商業施設やマンションなどの施設には、火災に備えてさまざまな消防設備が設置されています。
災害発生時には、被害を最小限に抑える上で欠かせない設備となるため、確実に作動するように定期的な点検が法律で定められています。
これらの消防設備(消火器や熱感知器)の点検は「消防設備点検資格者」の取得者しかできません。今回は、消防設備点検資格者について解説します。
この記事でわかること ・消防設備点検資格者の詳細やお金事情 ・消防設備点資格者の合格基準や合格率 ・消防設備点資格者を取得する流れ |
消防設備点検資格者とは
消防設備点検資格者とは、住宅や商業施設など、さまざまな建物に設置されている、火災用設備を適切にチェックするための資格です。
元々は消防設備士が機器のチェックを行っていましたが、建物の数が増えると共に人材が不足したため、点検だけに特化した消防設備点検資格者が誕生しました。
火災用設備は、火災が起きてしまった際に正常に作動するよう、定期的な点検とメンテナンス管理が義務付けられています。
また、点検結果や記録に関して、消防機関への報告義務もあります。
・スプリンクラーや熱感知器といった、消防用設備を設置している建築物の場合、年2回の設備点検を行うこと。 ・特定防火対象物は1年に一度、非特定防火対象物は3年に一度、所轄の消防署へ点検結果を報告すること |
これらの消防用設備は、誰でも点検できるわけではなく「消防設備点検資格者」と「消防設備士」による点検が義務付けられています。
そのため、消防設備点検資格者になれれば、建物の保守やビル管理業務の仕事に就けるようになります。
また、消防設備を販売しているような企業には、自社商品の定期的な点検整備を行う部門があり、そういった場所でも役立てられるでしょう。
ここでは、消防設備点検資格者について、詳しい仕事の内容や種類を解説していきます。
仕事内容
消防設備点検資格者の主な業務内容は、消防設備の点検と報告です。
消防設備とは、建物内の決められた位置に配置された、消火器やスプリンクラー(熱感知器)が該当します。
点検では、設備ごとに定められた試験器具を使用します。
【消防設備の点検例・スプリンクラーヘッドの場合】 ・外形に損傷や変形、漏れなどがないか ・ヘッドの周辺に熱の感知を妨げるものがないか ・熱の感知を妨げる塗装等の異物が付着していないか ・ヘッドの周辺に散水分布を妨げるものがないか ・何かの支えや吊るためのものとして併用されていないか |
消火器の場合は、指示圧力計などに異常がないかを確認し、火災に関する受信機の作動を点検するのも、消防設備点検資格者の仕事です。
ちなみに、マンションで点検を行う場合は入居者の多い土日に行われることが多く、休みは平日が多くなります。
資格の種類
消防設備点検資格者は「第1種・第2種・特種」に分類され、普段の業務で動作チェックできる消防用設備の種類が異なります。
消防設備点検資格者の特種とは「特殊消防用設備」を適切に管理するために設けられています。
近年は、高層ビルや大きな空間を有する建築物といった、特殊な防火対象物が増加してきています。
特殊な防火対象物に設置する消火設備は、平成29年3月31日時点で64件の認定があり、これらを適切に管理・維持していくために、消防設備点検資格者・特種が設けられました。
参考元:消防設備点検資格者とは|一般財団法人 日本消防設備安全センター
関連記事:消防設備士とは?資格の種類と違いについて紹介します
消防設備点検資格者の1種と2種の違いとは
消防設備点検資格者の第1種と第2種は、動作確認できる設備のタイプが異なります。
・第1種:機械系統の消火設備
・第2種:電気系統の消火設備
特種に関しては前述した通り、加圧防煙システムといった特殊な防火対象物用の消火設備です。
第1種・第2種で動作確認できる具体的な消火機器の種類には、以下のようなものがあります。
【第1種の消防設備点検資格者】 ・消火器、簡易の消火用具 ・パッケージ型の消火設備 ・パッケージ型の自動消火設備 ・泡による消火設備、特定駐車場用の泡による消火設備 ・水噴霧消火設備、屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、共同住宅用スプリンクラー設備、屋外設置の消火栓設備 ・ハロゲン化物消火設備、不活性ガス消火設備、粉末消火設備 ・連結散水設備、連結送水管、動力消防ポンプ設備、消防用水、共同住宅用連結送水管、連結散水設備、連結送水管 |
【消防設備点検資格者・第2種】 ・誘導灯、誘導標識 ・避難のための器具・漏電火災の警報器 ・共同住宅用非常警報設備、加圧防排煙設備、非常警報器具、非常警報設備、非常コンセント設備、共同住宅用非常コンセント設備、排煙設備、無線通信補助設備 ・自動火災報知設備、ガス漏れ火災警報設備、住戸用自動火災報知設備、共同住宅用自動火災報知設備、複合型居住施設用自動火災報知設備、特定小規模施設用自動火災報知設備、消防機関へ通報する火災報知設備 |
消防設備士の場合、上の項目ごとで第1類から第7類に分類されています。
参考:消防設備点検資格者とは|一般財団法人 日本消防設備安全センター
消防設備点検資格者と消防設備士の違いとは
消防設備点検資格者と混同されがちな資格に消防設備士がありますが、違いとしては「消防設備に対する業務の種類」があります。
消防設備点検資格者は、スプリンクラーや消火器などの点検のみを行えます。
消防設備士の場合は、消防設備の保守作業や交換修理まで行うことが可能です。
そのため、消防設備点検資格者が設備の点検中に故障を発見した場合には、消防設備士を呼び作業してもらう流れとなります。
また、新たなスプリンクラーの設置なども仕事に含まれます。
消防設備点検資格者と消防設備士は、どちらも国家資格です。
ちなみに消防設備士は「甲種と乙種」に分類され、携われる作業が異なります。
・消防設備士の甲種:消防設備の整備・点検・交換工事ができて特類~5類に分かれている
・消防設備士の乙種:消防設備の整備・点検があり1~7類に分かれている
また、消防設備士の場合は、携われる消防設備士によって第1類から第7類に分類されています。
消防設備点検資格者の年収事情
消防設備点検資格者の平均年収は、350~500万円となります。
消防設備点検資格者を活かせる仕事としては、以下のようなものがあります。
・消防設備点検
・ビルや工場の設備管理
ビルや工場の設備管理は、消防設備だけでなく電気設備や機械設備も一緒に点検や整備を行います。
消防設備点検資格者とは別に「電気工事士」や「危険物取扱者」なども必要であるため、比較的年収は高めとなります。
そのため、将来的にキャリアアップをしたい方におすすめの仕事です。
当社、物流業界に特化した求人サイト「クロスワーク」をみると、実際に募集中の仕事として、以下のような求人がありました。
【消防設備の保守点検業務】 ・雇用形態:正社員 ・給与:月300,000円 ・免許:消防設備士、消防設備点検資格者・電気工事士、普通自動車運転免許 ・賞与:前年度実績あり(年に2回) ・休日:年間休日104日 ・勤務時間:8:30~17:30 |
中には想定年収が600万円を超える求人もあり、経験と知識を身に付ければ高い年収を目指すことも十分可能です。
消防設備点検資格者の合格基準と合格率
消防設備点検資格者は「 日本消防設備安全センター」が実施する講習を受講し、修了考査に合格すれば免状交付となります。
ここでは、第1種・第2種消防設備点検資格者講習の合格基準や、種類別の合格率について解説していきます。
合格基準
消防設備や法律知識の習得が目的となる講習では、講習後に修了考査(筆記試験)が行われ、科目免除の人も含め、全員が受験します。
試験の詳細と、各分野の合格ラインは以下のように決まっています。
・消防法令関係:8問 ・技術基準関連:12問 ・点検要領関係:12問各分野の正解率が5割以上であり、全体の問題数の7割以上正解で合格 |
修了考査は講習の3日目に行われ、テキストの持ち込みが許可されています。
第1種の合格率
消防設備点検資格者・第1種の修了考査の合格率は以下のように推移しています。
消防設備士に比べるとまだまだ認知度は低いものの、徐々に受講者数は増えてきています。
実施年度 | 2022年 | 2021年 | 2020年 | 2019年 | 2018年 |
合格率 | 96.3% | 95.9% | 94.6% | 94.3% | 93.6% |
受講者数 | 3,424人 | 3,316人 | 2,453人 | 3,103人 | 3,102人 |
参照:第1-1表 消防設備点検資格者講習実施状況|一般財団法人日本消防設備安全センター
第2種の合格率
次に、消防設備点検資格者・第2種の修了考査の合格率は以下のように推移しています。
実施年度 | 2022年 | 2021年 | 2020年 | 2019年 | 2018年 |
---|---|---|---|---|---|
合格率 | 97.9% | 97.3% | 96.3% | 94.9% | 97.2% |
受講者数 | 2,949人 | 2,986人 | 2,359人 | 2,622人 | 2,755人 |
消防設備点検資格者の修了考査は、種類に関係なく、テキストを見ながら解答しても問題ありません。
各分野の内容を暗記する必要はないものの、出題範囲はとても広く、その分テキストも分厚いものとなります。
限られた時間内で試験に回答していくには、講習で関連知識をしっかり学ぶ必要があると言えるでしょう。
ちなみに、消防設備点検資格者・特種の合格率は以下のように推移しています。
実施年度 | 2022年 | 2021年 | 2020年 | 2019年 | 2018年 |
---|---|---|---|---|---|
合格率 | 100.0% | 92.6% | 76.9% | 93.3% | 86.7% |
受講者数 | 21人 | 27人 | 13人 | 15人 | 15人 |
修了考査に落ちてしまった場合も、講習の終了後1年以内であれば、1回限り再受験が可能です。
特殊な構造の建物自体が少ないため、需要は多くないものの、年々受講者数は増加傾向にあり、合格率も高くなってきています。
参照:第1-1表 消防設備点検資格者講習実施状況|一般財団法人日本消防設備安全センター
講習を受けて消防設備点検資格者の免状交付を受けるまでの流れ
指定された登録機関での講習を、3日間に分け受けた後に修了考査に合格できれば、免状交付となります。
講習が受けられる機関については、安全センターの「講習実施予定」で種類ごとに記載されています。
免状交付までの流れは以下の通りです。
・受講の申し込み ・受講料の支払い ・講習の受講 ・修了考査 ・免状交付 |
各工程の具体的な流れについて、見ていきましょう。
受講の申し込み
まずは、受講の申し込みを行っていきましょう。
講習の実施日は講習を行う機関によって異なりますので、申し込みを行う期日に関しては、直接問い合わせて調べておくようにしましょう。
ちなみに、近くの機関が既に満員で受けられない場合は、別の機関に申込むことも可能です。
講習に関しては、誰でも受験可能というわけではなく、以下の受験資格のいずれかを満たす必要があります。
【消防設備点検資格者・講習の受験資格】 ・甲種、乙種の消防設備士 ・電気工事士(第一種・第二種) ・電気主任技術者(種類に指定なし)※電気事業法(昭和39年法律第170号)附則第7項により電気主任技術者免状の交付を受けているとみなされている人も該当 ・1級・2級の管工事施工管理技士 ・水道布設工事監督者の資格保有者 ・建築設備等の検査員または建築物の調査員(昇降機等の検査員、建築設備の検査員、防火設備の検査員) ・建築士(1級、2級どちらでも可) ・技術士の第2次試験に合格した者(電気・電子部門、機械部門、化学部門、衛生工学部門又は水道部門に係っていること) ・機関海技士(取得級に指定なし) ・建築基準適合判定資格者検定の合格者 ・消防用設備等・特殊消防用設備等の整備や工事の仕事で5年以上従事した経験がある ・消防行政の事務業務の中で消防用設備等に関連した仕事を1年以上従事した経験がある ・建築行政に係る事務のうち建築物の建築設備や構造に関する事務で2年以上従事した経験がある ・大学・専門学校・高等専門学校の電気、機械、工業化学、土木又は建築について学び、特殊消防用や一般的な消防用のの設備に関する工事・整備について1年以上の実務の経験がある者 ・高等学校・中等教育学校で電気、機械、工業化学、土木又は建築に関する学科を修めて卒業した後、消防用設備等又は特殊消防用設備等の整備や工事について2年以上の実務の実務経験がある者 |
受講申請に必要な書類に関しては、安全センターのHPよりダウンロード可能です。
申請書類の記入内容に関しても、日本消防設備安全センターのHPの「受講申請」で確認できます。
必要書類を送付して申請した際には、書類の内容を元に審査が行われます。
受験資格などを満たしており、審査を通過した人には「受講決定の通知書・受講票・受講料申込取扱票・テキスト引換券」が送られてきますので、失くさないようにしましょう。
受講の申請を行う際に必要な物は以下をご覧ください
・受講の申請書(日本消防設備安全センターのHPからダウンロード可能) ・受験資格に応じた証明書類(資格の免状、学校の卒業証明書) ・受講資格判定結果通知用の返信用封筒を1通 ・整理票貼付用と免状写真票用の写真2枚 |
条件や申請方法は変更される可能性があるため、受講を検討している人は安全センターの「第1種・第2種消防設備点検資格者講習」の内容について、事前に目を通すようにしましょう。
受講料の支払い
3日間開催される講習を受ける際に必要な費用は、2つの区分に分けられています。
・区分Aの場合:講習費32,300円+結果通知書の郵送料
・区分Bの場合:講習費30,300円・結果通知の郵送料
講習を受ける場合、作業経験などによっては受験科目が一部免除されます。
免除される科目によって区分が分けられています。
受験科目が免除となる条件の詳細は、日本消防設備安全センターの「受験科目の一部免除」に記載されていますので、確認するようにしましょう。
受講料の支払いは、通知で送付されてきた払込取扱票にて、郵便局かゆうちょ銀行で支払います。
講習の受講
3日に分けて開催される講習は以下の内容で進められます。
【講習1日目】
9時10~9時30分 | 講習の受付 |
9時30~9時40分 | 3日間の内容についての説明 |
9時40~10時40分 | 火災を防ぐための講習 |
10時50~11時50分 | 消防に関する法律の講習 |
12時40~13時40分 | 特殊消防用設備も含めた、設備の点検ルールについて |
13時50~14時50分 | 建築基準の法律に関する講習 |
15時00~17時 | 消火に使用される機器に関する基準、点検要領の講習 |
【講習2日目】
9時10~9時30分 | 講習の受付 |
9時30~11時30分 | 非常電源や配線、技術についての基準、点検の要領など |
12時20~15時20分 | 室内の消火栓設備・水噴霧消火設備・スプリンクラー設備・泡消火設備・屋外消火栓設備・連結散水設備・連結送水管・パッケージ型消火設備・パッケージ型自動消火設備の技術に関する基準、チェック要領の講習 |
15時30~16時30分 | 同上 |
【講習3日目】
9時10~9時30分 | 講習の受付 |
9時30~11時30分 | 不活性ガスによる消火設備・粉末消火設備・ハロゲン化物消火設備・動力消防ポンプ設備・総合操作盤・消防用水の技術に関する基準、点検要領の講習 |
12時20~14時20分 | 午前の講習の続き |
14時30~14時40分 | 修了考査実施についての説明 |
14時40~16時40 | 修了考査 |
受付時間は20分と決められており、いかなる理由であっても遅刻・早退・欠席は認められません。
受講日は交通機関などの情報を事前に調べて、遅れないように注意しましょう。
ちなみに、消防設備士は講習ではなく資格試験となりますが、上の講習で学ぶ内容も試験内容に含まれます。
そのため、将来的に消防設備士を取得したいと考えている方にもおすすめです。
修了考査
修了考査は全ての講座が終わった後に実施され、時間は120分となります。
試験の内容は3つのジャンルに分かれています。
・消防法令に関する内容:8問
・技術基準に関する内容:12問
・点検要領に関する内容:12問
実務経験などにより、科目免除がある人に関しても全員が受けます。
免状交付
修了考査の結果は、約1ヶ月後に通知が送られてきます。
合格の基準を満たしていた場合、免状交付の申出を安全センターに行います。
修了考査の結果通知書には、免状交付申請の期限が記載されていますので、遅れないように注意しましょう。
申請後、約20日ほどで免状の交付となります。
免状交付の際には交付手数料1,880円と免状郵送料434円で合計2,314円が必要です。
関連記事:【建設業界まるごと解説③】建設業の資格を取ろう!役立つ18の資格と効率的な勉強方法まとめ
関連記事:危険物取扱者とは?仕事内容や資格の取得方法を詳しく解説
関連記事:設備施工管理の仕事内容は?求められるスキルとやめとけと言われる理由について解説
消防設備点検資格者についてのまとめ
消防設備点検資格者は、スプリンクラー・消火器・火災受信機といった、消防設備に以上がないかを調べる必要な資格です。
消防設備はあらゆる施設に設置されているため、点検業務の需要は高く、消防設備点検資格者を取得することにより、転職やキャリアアップに役立てられます。
定期的に開催される講習を受けることにより取得可能です。これからビル管理業務や、建物の保守の仕事に就きたいと考えている人は、ぜひ取得を検討してみてください。
建設業界専門の転職支援サービス「建職キャリア」では、豊富な非公開求人の紹介や履歴書の作成サポートを無料でおこなっています。
建設業界でのキャリアアップを目指す方に最適なサービスです。転職を検討している方はお気軽にご相談ください。
建設領域のお仕事をお探しの方へ
建職キャリアは、建設業界に特化した転職支援サービスです。
- 希望条件に合う求人のご紹介
- 履歴書など書類作成のサポート
- 企業との条件交渉/面接日程の調整
無料でご利用いただけますので、ぜひご活用ください。
求人を検索する(無料)