2024年問題は、物流業界において深刻な影響を及ぼすことが予想されています。
長時間労働が常態化している現状から、労働時間の短縮によって生じるドライバー不足や運送コストの増加など、さまざまな課題に直面している物流業界は、2024年問題にどのように対応するべきなのでしょうか。
本記事では、2024年問題の具体的な影響、物流業界が2024年問題を簡単に解決できない理由などについて解説します。
2024年問題が物流業界に与える変化|6選
まずは、2024年問題が物流業界に与える変化を6つ解説します。
ドライバーの拘束時間が変わる
2024年問題が物流業界に与える変化の1つ目は、ドライバーの拘束時間が変わることです。
法律の改正により、ドライバーの労働時間には下記の通り変更が生じます。
これは、運送業界全体でドライバーの長時間労働を抑制し、より健全な労働環境を構築することが目的です。
結果として、ドライバーはこれまでより短い時間での勤務が求められるようになりますが、それに伴う業務の効率化やシフトの見直しなど、運送業務の在り方自体も変化する可能性があります。
この変化は、ドライバーの健康や生活の質の向上に寄与する一方で、業界全体の人手不足問題の解決や運送コストの増加など、新たな課題を生じさせる可能性も秘めているのです。
ドライバーの収入が下がる
2024年問題が物流業界に与える変化の2つ目は、ドライバーの収入が下がることです。
2024年問題の背景にある労働時間の規制強化によって、ドライバーの拘束時間が短縮されるため、時間給や日給で働くドライバーの収入は減少する可能性が高くなります。
一方で、時間短縮による生産性の向上や、労働環境の改善による労働効率の向上が、収入減少をある程度補う可能性もありますが、短期的にはドライバーの収入に影響が出ることは避けられないでしょう。
そのため、業界全体での新しい働き方の模索や、収入源の多様化などが求められる時期が到来していると言えます。
物流が停滞する
2024年問題が物流業界に与える変化の3つ目は、物流が停滞することです。
2024年問題の影響でドライバーの労働時間が制限され、特に長距離を運送するドライバーは1日あたりの運行時間が短くなることが予想されます。これにより、運送可能な荷物の量が減少し、結果として運送業界全体の効率が落ちる可能性があります。
また、労働時間の短縮に伴い、運送会社はより多くのドライバーを雇用するか、運送ルートの再編成を行わなければなりません。これらの措置にはコストがかかり、利益率の低下につながる恐れがあります。
さらに、時間に制約されることで、緊急の配送依頼など柔軟な対応が難しくなり、顧客満足度の低下に繋がる可能性も考えられます。
これらの変化は、物流業界全体のビジネスモデルに再考を迫ると同時に、新しい物流技術や効率化の手法に対する投資を促進することも考えられます。しかし、短期的には、労働基準法の改正によって物流業界・運送業界の売上が下がるという影響が予想されているのです。
物流業界・運送業界の売上が下がる
2024年問題が物流業界に与える変化の4つ目は、物流業界・運送業界の売上が下がることです。
2024年問題の影響でドライバーの長時間労働が制限されると、運送可能な荷物の量が減少し、それに伴い業界全体の売上が下がる可能性が指摘されています。
また、運送業界の売上減少は、緊急の配送要求への対応が困難になり、配送時間の遅延が発生することが想定されます。これにより、顧客満足度が低下し、長期的なビジネスの成功が困難になるのです。
このように、2024年問題は物流業界において売上の低下を引き起こす一因となりうることが指摘されており、業界にとっては大きな挑戦となるでしょう。
運賃コストが上がる
2024年問題が物流業界に与える変化の5つ目は、運賃コストが上がることです。
特に長距離の配送において、ドライバーの稼働時間は業務を遂行する上で重要な要素です。しかし、2024年問題の影響で労働時間の制限が厳しくなれば、以前と同じ配送量を維持するためには追加の人員や車両が必要になり、結果として運送コストの増加に繋がるのです。
また、新たな人材を確保し、訓練するためのコストも増大するでしょう。さらに、配送の効率化やシフト管理の見直しにも追加のリソースが必要になり、これらすべてが運送コストの上昇要因となります。
この運送コストの上昇は、結果的に運賃の上昇にもつながる可能性があり、物流業界における価格競争力にも影響を与えることが懸念されます。これらの変化に対応するため、運送会社は効率的な運送計画の策定やコスト管理の強化など、さまざまな対策を講じる必要があるのです。
運送の委託条件が制限される
2024年問題が物流業界に与える変化の6つ目は、運送の委託条件が制限されることです。
現状では、多くの運送業者が長時間労働に依存している部分があるため、2024年問題の影響で運送の委託条件が制限されると、運送契約の見直しを余儀なくされることになります。
つまり、委託業者は、ドライバーが法定の労働時間を超えないようなシフト計画を立てる必要があり、これが配送スケジュールやコストに影響を与える可能性が高いのです。
結果として、運送業界全体の運送効率やサービス品質が向上する可能性もありますが、短期的には運送の委託条件の変更による影響が業界に波及することが予想されます。
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2024年問題が物流業界に与える影響
2024年問題とは、2024年に施行される働き方改革法案によって、労働時間の上限設定や、時間外労働の規制強化が行われることで生じる問題の総称です。
働き方改革法案は、労働者の過重労働を防ぎ、ワークライフバランスを改善することを目指していますが、長時間労働が常態化している業種に大きな影響を与えることが予想されています。
ドライバーの労働環境
2024年問題の発端は、ドライバーの労働環境の改善でした。
運送業界では、長時間労働が常態化しており、ドライバーたちは厳しい労働条件の下で働いていました。この状況を改善するため、2024年に労働関連法の改正が予定されており、労働時間の上限設定や時間外労働の規制強化が主な内容となっているのです。
出典:知っていますか?物流の2024年問題|全日本トラック協会
ドライバーの労働力
しかし、この法改正により、結果的に多くの物流業者がマイナスの影響を受けることとなりました。
なぜなら、法改正の影響で長時間労働が制限されると、運送業界では労働力不足が顕著になる可能性が高く、労働システムや人員配置の見直しなど、企業には多くの対応が求められることになるからです。
特に、物流業界には中小企業が多く、対応に必要なコストを支払う体力のない企業も多いため、多くの物流業者が苦しむことになっています。
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物流業界が2024年問題を解決できない3つの理由
続いて、物流業界が2024年問題を簡単に解決できない理由を3つ解説します。
ドライバーの1ヶ月の拘束時間が現実的でないから
物流業界が2024年問題を簡単に解決できない理由の1つ目は、ドライバーの1ヶ月の拘束時間が現実的でないからです。
物流業界では配送の需要が常に高く、特に繁忙期には24時間体制での稼働が求められることも珍しくありません。そのため、ドライバーの労働時間が極端に長くなりがちで、月間の拘束時間が法定労働時間を大幅に超えることも少なくないのです。
実際に、厚生労働省の調査では、月の労働時間が274時間を超える事業者は全体の3割となっており、その中でも月間320時間を超える事業者は 2.4%もあります。
そのような環境で労働時間を法定時間内に収めるためには、ドライバーの数を増やすか、配送の効率化を図る必要がありますが、ドライバー不足の問題や配送の効率化には限界があります。
加えて、顧客の要求する納期の厳守や急な配送要求に柔軟に対応するためには、ドライバーの拘束時間を増やすことが不可避な場合もあり、これが物流業界における2024年問題の解決を難しくしているのです。
出典:自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)|厚生労働省
仕組み上、労働時間を短縮できないから
物流業界が2024年問題を簡単に解決できない理由の2つ目は、仕組み上労働時間を短縮できないからです。
物流業界は、顧客からの緊急の配送要求や、交通状況による遅延など業務上の不確定要素が多い業界です。しかし、同時に運送スケジュールや納期の厳守も求められるため、それらに対応するために従業員に過度な労働を強いる場合が少なくありません。
そのため、物流業界は長時間労働を前提とした業務体系となっているのです。
また、物流業界は、商品の流通や配送に関わるため、経済活動全体と密接に関連しています。一部の業務時間を短縮すると、それが物流全体の効率低下や配送遅延に繋がりかねないため、労働時間の短縮は慎重に検討されなければなりません。
さらに、ドライバー不足が深刻化している現状では、既存のドライバーに負担が集中する傾向があり、労働時間の短縮が現実的に難しいという状況もあります。
したがって、物流業界にとって2024年問題の解決は、単に法規制を遵守するだけではなく、業界全体の業務プロセスの再構築が必要となる大きな課題と言えるでしょう。
そもそも問題だらけだから
物流業界が2024年問題を簡単に解決できない理由の3つ目は、そもそも問題だらけだからです。
物流業界が2024年問題を簡単に解決できない背景には、業界固有の複数の問題が絡み合っていることも大きな要因です。
例えば、ドライバー不足という深刻な問題があります。若い世代のドライバーが不足しており、現役ドライバーの高齢化が進んでいます。また、労働条件の厳しさや賃金の低さが業界への新たな人材の流入を妨げているのです。
さらに、配送業務の効率化を図るためのITシステムや機器の導入も必要ですが、これには時間とコストがかかります。加えて、顧客からの厳しい納期要求やサービスの質の向上を求められる中で、労働時間の短縮や作業の合理化を実現することは困難です。
これらの問題は相互に影響し合っており、一つの問題を解決しても他の問題が残る状況です。
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2024年問題:物流業界ができる対策|3選
続いて、2024年問題に向けて物流業界ができる対策を3つ解説します。
労働環境の見直しと改善をする
2024年問題に向けて物流業界ができる対策の1つ目は、労働環境の見直しと改善です。
この取り組みには、シフト制度の再構築や、休憩時間の確保、さらには業務の効率化を図ることが含まれます。例えば、配達ルートの最適化により運行時間の短縮を目指す、または配送管理システムの導入によって作業負荷を軽減するなどです。
また、ドライバーの健康や福利厚生の向上も重要です。定期的な健康診断の提供、ストレスマネジメントのための支援プログラムの導入、休暇制度の充実などが考えられます。ドライバーが仕事とプライベートのバランスを取りやすい環境を作ることで、仕事の充実感と職場への満足度が向上し、結果的に人材の確保と定着に繋がります。
このように労働環境の見直しと改善により、物流業界は持続可能な成長を目指すことができるのです。
DXで業務効率化をする
2024年問題に向けて物流業界ができる対策の2つ目は、DXによる業務効率化です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、最新のデジタル技術を活用して業務の自動化と最適化を図ることを意味します。
例えば、人工知能(AI)を用いたルート計画システムを導入することで、配送ルートの効率を向上させることが可能です。これにより、運転時間の削減や燃料消費の低減が可能となり、結果的にドライバーの労働負担を軽減することができます。
また、荷物追跡システムや輸送管理システムの強化により、リアルタイムでの輸送状況の把握や運送計画の調整が容易になります。これによって、荷物の紛失リスクを減らし、顧客満足度の向上を図ることが可能です。さらに、ドローンや自動運転車のような新しい配送技術の導入も、将来的な業務効率化の手段として注目されています。
このようにDXを積極的に取り入れることで、物流業界は2024年問題への対応だけでなく、長期的な競争力の向上を図ることが可能となるのです。
M&Aをする
2024年問題に向けて物流業界ができる対策の3つ目は、M&Aです。
M&A(企業の合併・買収)を通じて、企業はリソースの統合や効率化を図り、業界全体の競争力を強化することが可能になります。例えば、小規模な運送会社が大手企業と合併することにより、より広範囲のネットワークを利用できるようになり、顧客に提供するサービスの質が向上します。
また、業務リソースの共有により、車両や人員の効率的な配置が可能になり、運送コストの削減や労働環境の改善を図る事も可能です。
さらに、異なる専門性を持つ企業間のM&Aは、新しいビジネスモデルの創出や革新的なサービスの提供を促進します。例えば、IT企業との連携により、最新のテクノロジーを活用した物流ソリューションを開発することが可能になり、市場での差別化を図ることができます。
M&Aによる事業統合や協業は、2024年問題を解決し、より強固なビジネス基盤を築くための一策となるでしょう。
2024年問題:物流業界の対策事例
続いて、実際に行われた2024年問題に対する物流業界の対策事例を3つ紹介します。
中継輸送による労働時間の削減
2024年問題に対する物流業界の対策事例の1つ目は、中継輸送による労働時間の削減です。
中継輸送とは、長距離輸送を複数のドライバーで分担することで、一人当たりの運転時間を減少させる戦略です。例えば、東京から大阪までの輸送を行う際に、名古屋でドライバーを交代するような形です。
この中継輸送の導入により、ドライバーは長時間の運転による疲労蓄積を避けられ、それに伴う健康リスクや事故のリスクも低減されます。また、労働時間の短縮により、ドライバーの生活の質の向上や、働きやすい労働環境の構築も可能になります。これは間接的に、ドライバー不足の解消にも繋がるでしょう。
さらに、中継輸送の導入は、各ドライバーが得意とする地域や路線での運転に集中できるため、輸送の時間短縮や燃料コストの削減にも寄与する可能性があります。
このように、中継輸送による労働時間の削減は、ドライバーの労働環境改善だけでなく、物流業界全体の効率化にも貢献する対策として、注目されているのです。
チルド販売物流の配送ルートをAIで効率化
2024年問題に対する物流業界の対策事例の2つ目は、チルド販売物流の配送ルートをAIで効率化することです。
AIは膨大な量の配送データから交通状況、天候、荷物の量や種類など複数の要因を考慮し、リアルタイムで最も効率的な配送ルートを計算します。そのため、このシステムを導入することで、ドライバーの運転距離と時間を削減し、ドライバーの疲労蓄積を防ぐことが可能です。
また、配送効率の向上は、燃料消費の削減やCO2排出量の低減にも寄与し、環境面でのメリットも期待できます。さらに、AIによる最適化は配送遅延の削減や、より迅速な配送を実現するため、顧客満足度の向上にも繋がります。
このように、AIを活用したチルド販売物流の配送ルート効率化は、ドライバーの働きやすい環境を作りつつ、ビジネスの競争力を高めるため、物流業界における2024年問題の解決策の一つとして期待されているのです。
M&Aで株式譲渡
2024年問題に対する物流業界の対策事例の3つ目は、M&Aで株式譲渡です。
小規模または中規模の物流企業が、より大きな企業グループに株式を譲渡することで、個々の会社が抱える労働力の制約や運営コストの問題を、グループ全体の資源を効率的に活用して解決することが可能になります。
例えば、複数の企業が合併することで、ドライバーや車両の共有、効率的な配送ルートの計画などが可能になり、運送コストの削減に繋がります。
また、大企業の一部となることで、小規模企業は経営の安定性を高めることも可能です。これにより、資金調達の容易さや信用力の向上、競争力の強化など、企業成長に必要な様々なメリットを享受できるようになります。
このように、M&Aを通じた株式譲渡は、2024年問題に直面している物流業界において、リソースを効率的に活用し、持続可能な経営基盤を築くための有効な手段となっているのです。
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2024年問題と物流業界についてよくある質問
ここからは、2024年問題と物流業界についてよくある質問について解説します。
1ヶ月の残業時間はどれくらいになるのか?
2024年の法改正により、時間外労働の上限は年間960時間に設定されます。そのため、月の残業時間の上限は、単純計算で80時間となります。
2024年問題で年間最長960時間になりますが、違反した事業者はどうなりますか?
2024年の法改正による上限規制に違反した事業者に対しては、6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
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2024年問題と物流業界についてのまとめ
今回は、2024年問題は物流業界にどう影響するのかについて解説しました。
2024年問題に悩む物流業界の事業者は、本記事を参考にして、ぜひ2024年問題を乗り越えていけるような対策を実行してみてください。