あらゆる建築物の設計を行う建築士は、建設業界の中でも人気の高い職種です。
工事監理や建物調査などにも携われるため、建設会社・ゼネコン・住宅設備メーカーといったさまざな業種で活躍可能です。
将来性も高く、多くの人が建築士の資格取得を目指しています。
建築士は、中学・高校を卒業後、専門の学校に入学し資格取得を目指すのが一般的です。
しかし、社会人になり建築士の資格を取得する人も中にはいます。
今回は、社会人から建築士になるにはどうすればいいのかについて、学歴別で分かりやすく解説していきます。
【この記事でわかること】 ・社会人から建築士になる方法や取得可能な資格 ・建築系の学校を卒業した社会人が建築士を目指す方法 ・建築系の学校を卒業していない社会人が建築士を目指す方法 ・建築士について学ぶ学校を選ぶポイント ・社会人が建築士を目指す上で大切なポイント ・社会人が建築士を目指すことに関するよくある質問 |
社会人から建築士になるには?
冒頭で解説した通り、社会人になってから建築士になることは可能です。
建築士試験に合格し、建築士になる方法は2つあります。
- 建築系の学校に入学し、指定科目を修了した上で建築士試験に挑戦する
- 建築系の会社で実務経験を積み、建築士試験に挑戦する
建築士の資格を取得するには、経歴や学歴に関係なく建築士試験に合格しなければなりません。
建築士試験には受験条件が定められており、その1つが「専門の学校での指定科目の修了」です。
そしてもう1つが「指定の実務経験を満たす」ことです。
指定科目の内容や実務経験の年数は、学歴によって細かく定められています。
社会人からでもなれる建築士の種類
建築士には、携われる建物の規模によって3つの種類が存在します。
・木造建築士
・二級建築士
・一級建築士
この3つの建築士資格とも全て、社会人からの取得が可能です。
ここでは各建築士の資格について、携われる建物の規模や試験の難易度について解説していきます。
木造建築士
木造建築士とは、文字通り木造の建築物の設計や工事監理に携わるための資格です。
木造建築物の設計や工事監理に関する規則は、以下の通り定められています。
【木造建築物の場合】
- 無資格者:高さが13メートル・軒高9メートル以下で延面積が100㎡以下の建築物※1
- 木造建築士:高さが13メートル・軒高9メートル以下で延面積が300㎡以下の建築物※2
※1:延面積が50㎡以上での半分以上を住居用にする場合は建築士の資格が必要
※2:二級建築士や1級建築士も同様
300㎡を超える木造建築物を扱うには、一級・二級建築士の資格が必要です。
そのため、木造建築士は住居規模の木造建築物のみに特化した建築士資格と言えます。
木造建築士の合格率は、毎年35%前後で推移しています。
ちなみに、令和5年度における受験者の割合としては、建築系の学校卒業者が93.9%、実務経験を満たして受験した人は5.7%ほどです。
木造建築士として就職する場合、主な就職先は工務店や建築会社となります。
数は少ないものの、神社などを専門に扱う会社もあります。
設計などの仕事は少なくなるものの、建築士の勉強をした上で宮大工などを目指すことも可能です。
二級建築士
二級建築士は、木造以外の建築物の設計などにも携われます。
ただし、建築物の規模に指定があり、全ての建築物の設計に携われるわけではありません。
【二級建築士の場合】
- 木造建築物:高さが13メートル・軒高9メートル以下で延面積が1000㎡以下の建築物※1
- 鉄筋コンクリート、鉄骨造、石造、コンクリートブロック造、レンガ造り、無筋コンクリート造の場合 高さが13メートル
- 軒高9メートル以下で延面積が30~300㎡以下の建築物
※1:延面積が500㎡を超える病院や劇場、映画館などの施設は一級建築士のみ従事可能
木造以外の造りの建築物は30㎡以内であれば、無資格者でも設計可能です。
木造以外の建築物にも携われるため、木造建築士よりも従事できる仕事の幅は広いと言えます。主に住宅規模の建物に携わることとなります。
二級建築士の合格率は、毎年20~25%ほどで推移しており、木造建築士よりも難しいと言えるでしょう。
ちなみに、令和5年度の建築士試験で、建築系の学校を卒業後に受験した人の割合は全体の86.2%となります。
実務経験を満たした上で受験した人の割合は11.8%程です。
二級建築士は住宅の設計がメインとなるため、主な就職先は工務店や建築会社の他に、ハウスメーカーや住宅設備メーカーなどがあります。
設計に関する仕事はもちろん、人によっては建築士の知識を活かし営業などの業務をこなす人もいます。
宅地建物取引主任者などの資格も一緒に取得できれば、より仕事の幅を広げられるでしょう。
一級建築士
一級建築士は、携われる建築物の規模に制限がなくなり、住居以外にも高層ビルや大型商業施設、競技場といったあらゆる建築物の設計ができます。
建築物の規模が大きくなる分、求められるスキルや知識が増えるものの、普段の仕事内容に大きな違いはありません。
【建築士の主な仕事内容】
設計業務:建物の外観や内装だけでなく、材料や設備、工事方法まで全てを決めた上で仕様書を作成する。
工事監理業務:設計図や仕様書の内容通りに建築工事が進められているか、工事現場でチェックを行う。問題が発生した場合には、仕様書等の変更なども行う。
その他事務作業:建物の引き渡しや完成した建築物のチェックを行う
この他にも、会社によっては建築物に関するコンサルティング業務や、各種設備の企画開発なども行います。
一級建築士の合格率は、毎年10%前後を推移しており、3つの建築士資格の中で最も低い数値となります。
受験資格も、内容が厳しく最も難易度の高い上位資格です。
建築系の学校を卒業した社会人が建築士になるには?
社会人から建築士を目指す場合、建築系の学校を過去に卒業しているか否かで、建築士試験の受験条件が異なります。
また、どのような学校を卒業しているのかによっても、受験条件は異なるため、注意が必要です。
ここでは、建築系の学校別で社会人から建築士を目指す上での条件を解説していきます。
4年制大学の建築系学科を卒業した社会人
建築系の4年制大学を卒業している場合、二級建築士の受験資格は以下の通りです。
在学中の取得単位数 | 二級建築士試験の受験資格 | 免許登録条件 |
40単位 | すぐに受験可能 | すぐに登録可能 |
30単位 | 実務経験1年以上 | - |
20単位 | 実務経験2年以上 | - |
取得単位に関しては、科目別で必要単位数の指定があるため、どの科目でも受験資格をクリアできるわけではありません。
ちなみに、4年制の大学を卒業していれば、いきなり1級建築士試験に挑戦することも可能です。
【一級建築士の受験資格】
在学中の取得単位数 | 二級建築士試験の受験資格 | 免許登録条件 |
60単位 | すぐに受験可能 | 実務経験2年以上 |
50単位 | 実務経験3年以上 | - |
40単位 | 実務経験4年以上 | - |
建築系の4年制大学で、指定の単位数を満たしていれば、最短2年で一級建築士になることも可能です。
ちなみに、大学を卒業後に建築系の会社に就職し、実務経験を積んだ上で資格試験に挑戦することもできます。
このようなケースで試験に合格した場合、受験前の実務経験も免許登録の条件に含められます。
短大の建築系学科を卒業した社会人
短大の建築系学科を卒業した場合、建築士試験の受験条件は4年制大学と同じ内容です。
また、3年制の短期大学を卒業していれば、1級建築士試験にも挑戦可能です。
一級建築士の受験条件も、4年制大学と同じ条件となります。
ただし、短期大学で学べる単位数は40~50単位となるため、免許登録するには実務経験が3年から4年必要です。
4年制大学よりも早く卒業できるものの、一級建築士になれる最短期間は同じです。
高専の建築系学科を卒業した社会人
高専の建築系学科を卒業した場合も、4年制大学や3年制短期大学と建築士試験の受験条件は同じです。
また、1級建築士試験にも挑戦できます。
短期大学と同様に、学べる単位数が4年制大学よりも少ない分、免許登録するまでに3~4年の実務経験が必要です。
高校の建築系学科を卒業した社会人
建築系の高校を卒業している場合、2級建築士試験の受験条件は以下の通りです。
在学中の取得単位数 | 二級建築士試験の受験資格 | 免許登録条件 |
20単位 | すぐに受験可能 | 実務経験2年以上 |
15単位 | 実務経験1年以上 | 実務経験3年以上 |
高校の建築系学科を修了した場合、取得単位数によっては、二級建築士でも1年の実務経験が必要です。
免許登録して建築士として従事できるようになるには、2~3年の実務経験を積まなければなりません。
ちなみに、大学・短期大学・高専の卒業者と異なり、高等学校の場合は一級建築士試験には挑戦できません。
高等学校の卒業者が一級建築士を目指す場合、まずは二級建築士を目指しましょう。
実務経験を経て、二級建築士の免許登録を行えば、一級建築士試験も受験可能となります。
ちなみに、一級建築士の免許登録を行う場合、二級建築士として4年以上の実務経験が必要です。
職業訓練校の建築系学科を卒業した社会人
高校を卒業後、職業訓練校で建築系の学科を学んだ場合も、二級建築士試験の受験条件は高等学校と同じです。
ただし、3年の就業年数があり、取得単位が30ある場合には、卒業後すぐに受験可能であり、免許登録に必要な実務経験は1年となります。
また、中学校や義務教育学校を卒業後に職業訓練校へ入学した場合の受験資格は以下の通りです。
在学中の取得単位数 | 二級建築士試験の受験資格 | 免許登録条件 |
20単位 | すぐに受験可能 | 実務経験2年以上 |
15単位 | 実務経験1年以上 | 実務経験3年以上 |
10単位 | 実務経験2年以上 | 実務経験4年以上 |
ちなみに、職業訓練校はハローワークの求職者の場合、基本的に受講料が必要ありません。
専門学校や大学で学ぶよりも費用を抑えられることが特徴であり、別業界から建設業界へ転職を考えているような人におすすめです。
建築士以外にも、施工管理やCADオペレーターなどについて学ぶことも可能であり、資格取得に励みながらの転職活動もできます。
参考:二級建築士・木造建築士の受験・免許登録時の必要単位数(学校種類別)|公益財団法人 建築技術教育普及センター
建築設備士の資格を保有している社会人
建築物における、空調・電気・給排水といった設備の設計や工事監理を専門に行う資格に「建築設備士」があります。
この建築設備士の資格を持っている場合、二級・一級建築士免許を受験できます。
受験する上での条件はなく、一級建築士の場合は免許登録するのに建築設備士として4年の実務経験が必要です。
建築系の学校を卒業していない社会人が建築士になるには?
建築系の学校を卒業していない場合も、社会人から建築士を目指せます。
建築士を目指す方法は、以下の2通りです。
・実務経験を積む
・建築系の学校に通う
具体的にどのような実務経験を積めばいいのか、社会人として建築系の学校に通う方法の内容について解説していきます。
実務経験を積む
二級建築士試験を受ける場合、必ず指定科目を修了していなければならないわけではありません。
建築士に関係する実務経験を7年積めば、専門の学校を卒業していなかったとしても、試験に挑戦できます。
学校のように適切なカリキュラムが用意されているわけではないものの、実際の現場で必要な知識やスキルを直接身に付けられます。
また、建設業界に従事することで、建築士だけでなく業界全体の魅力や辛さの体感も可能です。
学費が一切かからず、お金を稼ぎながら学べることも魅力の1つと言えるでしょう。
【実務経験として認められる業務の例】
- 住宅建築に関する図面の作成や長期優良住宅に係る図書の作成
- BIM部品の作成や構造計算プログラムの開発
- 広告塔や鉄柱、車庫といった工作物の設計
- 建築物のエネルギー消費性能に関する評価や適合性の判定
- 建築物に関する調査や評価、報告
- 各建築工事における品質・安全衛生、工程管理
全ての作業が実務経験と認められるわけではありません。
また、会社によっては別の部署へ異動になる可能性もあるため、建築士を目指せる会社の選定が必要です。
建築系の学校に通う
建築系の学校に通って建築士試験に挑戦する方法もあります。
今の仕事を辞めた上で学業に専念したいという場合には、専門学校や大学がおすすめです。
一方で、生活費の関係で今の仕事を辞められないような場合は、夜間の学校などを探すようにしましょう。
これまでの経歴に関係なく、建築に関する知識やスキルを幅広く学べるため、未経験からでも挑戦しやすいことは大きなメリットと言えます。
また、実務経験を7年も積む必要がなく、3~4年ほどで資格取得できることも魅力と言えるでしょう。
一方で、通学するには学費が必要であり、学校によって100~300万円掛かるのはデメリットとなります。
関連記事:建築士になるには?社会人から最短で建築士になる方法を紹介
社会人から建築士になるには学校選びに気をつける
社会人から建築士を目指す場合、他の学生よりも学習時間の確保などが難しいと言えます。
既に一人暮らしをしていたり、家族がいたりする場合には費用の工面も大変です。
途中で挫折することなく、建築士になるためには、以下のポイントを意識して学校を選ぶようにしましょう。
・奨学金制度の活用ができるかどうか
・なるべく短期間で資格取得できるかどうか
具体的にどのような点をチェックすればいいのか、学校の選び方について解説していきます。
奨学金制度の活用
学費の工面が難しい場合には、奨学金制度を利用できる学校を選ぶようにしましょう。
奨学金以外にも、学費免除や入学金免除といった支援制度を用意している学校も中にはあります。
「お金がないから」と入学を諦める必要はありません。
ただし、学校卒業後には毎月少しずつ返済していく必要があります。
借用金額は無理のない範囲に抑えるようにしましょう。
二級なら最短2年で受験資格を得られる
働きながら学校に通う場合、なるべく修学期間を短くした方が負担を抑えられます。
建築系の学校の中でも特に就学期間が短く、夜間学校が多いのは2年制の専門学校です。
学校によっては、通信講座で学ぶことも可能であり、通学する必要がないため、負担も抑えられます。
【夜間学校の概要例・修成建設専門学校の場合】
支援制度:資格取得奨励金制度・就職サポート・各種授業料の減免制度
校納金額:1年次:635,000円 2年次:588,000円※教材費などは別途必要
実績:二級建築士試験の合格率・学科:70%、製図:88%
社会人として学校に入学する場合「専門実践教育訓練給付金」という国の制度を利用することも可能です。
このように各学校でさまざまな支援制度を用意しているため、リサーチしてみるようにしましょう。
建築系の学校を卒業したものの、時間が経っており知識を忘れてしまった場合には、通信講座の受講もおすすめです。
通信講座であれば、20~50万円ほどで受講できます。
社会人から建築士になるには仕事との両立が重要
建築士試験の合格率は、二級で20~25%、一級で10%程であり、かなり難易度が高いと言えます。
仕事と両立しながら建築士試験に合格するのは、決して簡単なことではありません。
限られた時間の中で効率良く学ぶためには、オンライン講座による学習がおすすめです。
スマホやタブレットがあれば、いつでもどこでも勉強できます。
ちょっとした時間でも有効に活用できるため、体力的な負担を軽減できます。
取得には最短でも2年以上かかるため、仕事と両立可能な方法を積極的に取り入れることが大切です。
関連記事:
・【2024年最新】建築士の平均年収はいくら?一級建築士の年収ランキングも紹介
「社会人から建築士になるには?」に関してよくある質問
最後は、社会人から建築士を目指すことに関する、2つのよくある質問に答えていきます。
・建築士として一人前になるには何年かかる?
・建築士はどんな人が向いている?
一人前になるまでの期間や、仕事の適性に関する内容ですので、参考にしてみてください。
建築士として一人前になるには何年かかる?
建築士として一人前になるまでには10年ほどの時間が必要と言われています。
建築士と言えば建物を設計するイメージが強いものの、工事監理にも携わりながら安全に建設工事を終わらせる役割も担っています。
そのため、建物の構造だけでなく工事に関わるあらゆる工程に関しても熟知しておかなければなりません。
設計業務だけでなく、工事監理も適切にこなせるようになるには、約10年はかかると言えるでしょう。
建築士はどんな人が向いている?
建築士はクリエイティブな業務が多いため、創造力のある人が向いていると言えるでしょう。
外観や内装といった建物のデザインはもちろん、利用者の動線を想像しながらの空間デザインなども手掛けます。
より具体的なイメージを作り上げるには、施主との話し合いも大切です。
そのため、コミュニケーション能力も必須と言えます。
また、建築技術は常に進化しているため、新しいことを常に学ぼうとする好奇心旺盛な人に向いていると言えます。
関連記事
「社会人から建築士になるには?」についてのまとめ
建築士になるには、建築士試験に合格する必要があり、まずは受験条件をクリアしなければなりません。
受験条件には学歴ごとの指定科目や、実務経験があります。
社会人でこれらの受験条件を満たすには、建築関連の会社に従事するか、建築系の学校に通学する方法があります。
どちらも決して簡単ではないものの、仕事と学校を上手に両立させられれば、資格取得も十分可能です。
自分のライフプランに合った方法を見つけ出し、建築士試験に向けて頑張っていきましょう。
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