防火管理者とは、施設や建物における防火対策を総合的に管理する仕事です。具体的には、火災の発生を未然に防ぐための計画立案や設備の維持管理、従業員への教育・訓練などを行います。
さらに、緊急時には適切な指示を出し、被害を最小限に抑える対応も求められます。
施設管理の職業として需要が高い防火管理者ですが、具体的にどのような責任を負っているのかは把握していない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、防火管理者の責任と役割、資格取得に必要なステップや具体的な方法について詳しく解説します。
防火管理者が果たすべき責任範囲と役割
まずは、防火管理者が果たすべき責任範囲と役割を5つ解説します。
火災リスク軽減のための計画を策定し監督する
防火管理者が果たすべき責任範囲と役割の1つ目は、火災リスク軽減のための計画を策定し監督することです。
消防法によって、防火管理者は防火管理業務を適切に遂行する「管理的・監督的地位」にあることが定義されています。つまり、建物の構造や収容人員に合わせて、適切な防火計画を立てることが求められるのです。
また、立てた計画が適切であるかどうかも確認する必要があります。
避難訓練を実施し緊急時の対応を指揮する
防火管理者が果たすべき責任範囲と役割の2つ目は、避難訓練を実施し緊急時の対応を指揮することです。
火災発生時は、必ずしも防火計画通りに事が進むわけではありません。そのため、防火管理者は緊急時や想定外のトラブルの対応も指揮することが業務の一つです。
具体的には、避難訓練を定期的に行うことで防火計画の改善に努めます。
消防設備の点検と保守管理を行う
防火管理者が果たすべき責任範囲と役割の3つ目は、消防設備の点検と保守管理を行うことです。
防火管理者の業務では、設備点検と保守管理も重要になります。日常的な点検を怠ると、火災発生時に上手く機能せず被害を大きくしてしまう可能性があるからです。
点検と保守管理を適切に行うことで建物と人員を守ることにもつながるのです。
担当エリア内の防火対策を管理・監督する
防火管理者が果たすべき責任範囲と役割の4つ目は、担当エリア内の防火対策を管理・監督することです。
必要な防火対策を行わずに火災により死傷者が出た場合、防火管理者は刑事民事両方から責任を追及される立場にあります。そのため、担当内の防火対策の管理・監督は必須の責任です。
さまざまな状況をシミュレーションしながら、監督業務も果たしています。
緊急時の避難誘導と安全確認を実施する
防火管理者が果たすべき責任範囲と役割の5つ目は、緊急時の避難誘導と安全確認を実施することです。
責任を持って避難誘導することはもちろんですが、被害軽減のための安全確認も大切になります。火災が発生したら終わりではなく、その後も設備は正常に作動しているかや人員のケアも必要です。
建物と人員の命を預かっている責任を持つことが、防火管理者には求められます。
そもそも防火管理者とは?
次に、防火管理者の業務内容を5つに分けて解説します。
施設全体の防火対策・計画を策定する
防火管理者の業務内容の1つ目は、施設全体の防火対策・計画を策定することです。
防火管理者とは、消防法により一定の条件を満たす物件において「選任」と「所轄の消防署長への届出」が義務付けられた国家資格者のことです。
消防法第44条では「防火管理者を選任しない場合は、建物のオーナーやその他責任者に対して、30万円以下の罰金または拘留の罪が課せられる」と規定されているため、防火管理者の責任は重大になります。
防火管理者の中でも特に重要な業務が、施設の防火対策と計画策定です。
管理している建物(防火対象物)に合わせて、火災が発生した場合の全体的な計画を立てる必要があります。
施設内の避難経路や防火設備を点検する
防火管理者の業務内容の2つ目は、施設内の避難経路や防火設備を点検することです。
火災が発生した場合、適切な避難経路の防火設備が必須になります。防火管理者はそれらを管理する義務があるため、日々の点検も大切な業務の一つです。
防火管理者の責任義務として、火災の発生を事前に防ぐ・軽減することも含まれています。必要に応じて設備を変更することもあるため、臨機応変な対応も求められます。
職場の防火規則を遵守し適切な指導をする
防火管理者の業務内容の3つ目は、職場の防火規則を遵守し適切な指導をすることです。
建物には住む人や働く人など、必ず建物内に収容される収容人員が存在します。防火管理者が必要な建物の条件としては、2つあります。
1つ目は、病院やホテル、商業施設や飲食店など、収容人員30人以上の特定防火対象物(不特定多数の人が出入りする建物)です。
2つ目は、工場や倉庫、寺院や学校など、収容人員50人以上の非特定防火対象物(特定の人が出入りする建物)です。
火災が発生した場合を想定した適切な指導は防火管理者にしかできない業務であるため、収容人員の管理も防火管理者の責務に含まれています。
緊急時に迅速な避難誘導を行い安全を守る
防火管理者の業務内容の4つ目は、緊急時に迅速な避難誘導を行い安全を守ることです。
作成した消防計画の指揮・監督は、防火管理者の業務範囲に含まれています。この避難誘導を怠ると、収容人員の事故や死亡、または建物自体の甚大な被害につながります。
防火管理者を目指すのであれば、あらゆる火災の状況を想定した迅速な対応を心がけましょう。
定期的な防火訓練を企画・実施する
防火管理者の業務内容の5つ目は、定期的な防火訓練を企画・実施することです。
防火訓練は、火災の被害を軽減するための大切な訓練です。防火管理者だけではなく、建物に携わる全ての人が避難経路や火災発生時の対応を、把握しておく必要があります。イメージとしては、小学校で経験した防災訓練のようなものです。
収容人員を守ることは防火管理者の重要な責務であるため、人員の管理も徹底して行いましょう。
防火管理者が必要とされる理由
次に、防火管理者が必要とされる理由を5つ解説します。
法律に基づく防火管理者の配置義務があるから
防火管理者が必要とされる理由の1つ目は、法律に基づく防火管理者の配置義務があるからです。
対象となる建物において防火管理者を選任し配置することは、消防法で義務として定められています。
建物においては、規模の大小に関係なく火災のリスクが常にあります。しかし、資格取得が負担になっていることや少子高齢化、また管理への心理的負担などの面から、防火管理者が未選任の建物も存在することも事実です。
そのため、いざというときに防火管理者がいなければ、建物や人命にも危険が及びます。
火災リスクを軽減し施設の安全を確保しなければならないから
防火管理者が必要とされる理由の2つ目は、火災リスクを軽減し施設の安全を確保しなければならないからです。
消防計画を作成する防火管理者を配置することで、火災のリスクを軽減できます。防火管理者は避難訓練や避難経路の維持管理も担うため、防火管理者を配置することは、施設の安全にもつながります。
防火管理者がいることで、建物を利用する人が安心して生活できるようになるのです。
防災意識を高めリーダーシップを発揮できるから
防火管理者が必要とされる理由の3つ目は、防災意識を高めリーダーシップを発揮できるからです。
火災は頻繁に発生するものではないため、日常生活を送っているとつい防災意識が弱まってしまいます。しかし、火災はいつどこでどのような原因で発生するかわからないものです。
しかし、防火管理者が適切な指導をすることで、人員の防災意識を高められます。
また、火災発生時は二次災害が起きることも少なくないため、防火管理者がリーダーシップを発揮して人々を誘導することで、二次災害の予防にもつながります。
人命と財産を守るための責任を担っているから
防火管理者が必要とされる理由の4つ目は、人命と財産を守るための責任を担っているからです。
防火管理者には、人命と建物に含まれる財産および建物自体を守る責任があります。そして、建物の安全確保は誰しもができることではありません。
必要な知識を有し、防火に特化した防火管理者だからこそできる業務です。
施設の防災体制を一貫して維持する責任があるから
防火管理者が必要とされる理由の5つ目は、施設の防災体制を一貫して維持する責任があるからです。
防火管理者は、火災に備えた日々の点検も担う必要があります。有事の際に、スムーズに避難できる経路になっているかや防火設備は正常に働くか確認することも、重要な役割の一つです。
また、人員が火災発生時の対応を把握しているかも定期的に確認する必要があります。
このように、防災体制を維持することも防火管理者の大切な責務です。
防火管理者の区分
次に、防火管理者の区分について解説します。
甲種防火管理者
甲種防火管理者は、防火対象物の規模や収容人員に関係なく、全ての防火対象物に対して防火管理者の職務を果たせます。大きなビルやマンションの管理を任されることが多いため、甲種防火管理者には防火に関する幅広い知識が求められます。
なお、収容人員の算定方法は防火対象物によって異なります。
乙種防火管理者
乙種防火管理者は、比較的規模が小さい防火対象物で管理者になれます。具体的な条件は、以下の通りです。
①乙種防火対象物で特定防火対象物の場合は、延べ面積300平方メートル未満であること。
また非特定防火対象物の場合は、500平方メートル未満のもの。
②甲種防火対象内のテナント等で、収容人員が特定用途の場合は30人未満(施設条件によっては10人未満)、非特定用途の場合は50人未満の事業所
上記の条件を超える建築物を管理するには、前述の甲種防火管理者の資格が必要となります。
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防火管理者になるためのステップ
次に、防火管理者になるためのステップを5つに分けて解説します。
資格取得に必要な要件を確認する
防火管理者の資格取得に必要な要件は、大きく分けて3つあります。
1つ目は、講習を受けた後に試験を受け合格することです。
2つ目は、大学や専門学校などで防災関連の課程を修了し卒業してから、1年以上の防火管理の実務経験があること、または消防職員の経験があり、監督管理職に1年以上就いている場合です。
3つ目は、資格要件に見合う学識経験がある場合です。
未経験の場合は、一つ目のステップに当てはまりますが、受講場所によって受講条件は変わります。
講習を受け、基礎知識を習得する
一般財団法人 日本防火・防災協会が行っている講習の受講条件としては「中学卒業以上で日本語が理解できる者」と定められています。
一方で、東京消防庁での受講条件は「東京消防庁管轄区内の建物や事業所で、防火管理者または防災管理者として選任される方」のため、資格取得のみを目的とした受講は不可になります。
講習は甲種と乙種の2種類に分かれており、甲種は10時間で2日間、乙種は5時間で1日間の期間が設けられています。
防火に関する制度や施設設備の管理など、講習では基礎知識だけではなく実技訓練も経験できるため、実践的な知識も身につけられます。
試験勉強を進め資格を取得する
講習受講後には、理解度を測るために講習後に効果測定が行われます。この効果測定に合格すると修了証が交付されます。
効果測定の難易度は比較的易しい傾向にあり、合格率はほぼ100%と言われています。そのため、講習をしっかりと聞いていれば、一発で合格できるでしょう。
実務経験を積みスキルを磨く
資格を取得した後は、実際に建物の防火管理を任されることになります。防火に対する基本的な知識は同じではあるものの、建物によって防火対策は異なります。
実際に現場に出ないとわからないことも多くあるため、できるだけ多く現場での実務経験を積むことが重要です。
実務を通じて継続的に学ぶ
防火の知識や対応は、時代や状況によって変化します。そのため、一度資格を取得したからと言って勉強を怠るのではなく、日々の実務を通してさまざまなことを学ぶ必要があります。
実務から得られる知識や経験は、単なる勉強では得られないものも多くあります。資格勉強で得た知識を活かしながら、実践的な知識と経験を重ねていきましょう。
参考:申込みから受講の流れ|一般社団法人 日本防火・防災協会
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防火管理者として責任ある役割を担うメリット
次に、防火管理者として責任ある役割を担うメリットを5つ解説します。
職場でリーダーシップを発揮できる
防火管理者として責任ある役割を担うメリットの1つ目は、職場でリーダーシップを発揮できることです。
防火管理者は、火災発生時や避難訓練の際に、リーダーシップを発揮しながら人員を誘導する役割を担っています。そのため、実務経験を積む中で自然と人々を引っ張る能力が身に付きます。
防火管理者としての経験は、他の業務においても活かせます。問題解決能力、コミュニケーション能力、そして人材育成能力など、リーダーとして必要なスキルを総合的に磨くことができるのです。
キャリアアップの機会を得て役職を広げられる
防火管理者として責任ある役割を担うメリットの2つ目は、キャリアアップの機会を得て役職を広げられることです。
防火管理者は、火災発生時の迅速な対応、従業員への適切な指示、そして組織全体の安全意識向上など、さまざまな場面でリーダーシップを発揮する経験を積めます。また、問題解決能力やコミュニケーション能力、そして人材育成能力など、リーダーシップ以外にも幅広いスキルを習得できます。
そして、これらの能力は組織にとって不可欠なスキルであり、昇進や異動につながる可能性が高まります。
さらに、防火管理者としての経験は、他の企業からも注目され、転職活動においても有利に働くことがあります。特に、安全管理が重視される企業においては、防火管理者の経験は高い評価を受けるでしょう。
安定した職種で長期的なキャリアを築ける
防火管理者として責任ある役割を担うメリットの3つ目は、安定した職種で長期的なキャリアを築けることです。
火災はいつどこで発生するか予測が難しく、人命や財産に大きな被害をもたらす可能性があります。そのため、防火管理者は企業や施設において不可欠な存在であり、その役割は今後もますます重要視されるでしょう。
また、防火管理者は専門的な知識とスキルを必要とするため、容易に代替できる人材ではありません。そのため、一度防火管理者の資格を取得して実務経験を積むことで、安定したキャリアを築ける可能性が高いです。
さらに、防火管理者としての経験は他業種への転職でも役立ちます。例えば、安全管理部門の責任者や、防災に関するコンサルタントなど、幅広い分野で活躍できる可能性が広がります。
社会的な責任を果たし評価を高められる
防火管理者として責任ある役割を担うメリットの4つ目は、社会的な責任を果たし評価を高められることです。
発生が予測できない火災の予防は、社会全体にとって解決すべき重要な課題です。そのため、火災予防の専門家である防火管理者は、社会全体の安全に貢献していると言えます。
また、防火管理者として実績を積むことで、地域社会や業界内で専門家としての地位を確立できます。例えば、地域防災活動への参加や業界団体での活動を通じて、専門知識や経験を共有することで、地域社会や業界の安全意識から、高い評価を得られます。
さらに、防火管理者としての経験は、ボランティア活動や地域貢献活動など社会に対して積極的に貢献したいと考えている人にとっては、代えがたいものになります。
法的要件を満たした重要なポジションを確保できる
防火管理者として責任ある役割を担うメリットの5つ目は、法的要件を満たした重要なポジションを確保できることです。
消防法では、一定規模以上の建物や施設に防火管理者を置くことが義務付けられています。そのため、防火管理者の資格を持つ人材は組織にとって欠かせない存在となり、その地位は揺るぎないものとなります。
また、防火管理者として法的な責任を負うことは、組織全体の安全管理体制を構築し、維持していく上で重要な役割を担うということです。火災発生時の対応だけでなく、平時における予防活動や関係機関との連携など、幅広い業務を担うことで、組織全体の安全意識に関する信頼性を高めることにもつながります。
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防火管理者に関するよくある質問
最後に、防火管理者に関するよくある質問について回答します。
防火管理者を怠った場合の罰則は?
防火管理者を選任しない場合、30万円以下の罰金または拘留が課せられます。その後も選任されない場合は所轄の消防署からの指導が入りますが、それでも選任されない場合は、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられます。
また、防火管理者は配置すれば良いだけではなく、選任した事実を所轄の消防署に届け出る必要があります。
建物の安全性を確保するためにも、適切な防火管理者を配置することはもちろん、選任退任の申し出をすぐに行うことが大切です。
防火管理の最終責任者は誰?
防火管理の最終責任者は、管理権原者です。
管理権原者とは、防火対象物について正当な管理権を持ち、該当する防火対象物の管理行為を法律、契約または慣習上行う者を指します。
管理権原者と防火管理者は別であり、管理権原者は自身の持ち場を担当しつつ統括防火管理者を選任して、防火管理や緊急時の対策対応をする必要があります。
一般的に、管理権原者は建物の所有者や事業主、会社であれば社長などが該当します。
防火管理者は何人必要?
各建物に選任する防火管理者の人数は、一人と定められています。
オーナーが建物を丸々一棟管理している場合は、防火責任者と防火管理者を兼任して1人に定めることも可能です。対して、建物内に複数のテナントが入っている場合は、各テナント専有部ごとに防火管理者を1人選任する必要があります。
防火管理者の責任範囲を明確にしてキャリアを築こう
今回は、防火管理者についての基本知識や資格取得方法、キャリアについて解説しました。
長期的なキャリア形成に向けて、本記事を参考にしながらぜひ防火管理者を目指してみてください。
なお、「防火管理者の資格を活かせる仕事をしたい」「自分に合う職場を見つけられるか不安」とお悩みの方は、建設業界に特化した転職エージェント建職キャリアにご相談ください。
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