないましょう。
公的な手続き
退職後には、健康保険、年金、税金に関する公的な手続きが必要です。手続きの漏れがないように、該当項目をチェックリストにして確認しながら進めましょう。
退職手続きで企業に提出または返却するもの
退職手続きでは、企業に提出する書類や返却物があります。
- 退職届
- 貸与物や健康保険証
- 業務マニュアル・資料
の順に解説します。
退職届
退職届は、退職の意思を正式に確定させるための証拠として提出する書類です。
法的には口頭による伝達だけでも問題ないですが、就業規則に退職届の提出が定められている場合は、その規則に従う必要があります。
企業に指定のフォーマットがある場合はそれを使用し、特に指定がなければ自分で用意しましょう。
貸与物や健康保険証
退職日までに、勤務先から貸与された物品や健康保険証などを返却しなければなりません。
有給休暇を消化する場合は、最終出勤日までに貸与物を返却するのが望ましいでしょう。返却物として一般的に多いのは、以下のものです。
- 貸与品(社員証、パソコン、携帯電話、名刺など)
- 仕事に関連する資料やデータ、取引先の名刺
- 健康保険証(扶養家族分も含む)
その他に返却が必要な物品があるかどうか、勤務先の担当者に確認しましょう。
パソコンや携帯電話などの端末に保存されたデータは、勝手に削除せず、企業の指示に従い適切に対応してください。企業によってはデータの初期化が求められることもあります。
名刺や顧客情報は?
一般的に、従業員が業務で得た名刺や顧客情報なども、機密情報保護の観点から回収の対象となります。貸与物を返却せずに退職すると、企業から損害賠償を請求される可能性があるため、必ず返却しましょう。
リモートワークの場合は?
リモートワークをしている場合は、郵送で返却するケースもありますので、事前に返却方法を企業の担当者に確認してください。
健康保険証はいつ返せばいい?
健康保険証は退職日まで利用できるため、有給休暇を取っている際も、通常は退職後に返却することが多いです。返却方法は企業によって異なるため、担当者に確認しておきましょう。
業務マニュアル・資料
機密情報が含まれる書類やデバイスは、必ず返却する必要があります。企業は情報の取り扱いに非常に敏感であるため、これらをうっかり持ち帰ると、不要な誤解を招く可能性があります。書類やデバイスを保有する権利を失効する前に、確実に返却しましょう。
また、業務に関するデータファイル、IDやパスワードなどログイン情報についても同様です。企業ごとに取り扱い方が異なるため、事前に確認のうえ、適切に対応してください。
退職手続きで企業から受け取るもの
退職手続きの際、いくつか企業から受け取るものがあります。
- 雇用保険被保険者証
- 源泉徴収票
- 離職票
- 退職証明書
- 年金手帳
以上の順番で解説します。
雇用保険被保険者証
雇用保険に加入していることを証明する書類です。転職が初めての方は、これを目にしたことがないかもしれません。
なぜなら、雇用保険の加入手続きは最初に就職した企業でおこなわれ、保険者証は紛失防止のために企業が保管する傾向があるからです。これは転職先に提出する必要があるため、受け取りを忘れないように注意が必要です。
源泉徴収票
源泉徴収票は、1年間の給与額と支払った税額が記載された重要な書類で、通常は退職してから1カ月以内に交付されます。
税金は毎月の給与から控除されていますが、これは年間の給与総額を予測した上で計算されたものです。
年末に実際の給与額が確定すると再計算がおこなわれ、不足分の追加徴収や過払い分の返還がされ、その結果が源泉徴収票に反映されます。
年内に転職する場合、年間の給与額が確定していないため、源泉徴収票を前の企業から受け取り、転職先に提出する必要があります。
一方、年をまたいで新しい職場に入社する場合、自分で確定申告をおこなう際にも源泉徴収票が必要になるため、必ず保管しておきましょう。
離職票
失業給付金(いわゆる失業手当)を申請する際に、ハローワークに提出する必要がある書類です。失業手当を受け取る予定がある方は、退職前に企業へ離職票の発行をあらかじめ依頼しておくとよいでしょう。
発行には時間がかかることがあるため、早めに準備を進めておくと良いでしょう。なお、転職先が既に決まっている場合や、失業手当を受給しない場合は、離職票を発行してもらう必要はありません。
退職証明書
退職証明書は、その名のとおり、退職した事実を証明する書類であり、転職先から提出を求められる場合があります。離職票とは異なり、退職証明書は公的な書類ではないため、企業が独自に発行するもので、比較的短期間で受け取ることが可能です。
国民健康保険の加入手続きや失業保険の申請を急ぐ必要がある場合、離職票が届く前でも、退職証明書を使用して対応が可能となっています。
年金手帳
厚生年金に加入していることを証明する書類です。原則として、年金手帳は本人が保管するものですが、紛失防止のために企業が保管していることもあります。
ただし、令和4年4月以降は年金手帳が廃止となっており、基礎年金番号は基礎年金番号通知書によって管理されているので、今後会社から受け取るケースは減っていくでしょう。
参考:基礎年金番号・基礎年金番号通知書・年金手帳について|日本年金機構
退職手続きに伴って必要な公的な手続き
続いて、退職手続きに伴って必要な公的な手続きについて、
- 住民税
- 健康保険
- 雇用保険(失業保険)
- 年金
- 確定申告
の順番で解説します。
住民税
住民税は前年の1月1日から12月31日までの所得に基づき、翌年の6月から翌々年の5月までの12回に分けて支払う税金です。
納税額の基準となる所得を得た時期と、納税をする時期にタイムラグがあるので、失業中や年収が下がっているときは、住民税の支払い負担に注意する必要があります。住民税の納付方法は次の2つです。
- 普通徴収:納税者が年4回、自分で納める方法
- 特別徴収:給与から天引きされる方法(企業が代行して納付)
特別徴収は事業主に義務付けられており、会社員であれば原則として給与から天引きで住民税が納められることになります。
もし退職する企業に継続手続きを依頼するのが難しい場合は、一時的に普通徴収に切り替えた後、転職先で特別徴収への切り替えをおこなうと良いでしょう。
1月~5月に退職する場合
この期間に退職する場合、原則として退職月の給与から5月までの住民税が一括で徴収されます。
ただし、給与と退職金の合計額が住民税の支払額を下回る場合には、普通徴収に切り替えられます。
6月~12月に退職する場合
特別な手続きをしなくても、自動的に普通徴収に切り替わります。その後、自治体から納税通知書が送られてくるので、金融機関やコンビニなどで納付をおこなえば完了です。
また、希望する場合は、退職月から翌年5月までの支払い分を一括で納めることも可能です。
健康保険
健康保険は、会社員や公務員が加入する公的な保険です。退職すると健康保険の資格を失うため、新たな保険への加入手続きが必要です。
すぐに転職する場合
退職時に健康保険証を返却し、健康保険資格喪失証明書を受け取ります。この証明書を転職先に提出すると、通常、1週間程度で新しい健康保険証が発行されます。
転職先が未定または入社まで時間がある場合
退職日の翌日から無保険状態となるため、病気やけがをした場合、医療費は全額自己負担となります。そのため、必ず公的な健康保険に加入する手続きをおこないましょう。
公的な健康保険に加入する方法
- 任意継続被保険者制度の利用
退職後も最長2年間、企業の健康保険に継続して加入できる制度です。扶養家族を引き続き保険に加入させることも可能です。希望する場合は、退職日の翌日から20日以内に加入していた健康保険組合に申請が必要となります。
参考:健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について|全国健康保険協会
- 国民健康保険への加入
国民健康保険は各市区町村が運営する健康保険制度で、退職日の翌日から14日以内に住民票がある市区町村役場で手続きをおこないます。
手続きが遅れると、保険料が退職日までさかのぼって請求されることがあるため、早めに手続きを済ませましょう。
- 家族の健康保険に扶養として加入
家族が健康保険の被保険者であり、自身の年収が130万円未満であれば、被扶養者として健康保険に加入できる場合があります。家族が加入している保険組合に確認し、加入の可否を確かめてください。
雇用保険(失業保険)
雇用保険は国が運営する保険制度で、退職後に失業手当を受け取れる場合があります。
転職先が決まっている場合
失業保険は再就職をサポートするための制度であるため、転職先が確定している場合には受給資格がありません。
転職先が未定の場合
住所地を管轄するハローワークで離職票などを持参し、手続きをおこないます。会社都合での退職の場合は7日間の待期期間の後に手当が支給されますが、自己都合退職の場合は2~3カ月の給付制限期間を経て支給が開始されます。
失業手当は再就職の意思があり、就職活動をおこなっている人に対して支給されるため、就職の意思がない場合や、病気や妊娠・出産などで直ちに就職が難しい場合は対象外となります。
年金
公的年金には国民年金と厚生年金の2種類があります。国民年金はすべての国民が加入する基礎年金制度で、厚生年金は会社員や公務員が加入するものです。
すぐに転職する場合
転職先に基礎年金番号通知書を提出すれば、手続きは企業が代行してくれます。退職日と入社日が同じ月内であれば、特別な手続きは不要です。
転職先が未定、または入社が翌月以降の場合
退職すると厚生年金の資格を失い、国民年金への切り替えが必要です。退職日の翌日から14日以内に年金手帳や離職票を持参し、住民票がある市区町村役場で手続きをおこないましょう。
また、転職先が決まっていても、社会保険が完備されていない場合は国民年金に切り替える必要があります。
確定申告
所得税は、給与額から各種控除を差し引いた金額に対して課される税金です。
年間の給与額を見込みで算出し、毎月の給与から天引きされていますが、12月に最終的な調整がおこなわれ、過不足分が返還されたり、追加徴収されたりします。
退職のタイミングによっては、自ら確定申告をおこなう必要が生じることもあります。
期限内に確定申告をおこなわないと、無申告加算税や延滞税が課される可能性があるため、期限に十分注意して必ず申告しましょう。
すぐに転職する場合
例えば、6月末に退職し、7月に新しい企業に入社するなど年内に転職する場合は、新しい勤務先に源泉徴収票を提出することで、年末調整を代行してもらえます。
ただし、11月下旬以降に入社すると、年末調整の手続きが間に合わないことがあり、その場合は自分で確定申告を行わなければなりません。転職先で手続きが間に合うかどうか、事前に確認しておきましょう。
なお、すぐに転職する場合でも、「年収が2,000万円を超える」「副業の所得が年20万円を超える」などの条件に該当する場合は、確定申告が必要です。
転職先が決まっていない場合、または入社まで期間が空く場合
転職先が決まっていない、もしくは入社までの期間が空く場合には、自分で確定申告をおこなう必要があります。
所得に対する確定申告は、基本的にその年に得た所得について、翌年の2月16日から3月15日までの間におこないます。詳しい手続きや期間については、国税庁のホームページなどで確認してください。
参考:所得税の確定申告|国税庁
退職手続きにおける注意点
最後に、退職手続きにおける注意点を3つ紹介します。
就業規則は早めに確認する
就業規則には労働時間や給与に関する事項だけでなく、退職に関する規定も記載されています。そのため、退職を決意したら、まずは企業の就業規則を確認しましょう。
「退職日の2週間前までに退職する旨を伝えれば、法的には問題ない」と言う人がいますが、油断は禁物です。
就業規則に「退職の●ヶ月前までに告知しなければならない」などの記載があれば、原則としてそちらを遵守する必要があります。後々のトラブルを避けるためにも、早めに就業規則の内容を把握しておくことが肝要です。
スケジュールを早めに決める
退職手続きをスムーズに進めるためには、明確なスケジュールを立てることが欠かせません。就業規則に従い、退職日までの無理のないスケジュールを立てましょう。
また、退職後の生活がスムーズに始められるよう、できるだけ余裕を持って退職後のスケジュールを考えておくと安心です。
引き継ぎや挨拶回りなどは思いのほか時間がかかることもあるため、計画には余裕を持たせましょう。
タスクリストを作る
退職に伴う手続きや準備は多岐にわたるため、やるべきことを漏れなく把握するためにタスクリストを作成しましょう。
必要なものや手続きを時系列で整理し、いつ何をするべきかを明確にしておくと安心です。タスクリストがあれば、退職直前や退職後に慌てることなく、スムーズに対応できます。
退職手続きについてのまとめ
退職手続きを円滑に進めるためには、早めの準備と計画が重要です。
まずは就業規則を確認し、退職の意思表示から最終出社日までのスケジュールを具体的に立てておくことが大切です。これにより、後任者への引き継ぎや業務整理をスムーズに進められます。
また、必要な手続きや返却物、受け取るべき書類をタスクリストにまとめておくことで、退職直前や退職後のトラブルを防ぎやすくなります。
特に、年金や健康保険の手続き、未払いの給与や退職金の確認は見落としがちですので、注意が必要です。
もし、退職手筒機や準備含め、一人での転職活動に不安に感じている場合は、転職エージェントサービスを活用するのも一つの方法です。
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