契約社員や派遣社員など、有期契約で働いている場合、雇い止めによって職を失う可能性があります。
つまり、契約満了時に更新をせずに、そのまま契約解除となるのです。
しかし、中には雇い止めに対して異議を唱えたり、会社に対して裁判を起こす人がいます。
なぜそのようなトラブルに発展してしまうのか、雇い止めに違法性はあるのか、無効・撤回を求めるにはどうすればいいのか、詳しく解説します。
雇い止めとは:契約更新せずに契約を終了させること
労働期間に定めがある非正規雇用の労働者 (契約社員やパートタイム労働者、派遣労働者など) に対して、労働契約の期間が終了した際に契約の更新を拒むことを雇い止め言います。
最近ではコロナウイルスが大流行したこともあり、多くの業界で雇い止めが増えて社会的な問題となりました。
雇い止めをされたと聞くと、一方的に辞めさせられたようなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、雇い止めという行為自体は違法ではありません。
契約期間満了の30日前に会社側から対象の従業員に対して予告がされれば、契約はそのまま終了します。
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雇い止めと解雇の違い
雇い止めと同じようにとらわれがちな言葉として「解雇」があります。
解雇とは、契約更新時など関係なく会社側が一方的に労働契約を終了させることを言います。
そのため契約期間中でも解雇の可能性はあり、有期雇用契約ではなく雇用期間の定めがない正社員も対象です。
解雇となってしまう主な理由としては、経営不振による人員の削減や勤務態度の不良、経歴詐称などがあります。
このように解雇は契約更新時関係なく、行われるという違いがあります。
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よくある雇い止めの理由は3つ
それまで行ってきた契約更新をせずに終了する雇い止めは、さまざまなことが原因となっています。
勤務態度が原因による雇い止め
これまで契約を更新してきたものの、仕事に何度も遅刻してきたり職場の人たちとトラブルを起こしてしまうなど、勤務態度に明らかな不良がある場合、雇い止めの正当な理由として認められます。
一度の遅刻や、軽い小競り合い程度で雇い止めになる可能性は低いと言えますが、何度も繰り返したり、会社側の指示を無視し続けているような場合は、雇い止めにより契約終了となる可能性があります。
経営悪化による事業縮小が起きた
雇い止めとなる理由として最も多いのが、事業縮小によるものです。
不景気になるほど増加する傾向にあり、最近ではコロナウイルスが大流行したことにより多くの雇い止めが発生しています。
特定の業界に限らず、製造業や小売業、飲食業や宿泊業を中心に雇い止めが大量発生しました。
契約更新回数が事前に合意されている
初めて労働契約を結ぶ際に、更新回数に上限が定められていたりすることがあります。
また、契約更新時に次回以降は更新をしないといった告知があり、労働者が合意した場合も雇い止めの正当な理由として認められます。
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雇い止めの通告方法は2つ
企業が雇い止めを行う場合、事前に通告しなければなりません。
通告の方法としては、主に2種類あります。
面談
一番多いのが面談による通告となります。
会社の事情などを踏まえ雇い止めとなることを、契約が満了する一ヵ月前までに直接話して伝えます。
面談の際に、労働者が雇い止めに納得しなかったり不服とした場合に関しては、契約更新ができない理由について、公的に明記した証明書を企業側は準備しなければなりません。
書類
書類で雇い止めを通告する場合には、契約を更新しない理由を明記した「雇い止め通知書」を提示します。
この雇い止め通知書は公的な文書となるため、必ず労働者の名前や会社名、代表者印などに漏れがないようにし、後のトラブルを避けるために受領のサインをしてもらいます。
なお、こちらの通告方法に関して法的な決まりはないため、電話やメールなどの告知はほとんどありません。
ほとんどの場合、書面が別に用意されています。
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雇い止めに違法性はない
それまで更新が続いていたのに、急に更新しないとなると労働者が困るので雇い止めは違法だと思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。
ただし、労働者が困らないためのルールが定められており、1年以上雇用が継続している場合や3回以上契約が更新されている労働者に対しては、雇い止めの予告を30日前までに行う必要があります。
また、労働者からの希望があれば、企業側は雇い止めとなった理由を示す書類を遅延なく交付しなければいけません。
雇い止めの主な理由には、以下のものがあります。
- 事業縮小のため
- 担当業務が中止または終了したため
- 業務を遂行するための能力が十分ではないため
- 遅刻や無断欠勤など職務命令に対する違反があり、勤務不良であるため
- 契約締結時から更新回数の上限を設けていたため
- 前回の契約更新時に、次回の更新をしないと事前に通告があり、それに合意したため
このような理由に該当する場合は、基本的に労働者は雇い止めに従わなければいけません。
雇い止めは違法ではないものの、なるべく有期雇用労働契約をしている労働者を守るため、雇い止めを法的に制限することを「雇い止め法理」と言います。
雇い止め法理は、過去の最高裁判例を原理としてきており、労働契約法で定められています。
雇い止めの判断基準について
労働者との有期労働契約を締結する際には、3項目について明示する必要があります。
まず一つ目が「更新の有無について」です。
- 自動的に更新する
- 更新する場合がある
- 契約の更新はない
といった内容で、更新について明示します。
二つ目は「更新の判断基準について」です。
更新する場合がある、または自動更新がある場合はその判断基準を明示します。
- 会社の経営状況により判断する
- 労働者の能力により判断する
- 業務の進捗状況や成績により判断する
- 労働者の勤務態度によって判断する
- 契約期間満了時の業務量により判断する
例えば上記のような判断基準を設け、契約書に明記します。
三つ目に関しては、そのほかで留意すべき事項がある場合に明示します。
雇い止めの裁判事例に関して
雇い止めとは言っても様々な事例があり、その内容から厚生労働省は4つのケースに分類しています。
- 純粋有期契約:期間満了後も継続して雇用する合理的な理由がない
- 実質無期契約:業務内容が一時的なものではなく、無期契約と変わらない状態
- 期待保護(反復更新):継続して雇用される合理的期待があり、相当の反復更新がされている
- 期待保護(継続特約):継続して雇用される合理的期待があり、雇用契約締結時にその期待が生じている
この4つのケースについて、裁判事例を解説していきます。
純粋有期契約の裁判事例
純粋有期契約の場合、雇い止め法理の適用対象となりません。下記のような理由による雇い止めが有効となります。
- 更新回数が何度も繰り返されておらず、契約の通算期間も短い
- 契約上の地位が臨時的であり、仕事内容も一時的なもの
- 使用者と労働者の間で、期間満了時に契約終了となることを十分に認識している
- 契約更新の手続きが厳格に行われたもの
- 過去に同じような労働者で雇い止めが行われた事例が複数ある
『純粋有期契約の裁判事例』
大学の非常勤講師の雇用契約(1年)が20回にわたり更新されてきた後に、期間が満了したとして雇い止めとなった。
この雇い止めは、期間の定めのないものに転化しているとは認めにくく、期間満了後も雇用契約が継続するものと期待できる合理性がないとして、雇い止めは有効となりました。
引用:亜細亜大学事件
実質無期契約の裁判事例
実質無期雇用契約の場合、雇い止め法理の適用があります。
正社員とほぼ一緒と言える雇用状態であることから、雇い止めを行う場合には正社員に対する解雇理由と同等の正当性がない限り認められないと言えます。
- 業務内容が正社員とほぼ一緒の状態
- 過去に同じような地位での雇い止めが発生していない
- 更新回数が非常に多く、契約の通算期間が長い
- 更新手続きが行われていたものの、完全に形骸化している
このようなケースが、実質無期契約となります。
『実質無期契約の裁判事例』
電気機器などの製造販売を目的としている企業が、臨時工複数人に対し5回から23回にわたって労働契約を更新してきた。
その際の採用基準や就業規則は、正社員と異なる取り扱いがされているものの、仕事の種類や内容には全く相違がなく、希望退職者を除きほとんどが長期間に渡って継続雇用されてきている。
また、採用の際に企業は正社員への登用や長期継続雇用を期待させる言動があり、契約満了時に新契約締結の手続きも行っていなかった。
このような中で雇い止めが行われたものの、認められず労働者側の勝訴となった。
引用:東芝柳町工場事件
期待保護(反復更新)の裁判事例
雇い止めの法理が適用されることが特に多いもので、期間満了後も更新されると期待できるような合理的な理由が認められるようなケースです。
- 会社から契約更新を期待させるような言動があった
- 業務内容が恒常的で臨時ではないもの
- 契約の更新が多かったり、更新による通算期間が長い
- 過去に同じような地位での雇い止めがない
『期待保護(反復更新)の裁判事例』
NTTマーケティングアクトの契約社員6人は、5年~12年に渡り有期契約を更新する形で働いてきたものの、2015年5月に業務形態の変更を理由に雇い止めを通知された。
契約社員はこれに同意せず、同年9月に契約が一方的に打ち切られた。
契約期間中『ずっと継続雇用されるといった内容の説明を企業側から受けており、契約更新は形式的なものだった』と労働者は訴えています。
裁判の結果、契約の更新は長期間かつ多数回継続されてきており、更新を期待する合理的な理由があるとされ雇い止めの無効と合計2900万円の支払いを企業側へ命じました。
期待保護(継続特約)に関しては反復更新と似たような内容ではありますが、有期雇用契約の締結時に更新することが合意されているような場合が該当します。
期待ではなく、合意が企業側と労働者の間で合意が成立していたようなケースとなります。
雇い止め:労働契約法の無期転換ルール
急に仕事がなくなる雇い止めを少しでも無くし、雇用の安定に繋げるため2013年に「無期転換ルール」が設けられました。
その内容は、有期労働契約が反復更新され通算で5年を超えた場合、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約に転換することができるというものです。
例えば1年ごとに更新となっている契約の場合、5回目の更新後に無期転換ルールが適用となります。
契約期間が3年の場合は、一回目の更新時に無期転換へ申し込みをすることが可能です。
無期転換の申し込みが合った場合、使用者は断ることができません。
無期転換ルールは必ず申請しなければならないわけではないため、5年を超えたとしても申請しなければ有期雇用契約を続けることもできます。
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雇い止めされた際に無効または撤回を求める方法
ここまで雇い止めの判断基準や、雇い止めの法理について解説してきました。
実際に有期雇用契約で働いていて、不当な雇い止めを通告された場合、無効にしたり撤回を求めなければなりません。
ここではその方法について解説していきます。
雇い止めの理由に正当性があるか判断する
雇い止めは正当な理由がないと認められません。
正当な理由の評価については「客観的にみて合理性がある内容か」「社会的にみて相当がある内容か」で行われます。
これが雇い止めの法理となります。
雇い止め法理の適用となる証拠を集める
雇い止めの法理を適用させるためには、関連する証拠を集める必要があります。
具体的には下記のようなものが必要です。
- 更新回数やそれまでの勤続年数がわかるもの
- 更新を期待させるような事情があったとわかるもの
- 周りの雇い止め状況がわかるもの
- 仕事内容がわかるもの
- 契約更新手続きの内容がわかるもの
雇い止めの理由が不当な場合には下記のようなものを証拠として残しておきましょう。
- 会社が交付する雇い止め理由証明書
- 雇い止めが言い渡された際の音声データやメモ
- そのたチャットやメールにて雇い止めの理由について回答されたデータ
このような証拠をなるべく多く集めておくと、法的手続きの際に有利になります。
労働基準監督署へ相談する
雇い止めの法理に当てはまったり、不当な理由で雇い止めとなっているのに会社側が話を聞いてくれない場合には、労働基準監督署へ相談するといいでしょう。
違法行為があった場合には、会社側に対し指導などの対応をしてもらうことができます。
ただし、無効であるかを判断することはできないので、明らかに不当と言えない場合などは弁護士へ相談した方がいいでしょう。
労働審判の申し立てをおこなう
労働基準監督署へ相談しても解決しない場合、労働審判を申し立てることができます。
必要な書類は下記の通りです。
- 労働審判手続申立書1通
- 労働審判手続申立書の写し3通
- 証拠証明書1通
- 証拠証明書の写し1通
- 証拠書類
- 証拠書類の写し1通
- 郵便切手
- 会社の全部事項証明書
申し立ては「労働審判手続申立書」という書面にて行います。
この労働審判手続申立書の内容を元に、裁判官や労働審判員が心証を決定するのでなるべく申立書の作成は弁護士に作成してもらった方がいいでしょう。
労働審判にかかる費用は一般的に~35,000円ほどとなります。
これとは別に弁護士へ依頼する場合はその費用が発生します。
雇い止めでトラブルに発展した際の相談先|3選
雇い止めを告知され、本当に従うべきなのか自分だけでは判断できないといった場合、いくつかの相談先があります。
それぞれに相談できる内容などで特徴があるので、自分の現状に照らし合わせて相談先を決めましょう。
労働基準監督署
労働基準監督署は、労働に関する違法行為などに対し指導などを行います。
明らかに雇い止めが不当である場合は労働基準監督署へ相談しましょう。
雇い止めが不当かどうかを判断することはできないので注意が必要です。
労働条件相談ホットライン
労働条件相談ホットラインは、直接企業へ指導したりはできないものの、雇い止めが不当であるかどうかや関連の悩みなど、なんでも相談できます。
- 労働条件ホットライン:0120‐811‐610
- 受付時間:平日17時~22時・休日9時~21時
労働問題が得意な弁護士
弁護士は雇い止めの内容に違法性があるかの判断から控訴などを起こすことも可能です。
労働問題に詳しい弁護士も多くいるので、まずは相談から始めてみましょう。
相談に関しては、無料である事務所と有料の事務所があるので事前に調べておくといいでしょう。
雇い止めに備えて準備した方がいいもの
雇い止め自体は違法行為ではないため、会社の経営状況などによっては通告される可能性があります。
雇い止めにあっても生活に困らないために、なるべく事前に準備しておくべきことについて解説していきます。
健康保険や国民年金の手続き
有期雇用契約中に加入していた健康保険は契約解除と共に使用できなくなります。
このような場合、下記のような3つのケースから選び手続きを行います。
- 契約解除前に加入していた社会保険の任意継続
- 国民健康保険の被扶養者になる
- 国民健康保険に加入する
社会保険の任意継続に関しては、資格喪失日の前日までに2か月以上被保険者であったことが条件となり、20日以内に健康保険組合に必着で申し出を行わなければなりません。
厚生年金に関しても国民年金へと切り替わります。
手続きなどは必要ないのですが、急な雇い止めで支払いが難しい場合などは、免除や・猶予制度を利用するといいでしょう。
保険料の免除や猶予が認められた期間に関しては、納付しなくても年金の受給資格期間に算入されます。
ただし、年金額を計算する場合に免除となった期間の金額は保険料を収めた時の半分になります。(平成21年3月までの免除期間は3分の1)
3〜4ヶ月分の生活費を用意しておく
雇い止めの告知は最短で、30日前となります。
新しく自分にあった仕事を見つけるには、時間がかかるため転職活動時に必要な生活費をなるべく貯めておくようにしましょう。
あくまでも一般的なものとはなりますが、転職活動をはじめて働き始めるまでには約2ヵ月ほどかかると言われています。
なるべく3ヵ月~4カ月分の生活費を貯めておくのが理想と言えます。
どうしても生活費が貯められなかったり、余裕がないという場合は、働きながら転職活動を進めておくようにしましょう。
最近では多くの転職サイトがあり、業界や職種に特化しているサイト、待遇や条件ごとで求人を検索することも可能です。
転職エージェントでは、専門のキャリアアドバイザーなどにアドバイスをもらいながら一緒に転職活動を進めることもできます。
雇い止めをおこなう際の注意点
企業側で経営方針の理由で雇い止めを行う場合には、注意しなければならないことがあります。
雇い止めを行う際のルールについて解説していきます。
事前に予告をする
雇い止めをする場合、正当な理由が必要であり、事前に予告しなければなりません。
遅くとも30日前までには告知しなければならないと、労働基準法第20条で定められています。
違反した場合、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される恐れがあるので、注意が必要です。
雇い止めの理由を開示する
雇い止めを行う場合、あらかじめ契約の締結時に更新の判断基準を記載する必要があり、更新をしない場合はその旨も明記しなければなりません。
契約期間に気をつける
有期雇用契約の更新を1回以上行い、更に1年以上継続して雇用を続けている場合、次の更新では労働者の実態や希望に応じて契約期間をなるべく長くしなければなりません。
契約期間の上限は3年であり、下記のような条件を満たす場合には5年にすることもできます。
- 専門的な知識などを有している労働者の場合
- 満60サイ以上の労働者の場合
この他にも、更新を繰り返し通算の労働期間が5年を超える場合、更新時に無期転換ルールが申請される可能性もあります。
労働者側から無期転換への申請があった場合、企業側はこれを拒否することはできません。
雇い止めに関するまとめ
非正規雇用の労働者である限り、雇用どめの対象となる可能性はいくらでもあります。
無効または撤回を求める方法を知っておくことはもちろん、防げなかった時のために生活費の確保や、健康保険・国民年金の手続きについてきちんと理解を深めておくことが肝要と言えます。
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