現在普通免許ありの人の中には、「スキルアップのために準中型免許を取得したい」と考える人もいるでしょう。
しかし、普通免許を取得している人が準中型免許を取得する際には、初めて免許を取得する場合とは異なる部分が存在します。
そこで本記事では、普通免許を取得している人が準中型免許を取得する方法、準中型免許を取得する前に知っておくべき限定解除の仕組み、普通免許を取得している人が準中型免許を取得する際の費用などについて解説します。
普通免許ありの人が知っておくべき準中型免許制度
準中型免許は日本の運転免許の一種です。取得すれば、車両総重量3.5t以上7.5t未満、最大積載量2t以上4.5t未満、乗車定員10人以下の車両を運転できます。
具体的には、荷物を運ぶトラックや、一定の人数を乗せることができるバスの運転が許可されています。
ここでは、準中型免許が誕生した理由や、準中型免許で運転できる車両について解説します。
準中型免許ができた理由
準中型免許導入には、大きく2つの理由が存在します。
1つ目は、トラックドライバーの不足が挙げられます。
近年、日本の物流業界は経済の成長とともに拡大を続けており、それに伴いトラックによる輸送の需要も増加しています。そして、物流の現場で多く利用されているのが「2tトラック」と呼ばれる車両です。
この「2tトラック」は、最大積載量が3t以上、4.5t未満のものが多く、従来の制度では中型免許を所有していなければ運転できませんでした。
しかし、従来の中型免許は「年齢が20歳以上」「普通免許等の通算2年以上の保有」という資格取得制限が設けられていました。例えば、高卒で物流会社に就職したばかりの社員は、すぐに配送業務に就くことが困難だったのです。
この「中型免許取得のハードルの高さ」も影響し、流通業界ではトラックドライバーの不足が深刻化していきました。
しかし、新たに導入された準中型免許は、18歳以上であれば取得でき、免許保有期間の規定も不要となりました。
先ほどの例で言えば、高卒で物流会社に就職したばかりの社員でも、準中型免許を取得すれば、すぐに配送業務に就くことができるようになったのです。
このように、輸送業務に必要なトラックを運転できる免許を簡単に取得できるようにするために、準中型免許が導入されました。
そして2つ目は、交通事故の削減です。
2017年の法改正前までは、普通免許で車両総重量5tの車両まで運転可能でした。しかし、普通免許の教習では普通乗用車の運転教習しか行わず、実質的に「教習を受けていないトラックを普通免許だけで運転できる」という状態になっていました。
そして、車両総重量5t以上の自動車の保有台数当たりの死亡事故は、統計上多くなっており、この状態を危険視する声が相次いでいました。
そういった背景から、交通事故の削減を目的として準中型免許が新設されたのです。
一部では「本当に交通事故の削減に繋がるのか」と疑問視する声もありましたが、準中型免許の新設による交通事故の削減の根拠として、2007年の中型免許新設時の警察庁のデータが引き合いに出されました。
警視庁の統計データによれば、中型免許が新設される前の2006年には事故件数は23,144件でしたが、中型免許が新設された2007年は20,441件、2008年には15,222件と、事故件数は減少していったのです。
このデータから、免許制度を新しく設立することにより事故減少につながるということが明らかとなり、準中型免許も交通事故の削減につながると結論付けられたのです。
そして、実際の準中型免許誕生後の交通事故死亡者人数は以下のように推移していきました。
年度 | 人数 |
2015年 | 4,117 |
2016年 | 3,904 |
2017年 | 3,694 |
2018年 | 3,532 |
2019年 | 3,215 |
2020年 | 2,839 |
2021年 | 2,636 |
2022年 | 2,610 |
出典:警察庁「統計表」
2015年と2022年の数字を比較すると、約37%も減少しています。 準中型免許の誕生と交通事故死亡者の数の関係を直接結び付けることはできませんが、準中型免許が交通事故の減少に一定の効果をもたらしていると言っても過言ではありません。
出典:東京車人武蔵境教習所「準中型免許って? 免許制度改正についても紹介」
出典:警視庁「準中型免許試験(指定教習所を卒業又は検査合格証明書をお持ちの方)」
準中型免許で運転できる車の種類
免許 | 車両総重量 | 最大積載量 | 乗車定員 |
普通免許 | 3.5t未満 | 2t未満 | 10人まで |
5t限定準中型免許 | 3.5t以上5t未満 | 2t以上3t未満 | 10人まで |
準中型免許 | 3.5t以上7.5t未満 | 2t以上4.5t未満 | 10人まで |
8t限定準中型免許 | 3.5t以上8t未満 | 2t以上5t未満 | 10人まで |
中型免許 | 7.5t以上~11t未満 | 4.5t以上~6.5t未満 | 29人まで |
大型免許 | 11t以上 | 6.5t以上 | 30人以上 |
準中型免許で運転できる範囲は、車両総重量が3.5t以上7.5t未満、最大積載量が2t以上4.5t未満、乗車定員が10人までの車両となります。
車両総重量・最大積載量・乗車定員は、運転免許証と、運転する自動車に車載されている自動車検査証に記載されています。
関連記事:準中型免許で運転できるトラックとは?免許の取得方法や中型免許との違いを紹介
準中型免許を普通免許ありの人が取得する条件
準中型免許を取得する条件として、身体能力に関しては以下のように規定されています。
年齢 | 18歳以上 |
視力 | 両眼で0.8以上、かつ、1眼でそれぞれ0.5以上 |
色彩識別能力 | 赤色、青色及び黄色の識別ができる |
深視力 | 三桿法の奥行知覚検査器により、2.5メートルの距離で3回検査し、その平均誤差が2センチメートル以下 |
聴力 | 10メートルの距離で90デシベルの警音器の音が聞こえる |
運動能力 | ①自動車等の運転に支障を及ぼす恐れのある四肢又は体幹の障害がない。 ②自動車等の運転に支障を及ぼす恐れのある四肢又は体幹の障害があるが、その者の身体の状態に応じた補助手段を講ずることにより自動車等の運転に支障を及ぼす恐れが無いと認められるもの。 |
なお、視力に関してはメガネ・コンタクトレンズを使用した矯正視力でも問題はありません。
また、道路交通法の改正により、2014年6月1日より仮免許申請時に「質問票」の提出が義務づけられました。
この質問票は、免許取得者の健康状態を調査するもので、下記5つの質問に回答する必要があります。
- 過去5年以内に、病気(病気の治療に伴う症状を含みます)を原因として、又は原因は明らかでないが、意識を失ったことがある。
- 過去5年以内に、病気を原因として、身体の全部又は一部が、一時的に思い通りに動かせなくなったことがある。
- 過去5年以内に、十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中、活動している最中に眠り込んでしまった回数が週3回以上ある。
- 過去1年以内に、次のいずれかの状態に該当したことがある。 「 飲酒を繰り返し、絶えず体にアルコールが入っている状態を3日以上続 けたことが3回以上ある。」「病気の治療のため、医師から飲酒をやめるよう助言を受けているにもかかわらず、飲酒したことが3回以上ある。」
- 病気を理由として、医師から運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている。
なお、この質問票に虚偽の記載をして提出すると罰則が適用されます。
出典:警視庁「質問票について」
関連記事:準中型免許の取得条件は?身体能力・病気・教習に関して解説
普通免許ありで準中型免許を取得するなら押さえたい限定解除
限定解除とは、特定の条件下でのみ運転が許可される免許から、その制約を取り払い、より広範囲の運転が可能な免許へと変更する手続きを指します。
特に、準中型免許には「5t限定準中型免許」という特定の制約を持つ免許があります。この免許を持っていると、車両総重量5t未満の車の運転が認められます。
この5t限定準中型免許が誕生した背景には、2017年以前の法律が関与しています。
2017年の法改正により、「2007年6月2日から2017年3月11日までに普通免許を取得した人」は、2017年3月12日からは「5t限定準中型免許の保持者」として扱われることとなりました。
法改正により、普通車の規定が車両総重量3.5t未満、最大積載量2t未満となったため、本来であれば、2007年6月2日から2017年3月11日までに普通免許を取得した人も、運転できる車両は「車両総重量3.5t未満、最大積載量2t未満」となるはずでした。
ですが、2007年6月2日から2017年3月11日までに普通免許を取得した人は改正前の法律上、車両総重量5t未満、最大積載量3t未満の車両も運転可能となっていました。
その帳尻を合わせるために、法改正のタイミングで「5t限定準中型免許」を新設し、2007年6月2日から2017年3月11日までに普通免許を取得した人は、「車両総重量5t未満、最大積載量3t未満の準中型車も運転できる」と定めたのです。
そして、その「5t限定準中型免許」では、車両総重量5t以上、最大積載量3t以上の車両を運転できず、新規で正規の準中型免許を取得するのは、費用や時間面でハードルが高いため、限定解除が導入されました。
関連記事:準中型免許の限定解除とは?5t未満しか運転できない理由
準中型免許を普通免許ありの人が取得する2つの方法
続いては、普通免許を取得している人が準中型免許を取得する方法を2つ紹介します。
限定解除が必要な人向け
2007年6月2日~2017年3月11日の間に普通免許を取得した人は、車両総重量5t未満、最大積載量3t未満の車両を運転することができ、免許証には「準中型車は準中型(5t)に限る」と記載されます。
そのため、準中型免許の対象となる、最大積載量4.5tまでの車両を運転したい人は、以下の流れで準中型免許の限定解除を行わなければなりません。
まずは、指定された教習所で、MTは4時間、ATは8時間の教習を受講します。教習後は卒業試験を受験し、合格した場合は免許試験場で視力検査などの適性試験を受験します。
そして、その後に限定解除交付手続きを行って初めて、限定解除が可能となるのです。
限定解除が不要な人向け
2007年5月31日までに普通免許を取得した人は、車両総重量8t未満、最大積載量5t未満、乗車定員10人以下の車両を運転することができ、免許証には「中型車は中型車(8t)に限る」と記載されます。
そのため、限定解除や新規の免許取得を行わずに、準中型免許で運転できる車両を運転することが可能です。
準中型免許を普通免許ありの人が取得する費用
準中型免許を普通免許ありの人が取得するには、前述の限定解除を行う必要があります。限定解除をするために必要な費用は、下記の通りです。
所持している免許 | 限定解除後に取得する免許 | 費用 |
準中型(5t)限定AT免許 | 準中型免許 | 約10万円 |
準中型(5t)限定免許 | 準中型免許 | 約7万円 |
上記の金額に加えて、免許センターにて解除の申請をする際に1,450円の手数料が別途必要となります。
それなりに費用はかかるものの、普通自動車免許の取得に比べるとかなり安い金額であると言えます。
準中型免許を普通免許なしの人が取得する方法
初めて運転免許を取得する場合は、自動車教習所に通ったあと、運転免許センターで試験に合格する方法が一般的です。
教習所に通う場合の、具体的な免許取得の流れは下記の通りです。
【指定自動車教習所】
- 指定自動車教習所に入校
- 適性検査を受験(視力・聴力検査など)
- 技能講習と学科講習を受講
- 技能終了検定(敷地内での運転試験)・仮免許学科試験を受験
- 仮免許証交付
- 技能講習(路上講習)・学科講習
- 技能卒業試験(路上での運転試験)
【運転免許センター】
- 適性検査(視力検査など)・学科試験を受験
- 準中型自動車免許証を交付
なお、教習の期限に関しては下記の規定が存在します。
- 教習期限:教習開始日より9ヶ月
- 卒業検定期限:全教習終了日より3ヶ月※その期限内に万が一教習が終了しなかったり、検定に合格しなかった場合はそれまでの教習が無効になる。
- 仮免許証の有効期間:6ヶ月
教習所に通学する場合は、上記の期限に関しても留意しなければなりません。
教習所での通常の受講以外にも、合宿形式での免許取得も選択肢の一つです。
合宿免許は、教習所の宿泊設備で生活しながら、短期集中的に運転技術を習得する方法です。コストパフォーマンスが良く、時間をかけずに取得したい人に選ばれることが多く、免許取得のプロセスは、教習所通学と大差はありません。
さらに、試験場での一発試験という選択肢もあります。
これは、自分で学習してから、試験場に直接申し込み、筆記と実技の試験を受ける方法です。合格すれば、教習所の料金を気にせず免許が取れますが、初心者には難易度が高いと感じられることが多いです。
このように、準中型免許の取得方法は「教習所」「合宿」「一発試験」の3つが考えられ、どの方法でも試験に合格すれば免許は手に入ります。
ただし、技能試験は最も難しい部分とされています。合宿や教習所での学習者は、同じコースを何度も練習するため、合格しやすいと言われています。しかし、一発試験では未知のコースでの運転が求められるため、他の方法と比べて難易度が高いと言えます。
従って、準中型免許の取得方法を選ぶ際は、これらのポイントをしっかりと考慮することが大切です。
準中型免許を普通免許ありの人が取得することに関してよくある質問
ここからは、準中型免許を普通免許ありの人が取得することに関してよくある質問に回答します。
普通免許を更新したら準中型免許になっていたけどなぜ?
2017年の法改正により、2007年6月2日~2017年3月11日の間に普通免許を取得した人は、自動的に5t限定の準中型免許になっているためです。
なお、この準中型免許はあくまでも5t限定の免許のため、5t以上7.5t未満の準中型自動車を運転する場合は、限定解除が必要です。
準中型免許を取るには普通免許を何年保有していればいい?
中型免許、大型免許を取得するためには、普通免許などを2年以上保有していることが条件ですが、準中型免許には保有年数の条件はありません。
そのため、準中型免許は18歳から取得することが可能です。
履歴書には普通免許と準中型免許のどちらを書けばいい?
2017年の道路交通法改正により、2007年6月2日~2017年3月12日の間で普通免許を取得した人は免許更新のタイミングで、それまでの普通免許が、「準中型車は準中型(5t)に限る」と記載された準中型免許に変更されます。
そのため、免許更新前に履歴書を書く場合は「普通自動車免許」、更新後に履歴書を書く際には「準中型自動車免許」と書きましょう。
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関連記事:準中型免許で乗れる車を一挙に紹介|限定解除の方法も解説
「準中型免許を普通免許ありの人が取得」に関するまとめ
今回は、準中型免許を普通免許ありの人が取得する方法について解説しました。
普通免許を取得していて、これから準中型免許の取得を検討している人は、本記事を参考にして、ぜひ準中型免許の取得に挑戦してみてください。