1級自動車整備士の資格に関心があり、特に資格取得に向けた情報を求めている人もいるでしょう。
実際、1級自動車整備士は難易度の高い資格ですが、その分、市場価値が高いと言われています。
この記事では、1級自動車整備士の資格取得から仕事内容・役割まで詳細に解説します。また、資格の価値・受験方法・キャリアパスも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
1級自動車整備士とはどのような資格・仕事なのか?
1級自動車整備士は、自動車整備関連の中で最も難易度の高い国家資格です。1級自動車整備士を取得できれば、幅広い車種の整備・修理を担当できます。
たとえば、ディーラーや民間整備工場、車両開発部署では、自動車整備士が必要とされています。
また、1級自動車整備士の資格を取得するには、受験資格を満たさなければなりません。
受験要件を満たす手段は2つです。
- 専門学校に通う
- 2級自動車整備士を取得して実務経験を積む
したがって、試験を受けるには費用や時間を必要とするので、自動車整備士のうち1級を取得している人は10%に満たないと言われています。
はじめに:1級自動車整備士とは?
1級自動車整備士は、今後ますます重宝される資格です。1級自動車整備士について、次の3つの視点で解説します。
- 1級自動車整備士とは?
- 1級自動車整備士資格の概要と価値
- 1級自動車整備士の仕事内容と役割
1級自動車整備士とは?
1級自動車整備士は、自動車整備関連の中で最も難易度の高い国家資格です。
1級は3種類に分類されています。
- 1級小型自動車整備士
- 1級大型自動車整備士
- 1級二輪自動車整備士
ただし、令和9年からは1級自動車整備士(総合)・1級自動車整備士(二輪)の2種類です。
1級小型自動車整備士
1級小型自動車整備士は、総重量8t未満・最大積載量2t以下・乗車定員11名以下の普通自動車、四輪・三輪の小型自動車、さらには軽自動車を整備できます。
1級では、ガソリン・ジーゼル・シャシの区分がなく、すべての車両を整備可能です。
1級大型自動車整備士
1級大型自動車整備士は、バスやトレーラーなどの総重量8t以上・最大積載量2t以上・乗車定員11名以上の車両を整備できます。
しかし、1級大型自動車整備士の試験はまだ実施されておらず、資格取得者は存在しません。
1級二輪自動車整備士
1級二輪自動車整備士は、二輪自動車全般を整備できます。
しかし、1級二輪の試験はまだ実施されておらず、資格取得者は存在しません。
したがって、『1級=1級小型』と認識されているケースが一般的です。
1級自動車整備士資格の概要と価値
1級以外に自動車整備士の資格は大きく3種類あります。
- 3級自動車整備士
- 2級自動車整備士
- 特殊整備士
2級・3級は、ガソリン・ジーゼル・二輪・シャシと分けられていますが、1級は大型・小型・二輪の3種類です。ちなみに、2級・3級ともに、令和9年からは総合と二輪の2種類になります。
1級自動車整備士であれば、エンジンの種類にかかわらず車両の取り扱いが可能です。
ただし、2級を取得していればエンジンの種類は限定されますが、1級とほぼ同等の業務に従事できます。そのため、自動車整備関係の資格を取得している人のうち、2級の割合は約80%です。
しかし、昨今、EV・PHV車が普及しているので、エンジンの種類にかかわらず対応できる1級が求められています。
1級自動車整備士の仕事内容と役割
1級自動車整備士の仕事内容は、主に幅広い車種の分解・点検・修理です。
自動車整備関連で最高位の資格のため、ほとんどの業務を担当できます。
しかし、法律上、検査員が行う検査業務だけは対応できません。
検査業務とは、整備士が修理・点検した自動車が国の基準を満たし安全に走行できるかを確認する仕事です。
先ほども触れた通り、昨今、次世代自動車が普及しています。
日本では、2018年時点で、2030年のEV・PHV自動車の普及目標は30%です。
また、乗用車の新車販売は、2035年までにEV100%を目指しています。
したがって、幅広い車種に対応できる1級自動車整備士の役割は、今後ますます重要視される見込みです。
参考:EV/PHV普及の現状について|国土交通省
参考:自動車・蓄電池産業|METI/経済産業省
1級自動車整備士の魅力
1級自動車整備士ならではの魅力はいくつもあります。主な魅力は4つです。
- 高い給与と安定した収入を得られる
- 多様なキャリアパスを描ける
- 最新技術に触れられる
- 社会貢献度の高い仕事ができる
それぞれについて解説します。
高い給与と安定した収入を得られる
1級は、自動車整備関連の中で最も難しい国家資格です。したがって、高い専門性と技術力が業務に還元されるため、2級と比べて給与水準が高い傾向があります。
経験や勤務地によっても異なりますが、1級の年収は2級と比較して20万円程度高いと言われています。
また、1級は今後ますます需要が増える見込みです。
多様なキャリアパスを描ける
1級は、整備工場での勤務以外にも、さまざまなキャリアパスを選択できます。
たとえば、ディーラーやメーカーでの勤務や独立して整備工場を開業するなどです。
また、1級が昇給・昇格に有利な場合もあり、ひとつの会社でキャリア形成も可能です。
最新技術に触れられる
自動車業界は、日々新しい技術が開発されている状況です。1級は、最新技術をいち早く学び、実践で活かせます。
1級の資格があれば幅広い車種を取り扱えるので、最新技術に触れられます。EV・PHV、自動運転技術に触れ、仕事へのモチベーションも高めている人もいるようです。
社会貢献度の高い仕事ができる
自動車は、多くの人々の生活に欠かせないものです。一般社団法人日本自動車工業会によると、2021年の自動車世帯保有率は77.9%にも上ります。
1級自動車整備士は、安全で快適なカーライフを提供して社会貢献しています。
1級自動車整備士になるには
1級自動車整備士になるには、資格試験に合格しなければなりません。加えて、試験を受けるには受験要件を満たす必要があります。
1級自動車整備士を目指す方法は次の2つです。
- 資格取得の方法①:専門学校に進学する
- 資格取得の方法②:自習して取得する
それぞれの方法について解説します。
資格取得の方法①:専門学校に進学する
専門学校に進学して取得を目指す人が一般的と言われています。
専門学校は大きく分けて2種類です。
- 一種養成施設(整備専門学校・高校・職業能力開発校など)
- 二種養成施設(各都道府県自動車整備振興会の自動車整備振興会技術講習所)
一種養成施設で養成課程を修了した場合、実務経験がなくても1級の受験要件を得られます。
また、二種養成施設に進学した場合は、2級を取得後、3年の実務経験が必要です。ただし、二種養成施設を修了すると、1級の試験で実施される実技が免除されます。
参考:受験資格について|国土交通省
参考:自動車整備士養成施設について|国土交通省
資格取得の方法②:自習して取得する
自習で1級を受験する場合、3級の取得から始める必要があります。
3級を取得後、2級を目指します。そして、2級の取得後、3年の実務を経験しなければなりません。
自習の場合、専門学校の進学に付随する費用負担はありませんが、1級の受験要件を満たすために時間がかかる点はデメリットです。
【徹底解説】1級自動車整備士試験について
1級自動車整備士の試験は、国土交通省が実施する「技能検定試験」を受験しなければなりません。しかし、一般社団法人日本自動車整備振興会連合会が主催する「登録試験」に合格すれば、技能検定試験が免除されます。
1級を取得する人のうち大半が登録試験を受験しています。
ここでは、1級自動車整備士試験のポイントは次の通りです。
- 試験の流れ
- 試験対策と難易度
- 試験科目と対策
- 学科試験
- 実技試験
それぞれについて解説します。
試験の流れ
試験を受験するにあたっての流れは次の通りです。
- 技能検定試験もしくは登録試験の受験申請
- 技能検定試験もしくは登録試験の受験
- (登録試験受験の場合)技能検定試験の免除申請
- 合格証書の交付
参考:自動車整備士になるために |国土交通省
参考:自動車整備士を希望されるみなさんへ|一般社団法人日本自動車整備振興会連合会
試験対策と難易度
1級の合格率は25%から45%程度と言われています。
令和2年から令和4年にかけての合格率は次の通りです。
年度 | 種類 | 受験者数 | 合格率 |
令和2年度 | 筆記 | 2,529人 | 61.1% |
口述 | 1,592人 | 99.2% | |
実技 | 372人 | 35.5% | |
令和3年度 | 筆記 | 2,341人 | 59.0% |
口述 | 1,397人 | 95.1% | |
実技 | 367人 | 56.1% | |
令和4年度 | 筆記 | 2,456人 | 53.0% |
口述 | 1,364人 | 97.6% | |
実技 | 294人 | 64.3% |
また、試験対策に必要な時間は受験要件を満たす方法によって異なります。専門学校に通う場合は、カリキュラムを修了しましょう。自習する場合は、一般的に1日2時間から3時間程度の勉強が必要と言われています。
出典:試験結果(受験者及び合格者数等) | 一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会
試験科目と対策
試験科目は学科と実技の2種類です。また、学科は筆記と口述に分かれています。
先ほど紹介した合格率を踏まえると、筆記・実技の対策が特に重要と言えるでしょう。
学科試験
筆記試験の出題範囲は次の通りです。
- 構造・機能および取り扱い法
- 点検・修理・調整および完成検査の方法
- 整備用機械に関する初等知識
- 整備用の試験機・計量器および工具の構造・機能および取り扱い法
- 材料および燃料油脂の性質および用法
- 図面に関する一般知識
- 保安基準その他の自動車の整備に関する法規
過去に出題された筆記試験の問題をひとつ紹介します。
デジタル式サーキット・テスタに関して述べた(イ)から(ハ)の文章の正誤の組み合わせとして、適切なものは(1)から(4)のうちどれか。 (イ) 電源電圧が5Vで、抵抗値500kΩの抵抗2個を直列に接続した回路で、片方の抵抗の両端に内部抵抗50kΩのテスタ(電圧計)を接続したとき、計算で求められるテスタの表示値は、約1.66Vになる。(ロ) クレスト・ファクタとは、デジタル・テスタがもっている交流波形に対する測定能力を表すもので、交流測定時、交流波形の波高の最大値(P)と実効値(RMS)との比(最大値/実効値)を係数で示しており、正弦波の場合、「P/(P/√2)=√2≒1.414」の式で表わされる。 (ハ) テスタの直流電圧表示値が12.494Vのとき、直流電圧計の性能表に確度が50Vレンジで「0.03+2」と記載されていた場合の実際の電圧値は、12.488V~12.500Vの範囲になる。 (1)(イ)正 (ロ)誤 (ハ)正 (2)(イ)誤 (ロ)正 (ハ)正 (3)(イ)誤 (ロ)正 (ハ)誤 (4)(イ)正 (ロ)誤 (ハ)誤 |
また、口述試験の出題範囲は次の通りです。例年、問題が2つ用意されています。
- 故障診断(問診)
- 整備内容説明の問題
口述試験では具体的かつ詳細なヒアリングと、わかりやすい説明が求められています。
参考:自動車:試験の内容について|国土交通省
出典:令和4年度第2回自動車整備技能登録試験 「学科試験」の問題と解答について 一級小型自動車(筆記)|一般社団法人日本自動車整備振興会連合会
参考:口述試験出題形式、出題方針等について|国土交通省
実技試験
実技試験の内容は次の通りです。
- 基本工作
- 点検・分解・組立て・調整および完成検査
- 修理
- 整備用の試験機・計量器および工具の取り扱い
1級自動車整備士のキャリアと年収に関する最新の傾向
1級自動車整備士のキャリアと年収に関する最新の傾向について次の2つの視点で解説します。
- 1級自動車整備士の給与とキャリアアップ
- 約5割の整備事業者で整備士が不足
1級自動車整備士の給与とキャリアアップ
令和4年賃金構造基本統計調査によると、自動車整備士の平均年収は469.3万円です。平均年収の計算には2級や3級保持者も含まれているので、1級に限定するともう少し平均年収は高くなるでしょう。
また、1級自動車整備士のキャリアアップは、整備士で専門性を磨いたり整備工場の管理職を目指したりするだけではありません。
昨今、自動車整備士の経験を踏まえて、ディーラーの営業所運営や会社の経営に参画するケースもあります。
参考:自動車整備士 - 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
約5割の整備事業者で整備士が不足
国土交通省の資料によると、平成26年時点で約5割の整備事業者で整備士が不足しています。また、ディーラーの約8割がサービスエンジニアの採用に苦戦しています。
さらに、令和4年度の自動車整備士の有効求人倍率は5.02です。令和5年12月の日本全体の有効求人倍率が1.27でしたので、自動車整備士の不足が見て取れるでしょう。
参考:議事1自動車整備士不足の現状と行政の取組|国土交通省
参考:自動車整備士 - 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
参考:一般職業紹介状況(令和5年12月分及び令和5年分)について | 厚生労働省
1級自動車整備士の具体的なキャリアアップの方法
1級自動車整備士の具体的なキャリアアップの方法は主に2つです。
- 技術力を向上させる
- 転職する
それぞれについて解説します。
技術力を向上させる
自動車整備士の技術力を向上させるには、経験を積んだり研修・勉強会に参加したりする方法があります。
具体的には、昨今、先進技術の発展がすさまじく、それに対応できる知識や技術が不可欠です。エンジンの種類にかかわらず幅広い車両を取り扱えるのは、1級自動車整備士ならではのメリットです。
したがって、1級自動車整備士の価値を高められるように、技術力を向上させましょう。
転職する
1級自動車整備士がキャリアアップを目指す方法のひとつに転職もあります。
1級は市場価値が高く、さまざまな業種への転職が可能です。
たとえば、ディーラーや車両開発部署への転職です。
ディーラーや車両開発部署の平均年収は、民間整備工場と比較して高い傾向があります。
将来的に1級自動車整備士に求められる専門スキルとは?
将来的に1級自動車整備士に求められる専門スキルは主に2つです。
- 最新技術に応じた整備技術の習得
- 次世代車両への対応
それぞれについて解説します。
最新技術に応じた整備技術の習得
最新技術に対応するには、業界の動向をチェックして情報収集しておかなければなりません。
近年、自動車技術は目覚ましい進歩を遂げています。新たに開発される自動車には、自動運転技術やコネクテッドカー技術など高度な機能が搭載されています。
次世代車両への対応
世界的に地球温暖化の影響を踏まえて、次世代自動車の普及が著しい状況です。
日本では、2018年時点で、2030年のEV・PHV自動車の普及目標を30%と設定しています。
また、乗用車の新車販売目標は「2035年までにEV100%」です。
したがって、今後、次世代車両への対応が、1級自動車整備士に求められるでしょう。
参考:EV/PHV普及の現状について|国土交通省
参考:自動車・蓄電池産業|METI/経済産業省
まとめ
今回は、1級自動車整備士に関して資格や仕事内容を中心に解説しました。
1級自動車整備士は、自動車整備関連の中でも最も難易度の高い国家資格です。1級自動車整備士の資格があれば、幅広い車種の整備・修理を担当できます。
1級自動車整備士の魅力は次の4つです。
- 高い給与と安定した収入を得られる
- 多様なキャリアパスを描ける
- 最新技術に触れられる
- 社会貢献度の高い仕事ができる
1級自動車整備士の資格取得を検討しているのであれば、チャレンジしてはいかがでしょうか。
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