「建築士」と「設計士」は、一見似ているように思われがちですが、実は違いがあり、それぞれに独自の専門性、責任、および業務の範囲があります。
しかし、実際に「建築士と設計士の違い」を理解している方は、少ないのではないでしょうか。
本記事では、建築士と設計士の仕事内容や年収の違い、建築士と設計士になる方法などについて解説します。
建築士と設計士の仕事内容の違い
まずは、建築士と設計士の違いについて解説します。
建築士は国家資格が必要
建築士の資格は、建築物の設計、施工、安全性の確保など、社会にとって重要な役割を担う専門職です。そのため、建築士の資格は、国家によってその基準や資格要件が定められた国家資格となっています。
建築士の資格を取得するためには、一定の教育と訓練を受け、国が定める試験に合格する必要があります。
試験は建築に関連する幅広い知識と技能を測るもので、建築法規、設計原理、構造計算、環境配慮など、多岐にわたる分野をカバーしています。
出典:建築士制度|国土交通省
設計士は国家資格が必要でない
一方、設計士には国家資格が必要ではありません。
設計士は、建築、製品デザイン、インテリアデザインなど、多岐にわたる分野で活動しますが、専門的な知識やスキルさえ取得していれば、活動は可能です。
建築士と設計士の仕事内容の違い
続いては、建築士と設計士の仕事内容の違いについて解説します。建築士の仕事内容と設計士の仕事内容は下記の通りです。
建築士
- 設計
- 工事管理
設計士
- 小規模設計
- 建築士補助
では、それぞれ解説します。
建築士は設計・工事監理をおこなう
まずは、建築士の仕事内容について解説します。
設計図の作成をする
設計図の作成は、まず顧客との詳細な対話から始まります。この段階で、どのような建築物を建てるかのイメージを共有します。
また、予算の制約、法律に基づく規制、そして顧客の希望を考慮し、顧客が納得できる設計案を練り上げることも、この段階で求められます。
建物の基本的なイメージが定まると、次は具体的な図面の作成に移ります。図面は大きく三つのカテゴリーに分けられることが一般的です。
意匠設計では、建物のレイアウトやデザイン、外観などの視覚的な要素に焦点を当てます。ただし、見た目の美しさだけでなく、予算の範囲内で設計が行われているか、建築基準法を遵守しているかなども重要な考慮事項です。
構造設計の役割は、柱や基礎、梁などの構造部分を配置し、形状を決定することで、建物が建築基準法を満たすようにすることにあります。安全性を確保しつつ、コスト面でも効率的な設計を心がけます。
設備設計は、建物内の快適な利用を支える電気、ガス、給排水などの設備に関わります。利用者の快適性だけでなく、省エネルギー性なども重要な考慮点となります。
工事監理をする
工事監理は、建築主の代わりとして、工事が計画通りに進行しているかを監督し、その経過を報告することが主な任務です。この役割は、建物の品質を保ち、欠陥の発生を未然に防ぐために重要です。
具体的には、工事監理者は、鉄筋の配置検査やコンクリートの打設といった重要な工程に参加し、施工会社からの報告を受けたり、材料の品質証明や検査結果の書類をチェックしたり、施工現場の写真を確認したりします。
もし工事が設計図と異なって進行している場合は、工事監理者は施工業者にその点を指摘し、必要な改善を指示します。施工業者がこれに従わない時は、建築主にその事実を報告する責任があります。
そして、工事監理の過程が完了した際には、その結果を建築主に伝えることが必要です。
設計士は小規模設計・建築士補助をおこなう
続いては、設計士の仕事内容について解説します。
小規模の木造建築物の設計をする
建築士法では、一定の規模を超える新築建築物の設計や、工事監理には建築士の資格が必要であると規定されています。
これに対して、延べ面積が100平方メートル以下の小さな木造建築物のような場合、建築士の資格がなくてもその設計や監理が許可されています。
資格を持たない設計士でも、特定の条件を満たす建物であれば設計や工事監理の仕事を行うことが可能です。
ただし、建築物を設計する場合には、建築基準法をはじめとする関連する法律や条例の遵守が求められ、専門的な知識が不可欠です。
その結果、実務経験や十分な知識を持つ設計士がこれらの建築プロジェクトを担当することが一般的になっているのです。
建築士の補助業務をする
設計士の仕事範囲は比較的限られており、大型建築プロジェクトでは主に建築士をサポートする役割を果たします。サポート業務であっても、豊富な経験や知識を持つ設計士は多くの場面で貢献できます。
近年、建築物の機能性と同様にデザインの重要性が高まっており、内外装のデザインが注目される建物が増えています。
このようなデザイン性を重視するプロジェクトでは、設計士の技術がより大きな役割を果たす可能性があります。
さらに、大規模プロジェクトでのサポートや雑務の経験は、設計士のキャリアアップや将来的な建築士資格取得のための貴重なステップとなり得ます。
関連記事:建築士・建築家・設計士の違いは?やりがいと仕事内容を詳しく解説
建築士と設計士の年収の違い
続いては、建築士と設計士の年収の違いについて解説します。
建築士の年収
建築士の年収は、資格の種類や就業環境(企業規模、勤務年数など)によっても変動しますが、おおよその平均値をまとめると以下の通りです。
- 一級建築士 700万円前後
- 二級建築士 300万~500万円前後
- 木造建築士 350万円前後
二級建築士と木造建築士年収データは、求人サイトに掲載された情報を基にした推定値を参考にしています。
一方で、一級建築士の平均年収に関しては、厚生労働省が行った賃金構造基本調査により約702万円とされています。性別で分けると、男性の平均年収は718万円、女性は608万円となっています。
さらに、企業の規模が大きいほど一級建築士の平均年収が高くなる傾向があります。
例えば、従業員数が1,000人以上の大企業における一級建築士の年収は平均で900万円であり、日本人の平均年収を大幅に上回ることがわかります。
一方、従業員数が100~999人の中小企業では平均年収が747万円、更に規模が小さい10~99人の企業では平均が577万円となり、年収は企業規模が小さくなるにつれて減少する傾向が明らかです。
このことから、資格の有無だけでなく、勤務先の企業規模によっても給与が大きく異なることが伺えます。
参考:賃金構造基本統計調査の職種別賃金表2019年|厚生労働省
設計士の年収
設計士の年収に関する正確なデータは存在しませんが、求人サイトに掲載されている情報を参考にすると、年収はおおよそ350万円から450万円程度のようです。
もちろん、勤務先の企業の大きさや仕事の内容によって年収は異なりますが、資格が必要でないため、一般的に建築士と比べると給与面ではやや劣ると考える方が妥当です。
設計士はしばしば建築士の補助業務を行う職種であり、実務経験を積むことで建築士資格の取得を目指し、将来的に年収を上げる道もあります。
そのため、将来的に建築士としてキャリアを築きたい人にとっては、設計士としての職に就くことが有効なスタートポイントとなる可能性があります。
建築士と設計士になる方法の違い
続いて、建築士と設計士になる方法をそれぞれ紹介します。
建築士の場合
建築士になるためには、建築士資格の取得が絶対に必要です。ただし、資格取得のプロセスは、一級建築士、二級建築士、木造建築士など資格の種類によって異なり、それぞれに特有の受験条件が設けられています。
建築士の試験には、学科試験と製図試験の2つの部分があり、これら両方で合格することが必須です。
これらの試験は年に1回しか行われず、学科試験に合格すると、その後5年間、最大4回(学科試験合格年度の設計製図試験に出席しない場合は3回まで)は学科試験が免除されます。ただし、この期間を超えると、再度学科試験を受けなくてはなりません。
また、試験に合格しても必ずしも建築士の免許が与えられるわけではありません。特に一級建築士の資格を得るためには、大学等での指定科目の履修が受験資格として必要とされますが、免許取得のためには実務経験が必要とされています。
設計士の場合
設計士は特定の資格を持たないため、設計に関連する業務を行う企業に雇用されることで、その職を名乗ることができます。
一般的な就職先としては、総合建設業者(ゼネコン)、住宅メーカー、設計事務所などがあります。
さらに、設計士としての職務経験を積むことで、将来的に建築士へのキャリアパスを開くことも可能です。
設計士としての実務経験は、建築系の学歴がない場合でも二級建築士の受験資格を得るのに役立ちます。また、この経験を通じて蓄積される専門知識は、試験の合格可能性を高める助けとなるでしょう。
関連記事:建築士の仕事内容は?仕事の進め方や必要な資格をわかりやすく解説
建築士と設計士に求められるスキルの違い
続いて、建築士と設計士に求められるスキルを3つ解説します。建築士と設計士に求められるスキルは下記の通りです。
- コミュニケーションスキル
- アイデアスキル
- プレゼンスキル
では、一つずつ解説します。
コミュニケーションスキル
建築士と設計士に求められるスキルの1つ目は、コミュニケーションスキルです。
建築士と設計士の仕事においては、単に建築物を設計する技術的な能力だけではなく、クライアント、施工チーム、エンジニア、その他の関係者と効果的にコミュニケーションを取る能力が求められます。
プロジェクトの成功には、クライアントの要望やビジョンを正確に理解し、それを実現可能な設計に変換することが不可欠です。そのためには、明瞭で効率的なコミュニケーションが欠かせないのです。
また、建築プロジェクトは多くの場合、チームでの作業を伴います。このため、チーム内での意見交換や協力は、プロジェクトのスムーズな進行において重要な役割を担います。
設計段階での変更や問題の解決にあたっては、さまざまなステークホルダーとの効果的なコミュニケーションがプロジェクトの質を左右することもあります。
さらに、建築士や設計士は、自分のアイデアやコンセプトを顧客や関係者に対して明確に伝える必要があります。これにより、プロジェクトの意図や目標がすべての関係者に理解され、共有されることが大切です。
したがって、建築士と設計士にとって、コミュニケーションスキルは単に情報を伝えるだけではなく、プロジェクトを円滑に進行させ、最終的な成果を成功に導くためのキーとなるのです。
アイデアスキル
建築士と設計士に求められるスキルの2つ目は、アイデアスキルです。
このスキルには、単に建築物を設計する上での創造性を意味するだけでなく、実用的かつ革新的なソリューションを生み出す能力を含みます。
建築士や設計士は、クライアントの要望や機能的な必要性を満たしながら、美的かつユニークな建築物を生み出すために、独創的なアイデアが求められます。
プロジェクトにおいては、限られた予算内で、独自性と実用性を兼ね備えた設計を提案することが必要です。これは、既存の建築慣習や形式にとらわれず、新しい材料、技術、デザインコンセプトを積極的に取り入れることを意味します。
また、建築士と設計士は、環境に配慮した持続可能な建築の提案や、既存の空間を再利用するための創造的なアイデアを考案することも重要です。
このように、建築士と設計士には、ただ技術的な知識を有するだけではなく、各プロジェクトに新しい視点をもたらすアイデアスキルが求められるのです。
プレゼンスキル
建築士と設計士に求められるスキルの3つ目は、プレゼンスキルです。
このスキルは、自分のアイデアや設計コンセプトをクライアントやステークホルダーに効果的に伝え、理解してもらうことを可能にします。
建築士や設計士は、単に優れた建築物を設計するだけでは不十分であり、そのアイデアやビジョンを明確かつ魅力的にプレゼンテーションする能力が求められます。
このプレゼンスキルには、図面や3Dモデル、ビジュアルエイドを使って、建築の概念やデザインの意図をわかりやすく説明し、聴衆の関心を引きつけ、興味を持ってもらう能力も含まれます。
また、プロジェクトの利点や潜在的な問題、解決策を明確に伝えることも重要です。
建築士と設計士は、技術的な知識とともに、アイデアを効果的に伝え、他者を魅了するプレゼンテーションスキルを身につけることが必要です。この能力は、プロジェクトの成功を左右する要素となり得るため、建築士と設計士にとって不可欠なスキルと言えるでしょう。
建築士の種類による違い
続いて、建築士の国家資格の種類について解説します。建築士の資格は下記の3種類に分けられます。
- 一級建築士
- 二級建築士
- 木造建築士
では、一つずつ解説します。
一級建築士
一級建築士の資格は、建築物の設計において制限がなく、どの種類の建物も設計する能力を持っています。二級建築士や木造建築士と異なり、設計できる建物の面積や高さに制約がありません。
そのため、学校、病院、劇場、公共ホール、百貨店など、あらゆるタイプの建築物の設計や工事監理を手掛けることができます。
一級建築士には、意匠、構造、設備などの領域における高度な専門知識が要求されることが特徴です。
二級建築士
二級建築士も一定規模の建物であれば、一級建築士と同じように設計や工事監理が行えますが、下記建物の取り扱いは許可されていません。
- 特定用途の延べ面積500平方メートルを超える建築物
- 全高13m、もしくは軒高9mを超える木造建築物
- 鉄筋コンクリート造や鉄骨造などで延べ面積300平方メートル、全高13m、もしくは軒高9mを超える建築物
- 延べ面積1000平方メートルを超え、かつ階数が2階以上の建築物
木造建築士
木造建築士は、主に木造住宅や一般的な木造建築物の設計や工事監理を行うことができる国家資格です。この資格を持っていれば、2階建て以下、延べ床面積が300平方メートルまでの木造建物を扱うことが可能です。
この資格では、鉄筋コンクリートや鉄骨造、石造などの他の建築様式を全く扱えないわけではありませんが、建築士資格がない場合と同様に、30平方メートル以下の小規模な建物に限られます。
木造建築士の資格は、二級建築士と比較すると、取り扱える建築物の範囲に制限がありますが、木造住宅や一般的な木造建築物の設計と工事監理に関しては専門的な知識が求められる資格です。
特に、古い木造住宅や神社仏閣のような、一級建築士や二級建築士にとっても扱いにくい木造建築物に関する深い専門知識が必要とされることが多いのです。
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建築士と設計士の違いに関するよくある質問
ここからは、建築士と設計士の違いに関するよくある質問に回答します。建築士と設計士の違いに関するよくある質問は、下記の通りです。
- 建築家と建築士と設計士の違いは何ですか?
- 建築士や設計士は女性でもなれますか?
- 一級建築士になれば勝ち組と言えますか?
- 一級建築士になれば年収1,000万円はいけますか?
では、一つずつ解説します。
建築家と建築士と設計士の違いは何ですか?
建築士と設計士の違いは前述の通りですが、「建築家」と呼ばれる職業とも、違いがあります。
「建築家」は通常、建築士と同じ文脈で使用されることが多いですが、その用途はもっと幅広い場合もあります。実際、建築業界におけるさまざまな専門職を包括する言葉として捉えられることもあります。
また、「建築家」という言葉は法律で定義された正式な称号ではないため、基本的には誰でも自らを建築家と呼ぶことができます。例えば、設計士が自身を建築家と称することも、間違いとは見なされません。
一般的には、建築家という言葉は、工事監理よりも設計やデザインの分野で活動する人々を指すことが多いです。そのため、より専門的な設計士を指して用いられることも珍しくありません。
建築士や設計士は女性でもなれますか?
もちろん、建築士や設計士は女性でもなることができます。建築や設計の分野においては、性別に関係なく、専門的な知識や技術、創造性が重要視されます。
資格取得に必要な学歴や試験、実務経験の基準は男女共通であり、女性でもこれらの要件を満たせば建築士や設計士として活動することが可能です。
実際、近年では建築と設計の業界においても、女性の活躍が目立っています。多様な視点やアプローチが求められる現代の建築界において、女性建築士や設計士は重要な役割を担っており、多くの成功例があります。
したがって、性別による制限はなく、女性でも建築士や設計士のキャリアを積むことが十分に可能です。
一級建築士になれば勝ち組と言えますか?
「一級建築士になれば勝ち組と言えるか」は、一概には言えません。
一級建築士は、高度な専門知識とスキルが要求される資格であり、その取得は確かに大きな成果と見なされます。
この資格を所持していると、大規模なプロジェクトや複雑な建築物の設計に携わることができるため、専門職として高い地位を確立したり、キャリアの選択肢を広げたりすることが可能です。
しかし、単に一級建築士の資格を持つだけでは、「勝ち組」とは限りません。成功は、個々の建築士の能力、経験、ネットワーク、プロジェクトへの取り組み方、さらには個人的な職業的目標に大きく依存します。
資格はあくまでスキルと機会の扉を開くための一歩であり、その後の実務経験、継続的な学習、業界内での評判などが全体的なキャリアの成功を左右します。
したがって、一級建築士になることは多くの可能性を開きますが、それ自体が自動的に「勝ち組」になることを保証するものではありません。キャリアの成功は、個人の努力、献身、そして時には市場の状況や運も含めた複数の要素によって形成されます。
一級建築士になれば年収1,000万円はいけますか?
一級建築士になれば確実に年収1,000万円を達成できるわけではありませんが、一般的な職業よりは可能性が高いと言えるでしょう。
一級建築士の資格を持つことは、高度な専門性を有することを意味し、それに伴い高収入を得るチャンスも広がります。特に、大規模プロジェクトや著名な建築事務所でのポジション、独立して成功した場合などでは、年収1,000万円を超えることも十分に可能です。
しかし、年収は働く地域、勤務先の企業規模、業界内での需要、個人の実績や経験、さらには経済状況など、多くの要因に左右されます。
一級建築士であっても、これらの条件が合致しない場合は、年収1,000万円に到達するのが難しい場合もあります。
そのため、一級建築士の資格を取得することは、高収入への一つのステップとなり得ますが、それだけで高い年収が保証されるわけではなく、実務経験の積み重ね、継続的なスキルアップ、業界内でのネットワーキングなど、さまざまな努力と状況が組み合わさる必要があるのです。
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建築士と設計士の違いについてのまとめ
建築士と設計士は、資格の有無や業務範囲などに大きな違いがあり、それぞれ異なる役割を果たします。
特に建築士は、国家資格を持ち、設計や工事監理といった重要な業務を担う一方で、設計士は資格が不要で、小規模な設計や建築士のサポート業務をおこなっています。
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