初めてもしくは他の業種からトラックドライバーを目指す方にとって、まず中・大型の免許を取得することが必要不可欠となります。これは入社してから取得することを認めている会社もあります。
トラックの運転の知識の他にも「車両の整備」というとても大事なことも同時に学んでいくことになります。
点検・整備は道路運送車両法により義務づけられています。トラックの点検・整備は普段乗り慣れている普通乗用車とはだいぶ様子が違ってきます。
トラックの点検・整備は普通乗用車より厳しい内容になっていますので、普通免許を長く所持している方も気持ちを新たに点検と整備について学ぶ姿勢が求められます。
トラックにおけるトラブルは事故となった場合に及ぼす社会的影響は計り知れません。未然に防ぐ意味でもトラックの点検・整備には大きな意義があります。
ここではトラックの点検・整備についての基礎知識や工具などを解説していきます。
トラック整備の種類
まずトラックの点検・整備においては法定点検と車検があり、混同されている方もいるかもしれませんが内容と目的には違いがあります。
法定点検は車が不備なく走れるか確認するもの。車検は道路運送車両法に定められる保安基準に適合しているかを検査する制度となります。トラックの車検は1年毎とされています。
点検・整備は運行前に実際に車両を運転するドライバー自身が点検・整備を義務づけられている日常点検整備と、3ヵ月・6ヵ月のように一定の期間ごとに義務づけられている定期点検整備に大別されます。
毎日自分で点検・整備するか定期的に他人の目も含めて点検・整備するかという違いはありますが、どちらも重要なことですので、点検・整備内容はきちんと把握しておきたいですね。
日常点検整備(運行前点検)
運送会社の職場では朝の点呼と並び必ず行われるのが、出発前のトラックドライバー自身による運行車両の日常点検・整備。運行前点検・整備とも呼ばれます。
- タイヤの摩耗や空気圧、亀裂・損傷、ホイールの取付具合といったタイヤ周り
- ライト・方向指示器の点灯・点滅・球ギレ
- ブレーキ液残、空気圧力、ブレーキの踏みしろ・効き、駐車ブレーキの引きしろ
- エアタンクの凝水といったブレーキ周り等
出発前の限られた時間の中で目視でチェックできる程度の点検・整備で難しいものではありませんが、実際に車を動かす者が点検・整備する習慣は責任感を持たせるためにも大事なことです。
国土交通省がホームページで公表しているトラックの日常点検整備に関するチェック項目についての詳細はこちらから確認・ダウンロードすることができます。
定期点検整備
国内で登録・運行される車両は全て道路運送車両法の規定により定期的な車検に合格する状態を維持することが義務付けられています。
そのために車検期間より短い間隔で定期点検整備の実施は義務付けられています。しかし定期点検整備の場合は車検と違い実施しなくても罰則規定はありません。
義務なのに点検・整備をやらなくても罰則無しって何か不思議な感じがいたしますね。
業務用トラックと自家用大型トラックは3ヵ月点検、自家用の小・中型トラックは6ヵ月点検の対象となります。車検はともに1年です。普通自家用車(車検2年・定期点検12ヶ月)と違って点検・整備の規定が厳しいのがわかりますね。
定期点検・整備は日常点検・整備より点検項目が大幅に増えます。業務用トラックや自家用大型トラックの場合、3ヵ月点検では50項目、自家用の小・中トラックの6ヵ月点検では22項目の点検が行われます。
定期点検項目は車両のほぼ全てを網羅しており、業務用のトラックの場合は3ヵ月点検は点検整備士が複数人で対応しても1日では終わらないのが普通です。それだけ厳しくチェックされているということになります。
トラックの定期点検整備項目ならびに点検・整備全般の詳細は公益社団法人全日本トラック協会のホームページで確認することができます。こちらをご参照ください。
関連記事:大型トラックの整備士ってどんな仕事?仕事の流れ、給料、必要な資格を一挙公開!
トラックの整備をするメリット
乗用車と違い、毎日長時間の走行が当たり前であり数十年の運用をするトラックの場合、整備を行うメリットはいくつかあります。
正しく整備を行うことでどのような運用メリットがあるのか見ていきましょう。
事故などのトラブルを防止できる
国内で起きている交通事故はとても多く、その中に事業用トラックが関係しているものもあります。
事業用トラックが関連する交通事故の特徴としては、致死率が最も高いということです。
車両が乗用車よりも大きいため、ちょっとしたミスが大事故に繋がる可能性があります。
そんな事業用トラックの交通事故ですが、よそ見などの油断の他にも駆動系装置のトラブルが原因で起きているものが多くあります。
ブレーキドラムの摩耗やかじ取り装置の故障、排気管の腐食による出火、クリップナットが緩んだことによりボルトが折れてしまい走行不能となった事例などがあります。
このような多くの事例は突然起こるものではなく、少しずつ劣化が進みそれに気づかなかったことが根本的な原因であり、日常点検を正しく行えばほとんど防ぐことが可能です。
信用度を上げることができる
輸送に関する損失には、急ブレーキなどによる破損や荷降ろし中のトラブルがありますが、最も大きな損失のリスクを含むのが交通事故です。
そのため運送業者はもちろん、荷主側にとっても絶対に避けたいトラブルとなります。
頻繁に事故を起こしていたり、車両の管理ができていない会社と点検をしっかりと行っている会社では、どちらに依頼をするかは考えるまでもありません。
日常的に点検を行い記録に残すことは、リスクの軽減だけではなく会社に対する信用度を大きく向上させることが可能です。
運用コストの節約が可能
点検整備を行うには多少の手間がかかり、必要に応じて備品の交換が必要となります。
毎日行う必要があることからも、忙しかったり費用がかかるからとおろそかにしている会社もありますがそんなことはありません。
確かに備品の交換や点検に必要な人材・人件費は必要となりますが、故障前に対策するのに比べ、故障後の修理は圧倒的に費用がかかります。
またそれで事故を起こした場合にかかる費用は、点検にかかる費用とは比べ物になりません。
その中には、信用度が落ちたことによる依頼の減少などもあります。
また、事故を起こさなかった場合においても、修理に時間がかかりその間車両の運用ができないことによる損失が発生してしまいます。
このようなリスクを軽減できるのが日常の点検となります。
環境保全につながる
全国で走っているトラックは多くの排気ガスを排出しており、大気汚染の一因となっています。
温暖化防止など、環境保全が急務となっているのですが、排出ガス規制適合車への変更などの他にも、タイヤの空気圧をチェックしたりすることで燃費を良くすることが可能です。
他にも燃料フィルタの定期的な交換やエア・クリーナーの点検や清掃などをすることで環境保全に繋がります。
また、このような取組に参加することで、会社に対するイメージや信用を上げやすくもなります。
関連記事:整備管理者の仕事内容や取得条件、給料などについて紹介!
トラックの日常点検整備のチェックポイント
トラックが停止している状態の点検・整備中でも事故が起きることがあります。
点検・整備を開始する前の注意事項は基本所作の徹底です。通常の業務時(積込み・荷降ろし等)とすることはほとんど一緒です。
●点検・整備は平坦な場所で行う
●タイヤに輪止め
●パーキングブレーキ・ギヤニュートラルの確認
●エンジン停止・スターターキーの抜き取り
●走行直後は避けエンジンが冷えてから行う
少し大がかりな点検・整備になり点検設備や人員、時間、専門的な知識・技術が必要になるため、多くの運送会社は国の認証を受けた整備工場に依頼していることが多いようです。
道路運送車両法第49条においては、点検の結果と整備の概要を点検整備記録簿として一定期間保存することが義務付けられています。3ヵ月・6ヵ月点検の対象車両は点検整備記録簿は1年間の保存となります。
注意したいのが点検整備記録簿を保存・保管する場所で、必ず対象車両内に備え付けることになります。決して事務所や車庫内を保管場所としてはいけません。
点検整備記録簿を保存することで過去の点検整備の記録を確認することができたり、消耗部品の交換時期の判断の参考になります。自動車の維持管理に役立つものなので紛失や記録忘れのないようにしましょう。
日常点検整備を行う際の注意点
日常点検を行う際にはいくつかの注意点があります。
まず、日常点検を行う場所ですが必ず平たんな場所で行うようにして、タイヤには輪止めをするようにしましょう。
エンジン部分などは走行直後に点検を行うと火傷をしてしまう可能性があるため、必ず冷えているかを確認しましょう。
エンジンルームなどでは特に、ペンなどを落とさないように気をつけ、タオルなどお置き忘れには注意します。
走行中に何かしらのトラブルが発生した場合、焦っているのもあり、パーキングブレーキをかけ忘れるなどして二次災害が発生する事例も起きています。
点検はもちろん、異常を点検する際は安全な場所で行うことを心がけましょう。
関連記事:大型トラック整備士はきつい?給料は?あなたの知りたいを徹底解説!!
大型トラックの車検整備について
トラックを運用する上で欠かせない整備が車検整備です。
トラックの車検整備出はまず外周の目視を行い、ワイパーの調整やライトの点灯確認をします。
エンジンルームに関しては以下のような点検項目があります。
・点火装置
・排気ガス
・エンジンオイルの量や漏れの有無
・バッテリー、電気配線
・冷却装置
・燃料装置の漏れ
・公害発散防止装置
・ベルト類
この他にも室内の点検や足まわりの点検、下回りの点検などが行われます。
また車検整備の期間ですが、乗用車と違い中型や大型トラックの場合は一年ごととなります。
車検整備の費用ですが、普段の点検をこまめにやっているかで費用は変わってくるのですが、一般的に20万円~ほどになります。
関連記事:トラックの日常点検はどんなことが必要?方法や点検項目を徹底解説!
トラックの日常点検整備に使える工具
日常車両の点検整備に使用する工具は特別なものは必要ありません。ただしトラック等の大型車両はパーツ自体が大きいため、点検・整備に用意する工具もそれなりのものが必要になることがあります。
点検・整備に使う代表的な工具をご紹介していきます。
ドライバー
日常でもよく使われる工具の一つで、誰もが一度は使ったことがあるでしょう。ネジを回す工具として先端がプラスとマイナス形状の2種類が代表的です。
先端のサイズや長さ、グリップ部分の種類がいろいろあり用途に応じて使い分けをします。中には先端部分だけ差し替えて使えるものもあり、一本で数本分のドライバーの仕事ができる種類があります。
ソケットレンチ・トルクレンチ
レンチはボルトやナットを締め付けたり緩めたりする工具です。
同じような役割の工具として「スパナ」がありますが、両者を差別している特徴は先端がリング状になっているのがレンチ、解放されているのがスパナと言えばわかりやすいでしょうか。
レンチにもいくつか種類があり、ソケットとハンドルがセパレートになっていて状況によって組み合わせ方を変えて使えるものをソケットレンチと呼んでいます。
ナットの締め付ける力に細かい指定がある場合には、トルクレンチと呼ばれる締め付ける力のメモリがついているレンチを使い、数値として確認することができます。こちらは自動車やバイク整備のように決められたトルクが重要な状況でよく使われます。
スパナ
レンチと同様にボルトやナットを締め付けたり緩めたりする工具です。
両端にサイズ(ナットの口径)の違う口を備えた両口スパナと呼ばれるものが一般的で、ボルトやナットの横方向から挿入することができます。
スパナは2面で挟む締め付け・緩めとなるためボルトやナットの角を傷めやすいので、仮締めのような作業に適しています。
タイヤ交換に必要な工具
タイヤは車において最も消耗が激しいパーツと言えましょう。交換の頻度も多いです。
トラックは1台に使用するタイヤの数も多く交換するのは簡単ではありません。
どのような工具が必要になるのでしょうか?
ジャッキ・タイヤレバー
タイヤを交換するには車両本体を地面から浮かさなければなりません。
車体を持ち上げたり支えたりするために「ジャッキ」と呼ばれる工具が活躍します。ジャッキアップという言葉がよく使われるので聞いたことがあると思います。
ジャッキには「機械式」「油圧式」「空気(エアー)式」と3つのタイプに大別されますが、一般車両に付属しているようなパンタグラフのような形状のものは機械式です。
現在は使い方が簡単な「油圧式」が多く使われています。
ジャッキに加えてもう一つタイヤ交換でよく使われる工具が「タイヤレバー」。これはタイヤをホイールから脱着するような時に用います。
先端のヘラ状の部分をタイヤとホイールの隙間に入れテコの原理で外していきます。タイヤをホイールに装着する時もタイヤ全周を重ねていくようにタイヤレバーは活躍します。
力任せに無理にやるとホイールを傷つける可能性があるので注意しましょう。
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トラックにおける整備の必要性
年間に発生するトラックの事故のうち数件は点検・整備を怠ったことに起因しています。走行中にエンジンから煙が出たとかタイヤが外れたとか・・・
過去には走行中に外れて転がったタイヤが歩行者を直撃し死亡事故となった痛ましい出来事もありました。
大型トラックのタイヤが転がってきたら、力士やプロレスラー、ラグビーの選手でさえ無事では済まないでしょう。
こういう悲惨な事故を防ぎ荷物が滞ることなく全国に届けることができるよう、トラックドライバーや歩行者がともに安心できる社会を保つためにも、トラックには厳しい点検・整備が義務付けられているのです。
しかし点検・整備の実施が義務なのに罰則規定が無いため意図的に点検・整備をやらないトラックドライバーや運送会社もあります。
そういうトラックを見つけた場合、警察はトラックに対し即時に改善命令と車両の運行停止命令が可能です。
業務中に運行停止命令を受ければ、例え荷物を積んだ状態でもその場で業務中止となり荷物を運ぶことができなくなります。また、何かあった時にメーカー保証も整備不良を理由に受けられなくなることもあります。
経費を浮かせようとした点検・整備をしなかった代償はかえって高くつくことになります。
整備不良が原因で事故にでもなれば社会的な影響も大きく、保険の支払いにも影響があるため会社の存続とトラックドライバーの人生、そして被害にあった方それぞれが不幸になる。
それを考えたらトラックを走らせるための最低限のプロ意識として、定期的な点検・整備は実施しなければなりませんね。
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トラックに異常があった場合について
自分だけで修理しない
日常点検整備や定期点検整備を行う中で、何かしらの異常が見つかった場合ですが、対処方法がわからないときには絶対に自分だけで判断して修理しないようにしましょう。
トラックは精密な構造で製造されており、走行性能に大きな影響を及ぼす足まわりやエンジン部分は、運転手の命にも関わります。
必ず近くの整備工場に点検を依頼するようにしましょう。
トラックの整備を行えるのは一級大型自動車整備士であり、整備士資格を持っていれば誰でも見ることができるというわけではありません。
周りを歩き回らない
また、定期的な点検整備をしている場合においても、走行中に何かしらのトラブルが起きる可能性があります。
もしトラブルが発生した場合、故障箇所が気になるとは思いますが絶対に周りを歩きまわらないようにしましょう。
駐車場などに停車できた場合で安全が確保できていればいいのですが、路肩に駐車した場合には後続車と接触したりする可能性があります。
停止表示器材を設置する
また、ハザードランプを点灯させた上で、必要に応じて発煙筒を着火させ停止表示器材を設置するようにしましょう。
ここまでの作業ができた後は、安全な場所へ避難して警察やレッカー車が到着するのを待ちます。
関連記事:トラックのオーバーヒートが起きてしまったら?対処法と防止策を知ろう!
トラックの整備についてのまとめ
いくら点検・整備をきちんとしていても、自動運転でない限りは結局は運転するのは人間です。肝心の運転する者の心身のコンディションが整っていなければ、それも整備不良と一緒。
トラックは仕事をするための道具であり相棒です。道具を大事に手入れしておくのは当然であり、法律だから仕方なくという受け身の姿勢は運転職のプロフェッショナルとしては失格です。
世のため人のため、そして自分のためにトラックの点検・整備を欠かさず習慣付けましょう。
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