「バス運転手の勤務間インターバルは、いつから9時間確保させなければならないのか」と気になる事業主も多いでしょう。
結論から言えば、新たな改善基準告示は2024年4月1日から適用されました。
他にも、いくつか押さえておくべき注意点や変更点があります。
この記事では、新たに適用される改善基準告示の注意点を中心に解説します。ぜひ、参考にして今後の経営に活かしてみてください。
バス運転手の休息時間が9時間になるのはいつから?
2024年4月1日より、バス運転手の当日の退勤から翌日の出勤までのインターバルが、最低9時間必要になりました。これまで、最低限の勤務間インターバルは8時間ですので、1時間増える改正です。
ただし、バス運転手は9時間の中で、食事や入浴、睡眠、さらには通勤などをしなければなりません。
一方で、人間は十分な睡眠を確保できなければ脳や心臓の病気を引き起こすリスクがあるので、現在でも11時間以上の休息が推奨されています。
バス運転手の過重労働は、重大な交通事故につながるリスクも避けられません。近年、バス運転手の疲労による事故が相次いで発生しており、社会的な問題に挙げられていました。
改善基準告示の変更は、これまで以上のバス運転手の過重労働対策と安全性の向上を目的としています。
参考:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示) |厚生労働省
バス運転手の休息時間が9時間になるのは良いことか?
事業主にとって、改善基準告示の変更はサービスの存続を巡って頭を悩ませているでしょう。
バス運転手の勤務間インターバル増加により、人材不足に陥ったり、車両の稼働率が低下したりする可能性があります。
一方で、運輸業は他業界と比較して、残業や休日出勤が多いと言われています。
厚生労働省の令和4年度の『統計要覧』によると、令和3年の全産業計の月間労働時間は136.1時間です。一方で、運輸業は163.6時間でした。
また、バス運転手は、運輸業内の他業種と比較しても残業が多い傾向にあります。
厚生労働省が平成29年に行ったヒアリング調査によると、1か月間の時間外労働協定で延長している平均時間は、トラック業界が88.3時間で最も長く、次いでバス業界が82.1時間でした。
参考:D 労働時間 - 統計要覧|厚生労働省
参考:第3章 運送業における労働時間と働き方に関する 調査|厚生労働省
バス運転手の休息時間が9時間になること以外の改善基準告示のポイント
2024年4月1日に変更されるバス運転手向けの改善基準告示のポイントは8つです。
- 1か月の拘束時間
- 1日の拘束時間
- 1日の休息時間
- 運転時間
- 連続運転時間
- 予測できない事象
- 特例
- 休日労働
それぞれについて解説します。
1か月の拘束時間
月間の拘束は、2024年3月まではベース281時間以下・309時間が限度です。しかし、2024年4月以降はベースは変わらず281時間以下・294時間が限度に変更されました。
そもそも、拘束時間とは、始業から退勤までのすべての時間です。具体的には、休憩も拘束時間に含まれるので注意しましょう。
拘束時間の測定基準は2通りあります。
⑴1年:3,300時間以下・1か月:281時間以下
ただし、貸切バスなどは、1年のうち6か月までは、トータルの拘束が3,400時間以下で、月間13時間延長できます。一方で、1か月の拘束時間が281時間よりも多い月は、連続4か月までに抑えなければなりません。
⑵52週:3,300時間以下・4週を平均した1週あたり:65時間以下
ただし、貸切バスなどは、52週のうち24週までは、トータルの拘束が3,400時間以下で、4週平均で1週あたり68時間延長できます。一方で、1週の拘束が65時間よりも多い週は、連続16週までに抑えなければいけません。
1日の拘束時間
バス運転手の1日あたりの拘束は、2024年3月まではベース13時間以下、ならびに16時間が限度です。一方で、2024年4月以降は、13時間以下に加えて、上限15時間かつ14時間超えは週3回限度に改正されました。
また、日付をまたぐ際の考え方に注意が必要です。具体的には、定時9時からの出退勤状況の場合、次の拘束は12時間ではなく14時間です。
例
- 月曜日 始業:9:00~退勤:21:00 12時間
- 火曜日 始業:5:00~9:00 2時間 合計14時間
1日の休息時間
休息は、2024年3月までは続けて8時間が下限です。しかし、2024年4月以降は続けて11時間をベースとし、最低9時間に改正されました。
休息時間は、バス運転手の当日の退勤から翌日の出勤までの時間です。仕事中の休憩は休息に含まれないので注意しましょう。
運転時間
1日あたりの運転は、2日平均で9時間が限度です。2日とは、始業時刻から起算した48時間です。また、4週平均で1週の運転は40時間以下と定められています。
たとえば、n日の運転時間が改善基準告示に違反しているか否かの計算には、n-1日とn+1日の運転実績も必要です。
仮に運転実績が次の通りの場合、5月4日は改善基準告示に違反しているか否かを特定します。
例
- 5月3日:運転実績10時間
- 5月4日:運転実績9時間
- 5月5日:運転実績9時間
5月3日から5月4日にかけての平均運転時間は9.5時間です。また、4日から5日にかけての平均運転時間は9時間です。平均運転時間のいずれもが9時間を超過した場合、改善基準告示違反と判定されます。
したがって、今回の例は、違反にはなりません。
また、運転時間の基準にも例外があります。
貸切バスなどは、52週のうち16週まで、トータルの運転が2,080時間以下で、4週平均で1週あたり44時間まで延長可能です。
連続運転時間
連続運転は、4時間が限度です。事業主はバス運転手の運転開始から4時間以内、または4時間経過直後に休憩を与える必要があります。
休憩は1回10分以上かつ合計30分以上設けなければなりません。
予測できない事象
予測できない事象に遭遇し、運行が遅延した際、運転手の拘束時間ならびに運転時間と連続運転時間から、対応に要した時間を除けます。
ただし、事業主は運転手に、退勤後、平常どおりの休息を与える必要があります。
特例
場合によっては、最低限の休息を確保させられないこともあるでしょう。バス運転手が退勤後に続けて9時間の休息を確保できない際には、特例が認められています。
一定期間の出勤日数の半分を限度に、運転手は仕事中もしくは退勤後に、休息を分割して取得できます。
ただし、分割取得する際は、続けて4時間以上かつ合計11時間以上が必須条件です。
一方で、1台のバスを2人以上で運行する場合、リクライニング形式の運転手専用の椅子があれば、拘束を最大19時間まで延長可能です。また、休息は下限5時間まで短縮できます。
隔日勤務の際は、拘束は21時間が限度、かつ休息は20時間以上必要です。
休日労働
バス運転手の休日労働は、2週に1度が限度と定められています。
改善基準告示の変更点や注意点をまとめた表は次の通りです。
項目 | 2024年4月以降 | 2024年3月まで |
月間の拘束 | ベース281時間以下(294時間限度) | ベース281時間以下(309時間限度) |
1日の拘束 | ベース13時間以下(限度は15時間、14時間超えは上限週3回) | ベース13時間以下(16時間限度) |
1日の休息 | 推奨は続けて11時間、最低9時間 | 推奨は続けて11時間、最低8時間 |
1日あたりの運転 | 2日平均で1日9時間以下、4週を平均して1週あたり40時間以下 ただし、貸切バスなどは、52週のうち16週まで、トータルの運転が2,080時間以下で、4週平均で1週あたり44時間まで延長可能 |
|
連続運転 | 4時間限度 | |
休憩 | 1回あたり10分以上かつ合計30分以上 | |
予測できない事象 | 運転手の拘束時間ならびに運転時間と連続運転時間から、対応に要した時間を控除できる ただし、事業主は運転手に、退勤後、平常どおりの休息を与える必要あり |
規定なし |
特例 | 退勤後に続けて9時間以上の休息を確保できない際は、一定期間の出勤日数の5割を限度に、仕事中もしくは退勤後に、休息を分割取得できる ただし、分割取得した際は、続けて4時間以上かつ合計11時間以上必要 1台のバスを2人以上で運行する場合、リクライニング形式の運転手専用の椅子があれば、拘束を19時間限度に延長、ならびに休息は下限5時間まで短縮可能 隔日勤務の場合、拘束は21時間限度、かつ休息は20時間以上 |
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休日労働 | 2週に1度が限度 |
参考:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示) |厚生労働省
参考:令和6年4月~適用 バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント|厚生労働省
参考:バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント|厚生労働省
バス運転手が9時間の休息時間を取らなかった場合の罰則
改善基準告示は、労働基準法に基づき、長時間労働や休日労働の適正化のために定められた指針です。法律ではなく厚生労働大臣の告示のため、違反しても直接的な罰則はありません。
しかし、違反した場合には、指導などの行政処分を受ける可能性があります。
- 監督署から改善命令や是正勧告を受け、改善状況の報告を求められる
- 一定期間、車両の使用が制限される
- 重大な違反の場合、事業停止命令を受ける可能性がある
悪質な違反行為とみなされたり、違反の再発と判断されたりした場合、最悪、業務停止命令を受けるかもしれません。
改善基準告示は、労働者の安全と健康を守るためのひとつの基準です。違反を避けるためには、事業主は改善基準告示を正しく理解して、労働時間管理の徹底に努めましょう。
【事業者向け】バス運転手の労働環境是正のための助成金制度
バス運転手の労働基準法に関する助成金4選
バス運転手の労働時間等改善基準告示の改正が予定されていますが、依然として長時間労働の是正や労働環境の改善が課題に挙げられています。そのため、バス運転手の残業や休日出勤等の是正のために、助成金制度が設けられています。
バス運転手の労働基準法に準ずる助成金は4つです。
- 働き方改革推進支援助成金
- 業務改善助成金
- 人材確保等支援助成金のご案内
- 人材開発支援助成金
それぞれについて解説します。
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、事業主が、残業や休日出勤の見直しや労働時間短縮、年次有給休暇取得促進等の取り組みを行うための費用の一部を助成する制度です。
助成額は成果目標によって異なりますが、最大200万円です。
参考:働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース) |厚生労働省
業務改善助成金
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上と事業場内最低賃金の引き上げを支援する制度です。
たとえば、生産性向上のための設備投資やIoT(※)を活用した機器の導入などをして、事業場内の最低賃金が引き上げられた際に費用の一部を助成してもらえます。
※IoTとは、Internet of Thingsの略で、さまざまなモノをインターネットに接続する技術を指します。
人材確保等支援助成金
人材確保等支援助成金は、魅力ある職場づくりのために労働環境の向上などを図る事業主等に対して助成をする制度です。助成金額はコースによって異なります。
コースの一覧は次の通りです。
- 雇用管理制度助成コース
- 介護福祉機器助成コース
- 中小企業団体助成コース
- 人事評価改善等助成コース
- 建設キャリアアップシステム等普及促進コース
- 若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)
- 作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
- 外国人労働者就労環境整備助成コース
- テレワークコース
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、中小企業等が従業員の職業能力開発を促進するための制度です。
事業主等が計画的に職業訓練を実施して、従業員の職業能力の向上を図り、企業の競争力強化および雇用の安定を目的としています。
助成金額の上限はコースによって異なります。コースの一覧は次の通りです。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
65歳以上のバス運転手に関する4つの助成金
バス運転手の人材不足は深刻な問題です。そのため、65歳以上のバス運転手を雇用する企業に対して、厚生労働省は助成金制度を設けています。
65歳以上のバス運転手を雇用する企業で活用できる助成金は4つです。
- 65歳超継続雇用促進コース
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 高年齢者無期雇用転換コース
- 高年齢労働者処遇改善促進助成金
それぞれについて解説します。
65歳超継続雇用促進コース
65歳以上を継続的に雇用した際に、事業主は助成金を受け取れます。取り組み内容によって、受け取れる助成金額は異なりますが、最大160万円です。
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
高年齢者向けの雇用管理制度の整備などを実施した際、事業主は助成金を受け取れます。受け取れる助成金額は、制度準備にかかった費用の60%もしくは45%です。
高年齢者無期雇用転換コース
50歳以上の契約社員を無期雇用に転換した際、事業主は助成金を受け取れます。
受け取れる助成金額は、中小企業が48万円、それ以外は38万円です。
高年齢労働者処遇改善促進助成金
高年齢労働者処遇改善促進助成金は、60歳から64歳までの高年齢労働者の処遇改善を促進を図る際、事業主が受け取れる助成金です。
受け取れる助成金額は、賃金改定の取り組み内容によって異なります。
バス運転手の休息時間が9時間になることに関連してよくある質問
バス運転手の勤務時間に関して、よくある質問は次の3つです。
- バスの運転手は2024年問題でいつから規制されるのですか?
- バスの運転手は1日何時間運転できますか?
- バス運転手の休息時間は11時間ですか?
それぞれについて解説します。
バスの運転手は2024年問題でいつから規制されるのですか?
バス運転手も他の業種と同じように、4月1日から労働条件が規制されました。
バス運転手の休息時間は、これまで8時間空いていれば問題ありませんでしたが、2024年4月1日から「最低9時間必要」に変更されています。
バスの運転手は1日何時間運転できますか?
バス運転手の運転時間は、2日を平均して1日9時間が限度です。また、4週を平均して1週40時間以内と定められています。
連続運転時間に関しては、4時間が限度です。連続運転後の休憩は、続けて10分以上かつ合計30分以上必要です。
バス運転手の休息時間は11時間ですか?
2024年4月1日以降、バス運転手の休息時間は、続けて11時間確保できるように努めることとなりました。ただし、9時間を下回らなければ問題ありません。
バス運転手の休息時間が9時間になることについてのまとめ
今回は、バス運転手の休息時間がいつから最低9時間になるのか、2024年4月に適用された改善基準告示のポイントについて解説しました。
改善基準告示の変更点や注意点をまとめた表は次の通りです。
項目 | 2024年4月以降 | 2024年3月まで |
月間の拘束 | ベース281時間以下(294時間限度) | ベース281時間以下(309時間限度) |
1日の拘束 | ベース13時間以下(限度は15時間、14時間超えは上限週3回) | ベース13時間以下(16時間限度) |
1日の休息 | 推奨は続けて11時間、最低9時間 | 推奨は続けて11時間、最低8時間 |
1日あたりの運転 | 2日平均で1日9時間以下、4週を平均して1週あたり40時間以下 ただし、貸切バスなどは、52週のうち16週まで、トータルの運転が2,080時間以下で、4週平均で1週あたり44時間まで延長可能 |
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連続運転 | 4時間限度 | |
休憩 | 1回あたり10分以上かつ合計30分以上 | |
予測できない事象 | 運転手の拘束時間ならびに運転時間と連続運転時間から、対応に要した時間を控除できる ただし、事業主は運転手に、退勤後、平常どおりの休息を与える必要あり |
規定なし |
特例 | 退勤後に続けて9時間以上の休息を確保できない際は、一定期間の出勤日数の5割を限度に、仕事中もしくは退勤後に、休息を分割取得できる ただし、分割取得した際は、続けて4時間以上かつ合計11時間以上必要 1台のバスを2人以上で運行する場合、リクライニング形式の運転手専用の椅子があれば、拘束を19時間限度に延長、ならびに休息は下限5時間まで短縮可能 隔日勤務の場合、拘束は21時間限度、かつ休息は20時間以上 |
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休日労働 | 2週に1度が限度 |
バス運転手を雇用している事業主は、改善基準告示のポイントを意識しましょう。また、活用していない助成金があれば、支給要件を確認してみてはいかがでしょうか。