建築士は、建物の設計や工事監理が主な仕事内容であり、あらゆる建物の建設に携わっています。
建築士が行う設計業務は、建築士の独占業務であり、不動産業界にとって欠かせない存在です。
しかし、建設業界には建築士の他にも建築家や設計士といった、同じような職種が存在します。
設計に関わる仕事であることは想像できるものの、各職種の違いについて分からないという人もいるのではないでしょうか。
今回は「建築士・建築家・設計士」について、仕事内容の違いや各職種のやりがいなどを解説していきます。
建築士・建築家・設計士の違い
日本を代表する建築家には「安藤忠雄・槇文彦・隈研吾」といった人たちがいますが、建設業界に従事する建築士と仕事内容に大きな違いはありません。
しかしながら、建築家や建築士、設計士という言葉は一緒にされることはなく、建設業界の中で使い分けられています。
この3つの職種の明確な違いとしては、資格の種類があります。
- 建築士は国家資格
- 建築家は民間資格
- 設計士は資格が不要
ここでは、資格の違いや建築家の一般的なニュアンスについて詳しく解説していきます。
建築士は国家資格
建築士は、国土交通省が管轄する国家資格で、携われる建築物の規模により3種類に分けられています。
延べ床面積が100〜300平方メートル以内の木造建築物に限り、設計や工事監理を行える
【二級建築士】
鉄骨造や鉄筋コンクリート造で、延べ面積が30~300平方メートル以内の建物・建物の軒の高さが9メートル以上・全体の高さが13メートル以内の建物の設計や工事監理を行える
【一級建築士】
延べ床面積300平方メートル以上の建物や、全体の高さが13メートルを超えるような建物でも設計や工事監理を行える
建築家や設計士に関係なく、建物の設計や監理業務に従事する場合、必ず建築士免許が必要です。
建築家は民間資格
建築家とは、建築や設計に携わる仕事をしている人の総称として使われることが多く、建築家を名乗る上で必須となる資格はありません。
そのため、建築士の資格を持っている建築家もいれば、建築士の資格を持っていない建築家も存在します。
また「建築物のデザイン性(意匠面)に強いこだわりを持つ人」といったニュアンスを込めて建築家と呼ばれている人もいます。
建築家を名乗る上で必要となる資格はないものの、日本建築家協会によって「登録建築家」という民間資格が、2003年に作られました。
建築士が技術者資格であるのに対し、建築家資格は職能資格と位置づけています。
登録建築家は、安全な建物を設計するのではなく「建築家として芸術性・職業倫理・技術を兼ね備えた人」であることを証明できる民間資格です。
参考:建築士制度|国土交通省
設計士は資格が不要
設計士とは、建物の設計において、建築士を補助する人のことを指す職種の名前です。
そのため、設計士という資格はなく建築士を補助している人であれば、経験年数や知識量に関係なく設計士と呼ばれます。
有資格者ではないため、建築士として設計や工事監理に直接携わることはできません。
ただし、建築士や建築家を目指す見習いとして、関連書類を作成したり、打ち合わせに同席したりすることはあります。
関連記事:建築士あるある7選|建築士が現場で嫌われるよくある共通点も合わせて紹介
建築士・建築家・設計士が設計する建築物はさまざま
「建築士は住宅の設計」「建築家は駅やホテルの設計」といったイメージを持つ人もいますが、建築士の資格を持っていればあらゆる建築物の設計に携われます。
二級建築士は戸建て住宅規模の設計までとなりますが、一級建築士であれば「商業施設・競技場・病院・博物館」など全ての建築物の設計を行います。
建築士と建築家で、設計できる建築物に違いはありません。
関連記事:建築士の仕事は何するの?資格別の仕事内容と流れをわかりやすく説明
建築士・建築家・設計士に関する仕事の流れ4ステップ
建築士・建築家・設計士の違いは、保有資格であるため、仕事内容に大きな違いはありません。
設計士も建築士として仕事に従事できないものの、建築士のサポートを行います。
建築士や建築家(建築士の有資格者)の仕事の流れは、以下の通りです。
- 建築主へのヒアリング・打ち合わせをする
- 建築物を設計する
- 法令関係の事務手続きをする
- 工事監理をする
各ステップでどのような業務を行っているのか、詳しく解説していきます。
1.建築主へのヒアリング・打ち合わせをする
建築物の設計依頼を受けた場合、まずは施主と具体的な要望について、打ち合わせを行います。
あらかじめ行うヒアリング項目には、以下のような内容があります。
- 建物の外観や内観のデザイン
- 部屋の広さや数
- 重視する機能性
- 建築に伴う予算
打ち合わせは何度も行われ、必要に応じて模型を作るなどして、施主と建築士の相違をなくしていきます。
2.建築物を設計する
施主との打ち合わせにより、建築物のイメージが完成すると実際に設計を進めていきます。
設計では専用ソフト「CAD」が使用され、外観や内観、箇所別で詳細な設計図が作成されていきます。
周辺環境に対する法規や工事の予算が限られている中で、要望に沿ったものを設計しなければならず、建築士の腕の見せどころと言えるでしょう。
立体図や断面図といった設計図だけでなく、建築物を建てていくための工事方法や材料などが記載された、仕様書も一緒に作成していきます。
3.法令関係の事務手続きをする
設計図や仕様書が完成すると、実際に工事を行うための、各種手続きを行います。
手続きに必要な書類などを作成し、消防や役所への申請を行います。
4.工事監理をする
各種申請を行い工事の許可がおりた後は、工事の施工会社と工事の各工程について打ち合わせから始めていきます。
工事が始まると、工程ごとに設計図や仕様書通りに作業が進められているか工事監理を行います。
実際に建築していく上で、構造に問題が見つかった際は、設計図などを作り直しながら対応します。
関連記事:建築士に向いてる人の特徴とは?必要なスキルも含めて紹介
建築士・建築家・設計士の就職先と転職先|7選
建物の設計や工事監理を行う設計士や建築家は、建築物に関わるさまざまな業種で活躍できます。
転職の場合、即戦力の人材が求められやすいため、建築士の資格を取得していることが理想です。
ただし、求人によっては設計士のように見習いとして入社することも可能です。
建築士の資格を取得している場合の、主な転職先は以下の通りです。
- ハウスメーカー(工務店)
- 建設会社(ゼネコン)
- 設計事務所(建築設計事務所)
- 地方自治体(建築部門)
- 住宅関連設備メーカー
- 不動産会社
- 建設関連のコンサルタント
各転職先での仕事内容について、解説していきます。
ハウスメーカー(工務店)
戸建て住宅の建築や販売を行うハウスメーカーでは、自社で扱う住宅の研究開発業務や、設計業務に従事します。
注文住宅を扱っているメーカーであれば、先ほど紹介したステップで施主との話し合いを行った後に設計業務を進めていきます。
ちなみに、ハウスメーカーの営業所には「管理建築士」の設置義務があり、必ず一定数の建築士が必要です。
このことからも、ハウスメーカーにおける建築士の需要は高いと言えるでしょう。
戸建て住宅の規模であれば、二級建築士でも設計に従事できます。
建設会社(ゼネコン)
マンションや商業施設といった、比較的規模の大きい建築工事を行うゼネコンも、設計業務に関する部署があります。
規模が大きいこともあり、設計業務も「意匠設計・構造設計・設備設計」の分業制が一般的です。
設計業務以外では、建築工事の際の施工管理を専門とする部署もあります。
全ての建設会社が当てはまるわけではないものの、戸建て住宅よりも大きな規模の建築物を扱うため、一級建築士の資格が必須と言えるでしょう。
ただし、入社時に取得していなかった場合も、働きながら知識を身に付けて最終的に一級建築士を目指すこともできます。
設計事務所(建築設計事務所)
設計事務所とは、建物の設計を専門としており「意匠設計・構造設計・設備設計」を行います。
- 意匠設計:外観や内観などのデザインを中心とした設計業務
- 構造設計:建物の構造を中心とした設計業務
- 設備設計:空調設備や電気設備といった設備を中心とした設計業務
設計事務所は顧客が幅広く、個人の注文住宅を担当することもあればゼネコンから大規模施設の設計の一部を依頼されるケースもあります。
設計事務所には、上記3つの設計を全てこなし工事監理なども行う「組織系事務所」と個人の芸術性を反映した意匠設計に特化した「アトリエ系事務所」があります。
地方自治体(建築部門)
地方公務員には、建築職があり「建設・土地整備課」や「施工管理部門」があります。
公共施設の設計・建設・維持管理・安全管理などが主な仕事内容です。
各地自体の建築職求人の条件を満たした上で、地方公務員試験に合格することで採用となります。
一般企業と異なり、歩合制といった給与形態はありません。
年収1,000万円以上を目指すことは難しい一方で、倒産がなく安定した収入が魅力と言えるでしょう。
住宅関連設備メーカー
住宅関連の設備メーカーでは、給湯機器や調理機器といった設備を専門に扱っています。
建築士として入社した場合は、建物の設計に関する知識を活かした設備の研究開発を行います。
また、注文住宅の場合は、施主の要望に応じたデザインや機能の変更もあり、顧客との打ち合わせも業務の1つです。
一級建築士の上位資格である、設備設計建築士になれれば、より大規模な施設の設備設計に従事することも可能です。
不動産会社
不動産会社の中には、ディベロッパーのように、土地の取得から建物の販売まで一貫して行う企業があります。
建物の設計だけでなく、取得した土地の各種手続きを行うこともあります。
例として、取得した農地を宅地に転用するには「宅地転用申請」が必要であり、建築士であればこの手続きの代行が可能です。
建設関連のコンサルタント
建設業界には、建設コンサルタントの仕事があり、インフラ全般に関する提案やサポートを行います。
主な発注者は国や地方自治体で、現状の課題をヒアリングした上で企画立案を行います。
その後、調査や設計を進めていき、工事後の維持管理をするまでが仕事です。
関連記事:建築士の資格は難易度が高い?1級と2級の5つの違いも紹介
建築士・建築家・設計士に共通する3つのやりがい
建築士や建築家として、建物の設計業務に携わるやりがいとしては、以下のような内容があります。
- 建築を通して人々を笑顔にできる
- 絶えず新しい建築にチャレンジできる
- ゼロから作り上げていく面白さがある
どのような時にやりがいを感じるのか、現役建築士の声も踏まえながら解説していきます。
建築を通して人々を笑顔にできる
建築士や建築家が設計する建物は、人々の生活に欠かせない住宅や各種施設です。
デザインだけでなく、機能性に優れた建物を設計できれば、施主はもちろん、利用者全員を笑顔にできる仕事です。
「自分が設計した建物を、多くの人が利用しているのを見た時に、頑張って良かったと思える」といった声がありました。
絶えず新しい建築にチャレンジできる
建築に関する技術は常に進化し続けており、デザインに正解・不正解はありません。
自分の考えと施主の考えを融合させて、少しずつ形にしていきます。
どのような建物の設計も、毎回がチャレンジと言えるでしょう。
「設計する度に気付きがあり、毎回成長できることが嬉しい」といった声がありました。
ゼロから作り上げていく面白さがある
設計に関する法律には、安全性を確保するためのものはありますが、デザインや機能性に対する細かい指定はありません。
テンプレートもなく、これまでの経験と自分の感性を活かしながらゼロから作り上げていきます。
毎回ゼロからアイデアを出しながら、建物を作り上げていくことは、建築士ならではの楽しさと言えるでしょう。
ちょっとした設計ミスで、人の命に関わる可能性もあり責任重大である一方で、大きなやりがいを持てる仕事です。
関連記事:建築士の平均給料は?給料をアップさせる方法についても紹介
建築士・建築家・設計士の違いに関するよくある質問
最後は、建築士・建築家・設計士に関する、3つのよくある質問に答えていきます。
- 建築士でなくても設計はできますか?
- 建築関係の平均年収はいくらくらいですか?
- 一級建築士になるには最短何年かかりますか?
建築士の収入や資格取得に必要な期間に関する内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。
建築士でなくても設計はできますか?
建物の設計では、建物の規模や造りごとに必要となる資格が、建築士法で定められています。
しかし、木造建造物で延べ床面積が100平方メートル以下の2階建ての建物までであれば、建築士の資格を持っていない人でも設計できます。
鉄筋コンクリート造や鉄骨造などの場合は、30平方メートル以下まで設計可能です。
ただし、建物を建てる際は安全に関する法律などが細かく策定されており、全てに適合している必要があります。
そのため、設計自体はできたとしても、設計図の内容通りに建物を建てることは現実的ではないと言えるでしょう。
建築関係の平均年収はいくらくらいですか?
厚生労働省が運営する、職業情報提供サイト「jobtag」によると、令和4年度における建築設計技術者の平均年収は620.4万円です。
全産業の平均年収が約458万円であることから、かなり高水準であると言えるでしょう。
ちなみに年代別では55〜59歳が最も高く、777万4,800円でした。
出典:職業情報提供サイト jobtag|建築設計技術者|厚生労働省
一級建築士になるには最短何年かかりますか?
一級建築士になるには、最短で6年かかります。
6年の詳細としては、4年制の大学や専門学校で指定の学科を修了し、実務経験を2年積んだ上で一級建築士試験に合格する流れです。
他にも二級建築士試験に合格してから実務経験を積むといった方法などがあります。
どのような方法でも、指定の実務経験と学歴が必要です。
建築士・建築家・設計士の違いに関するまとめ
建築物の設計や工事監理を行う仕事には、建築士や建築家、設計士があります。
それぞれの仕事内容は同じですが、建築士は国家資格、建築家は民間資格、設計士は建築士の見習いという立場です。
建築物の設計に携わる場合、建築士の資格が必要であるため、設計に従事したい場合には建築士の資格取得を目指しましょう。
建築士の資格を取得できれば、ハウスメーカーや建設会社、地方自治体などに転職や就職ができます。
建築業界には欠かせない存在であり、将来性も高いため、気になる方は建築士資格の取得を検討してみましょう。
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